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08 騎士隊の間者






「んー!!」


 縛られながらも必死に暴れようとする男に、クリフはさらに影の締め付けをきつくする。


「シェリル。下がって」

「シェリル様。私の後ろに」

「う……うん」


 私はルースの後ろへと周り、ちらりと男を見た。


「ちょうど良い。こいつに話してもらうか」

「シェリル様はちょっとこっちを向いてください」

「え!? 何やるかぐらい見せてよ」

「……薬を使うのですよ。あまり見るのはオススメしません」

「怖くなったら見ないから」


 私が見ているせいかフィランダーはやりにくそうにしながら、スラックスのポケットから薬を取り出し、その男に飲ませる。


 なるほど。自白剤か。


 使った事はなかったけど、前世の騎士研修の時に習ったのを思い出した。






「うぐっ」

「さぁ全部飲んだな?」

「……」

「ここに居る仲間は何人だ?」

「……さ……三人」

「そんなにか……誰だ?」

「……もう話すかよ」

「誰だ?」

「………………副隊長……あと下っ端。でも残念だったな。副隊長は風魔法使いだ。今下っ端達は外回り。すぐに風で知らせて自分もとんずらするだろうよ」

「なるほど。風魔法使いか。有益な情報が入ったな」


 男は「しまった」とばかりに顔を歪める。


「グレン。騎士名簿はあるか?」

「あ、はい。ここに」


 隊長はすぐに紐でくくってある書類の束をフィランダーに差し出した。


「うん。よく記録してあるな。この副隊長の推薦とやらを拾っていけばいけそうだ。こいつは仲間か?」


 フィランダーは書類の名前を見せながら男に問う。


「……」

「違う様だな。次、こいつは?」


 何人かの名簿を見せたあと、ようやく口を開き、間者全員の名前がわかった。






「二人ともスタートレット領の出身だな。しかもバラバラに入隊して同郷の者と混ぜて入ってきてる。……紛らわすためだな」


 間者の名前を聞いた隊長は愕然とした。


「……将来有望と期待していた二人です。書類仕事も出来るからたまに頼っていました」

「って事は、改ざんも可能だった訳だ。グレン。数字は苦手だったか?」

「少し」

「はぁ。取られている可能性もあるか。領館で引っかかっていないという事は巧妙か、出て行った領館の幹部連中が担当していた可能性があるな」

「領館の人達、仕事が増えそうね」

「覚悟していた事だったからね。でも以前よりは仕事がしやすくなってるはずだから大丈夫だろう。……ところでシェリル。……俺のこんな姿みても……引かない?」

「……もう分かっていた事だし」

「シェリル……俺の女神!!」


 抱きつこうと駆け寄ってきたが、今は仕事中。

 私はフィランダーに手を向け「待て」をした。


「ここで醜態見せないの。ここには間者もいるのだから。隊長さんも固まってるよ」


 フィランダーのあまり出した事のない声に隊長は驚き、目を丸くして固まっていた。


「……んっん。グレン。仕事を」

「あ……はっ……はい」


 咳払いをしてフィランダーは隊長に仕事を促した。






 隊長とトミーが確認した結果、フィランダーに報告がない店が五軒もあった事が分かった。


「食料品の卸業者、薬屋、魔道具屋、武具屋、それと酒場か。……娼館がないのが気になるけど……これだと食料品とかもかすめ取られてる可能性もあるか」

「面目ありません」

「少なくともツーベルの商業ギルド同盟に間者がいるって事が分かった。それだけでも大きな収穫だよ。……というかヘインズ領全体に紛れ込んでいる可能性が高くなった。領都の商業ギルド同盟にもいるかもな」

「かなり厄介な事になりましたね」

「あ。もうそろそろ訓練が終わる時間です」

「そうか。副隊長は報告にくるのか?」

「えぇ。いつも大体時間通りに」

「部屋に入ってきたところを抑えよう。俺達は一旦隠し通路に隠れていた方がいいな」


 すぐにフィランダーは上を見上げて命令する。


「クリフ、サミー。どちらかが魔法で入ってきたところを拘束してくれ」

『『はっ』』

「デリックは他に怪しい者がいないか確認してくれるか?」

『はっ』

「じゃあ、俺達は隠し通路の中へ」






 私とフィランダー、ルース、ネル、セリーナと天井に潜んで居た間者の男六人で隠し通路に入って副隊長が来るのを待った。


『若。怪しい者は居ませんでした。天井は奴一人だった様です』

「分かった。デリック、副隊長が入ってきたら教えてくれ。そのあとまた天井を警戒」

『はっ!』


 息を潜めて待つ事数分。


『来ました。副隊長です』


 その瞬間緊張感が高まる。

 皆で壁に耳を当て、様子を伺う。すると小さいが声が聞こえて来た。


「失礼します」


 そのあとドアを閉めた音がすると「うぐっ」とうめき声が聞こえる。拘束に成功した様だ。壁だったところがスライドして動き、目に光が入る。そこには隊長が立っていた。


「どうぞ」


 そう言って私達を中へと促した。






 中に入ると、水で拘束された男が転がっていた。サミーがやったのだろう。口には水の猿ぐつわを着けられている。必死に破ろうとするが水でできているからか溺れそうになっていた。


「あまり暴れない方が良いよ。余計苦しくなるからね」


 フィランダーは冷えた声で男を諭す様に言う。


「天井に居たネズミ君に話を聞いたんだよ。ほら」


 ルースが間者の男を副隊長に見せる。

 すると全てを悟ったのか、暴れるのを辞めた。





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