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16 事の顛末

主人公視点に戻ります。




 ※





 次の日。


「ん……」


 私はむくりと起き上がると頭がクラクラしてしまい、ゆっくり元の枕へと倒れた。


「あれ……馬車に乗ってから……」


 どうなったんだっけ?


「あ、シェリル様。お目覚めですか?」

「セリーナ……今何時?」

「今は昼でございます」

「昼……あー!!」

「大丈夫です。本日は若お一人で行くとの事です」

「え……でも」

「本来は若だけで十分なのですよ。シェリル様が無理する事はないのです。昨日はそうじゃなくても疲れる出来事がありましたから、今日は安静になさってください」

「……これくらいで倒れて情けない」

「いいえ。昨日の出来事を聞きましたが、普通の人でも卒倒しそうなくらいの事でしたよ。ご無事でホッとしました」

「セリーナ……」

「まずはお食事でしょうか。食欲はおありですか?」

「食べる」

「では用意致します」


 セリーナが部屋を出て外にいたルースに声を掛けた。恐らく風魔法でニールに伝えるのだろう。戻って来たセリーナと一緒に食事を待っていると、なんとニール本人が運んで来た。






「ニール特製スープでございます」

「ニール。……そういえば久しぶりね」

「あまり顔出しませんからね。俺もシェリル様の事心配でしたし、良い機会だと思って」


 そう言ってトレーに乗ったスープを私の前に差し出した。


「ありがとう。……美味しい。王城の料理より美味しいのよね、ニールの料理って」


 今世で食べた料理の中でニールの料理は群を抜いていた。しかし一番は前世で食べた王城の料理だ。


「シランキオ人の師匠でしたからね。シランキオの料理はどれも美味しいのですよ。テナージャの料理はどちらかというと大味なものが多いんですよね。美味しくないとは言いませんが、シランキオほどではありませんね」

「そっかぁ……」

「でもヘインズ領の料理は美味しいと思いますよ。素朴ですが食べ易いのですよ」

「へぇ……楽しみ」

「シェリル様は本当に食べるのお好きですね」

「……食い意地張ってるって言いたいの?」

「俺は食べるの好きな人歓迎ですから嬉しいですよ。貴族令嬢は見栄えが良くないだの、野菜が美味しくないだのうるさいですから」

「それは……イーディス様?」


 ニールはコクリと黙ってうなずいた。






 結局私は三日間寝込み、その後も安静にと医者に言われてしまい、お詫び行脚に行く事はなく申し訳ない気持ちになった。

 しかしフィランダーはそれを即座に否定した。


「いや、来なくて良かったよ。シェリルがいると俺に強い事を言えないから返ってよかったみたい。俺がシェリルを盾にしてるんじゃないかって疑われたよ」

「あら。じゃあこってり絞られたのね」

「うん。とりあえず無事終わったから良かったよ。それにシェリルの事を心配していた人が多かったな」

「私を?」

「先日の騒ぎは皆知ってるからね。身体が弱いって事も知ってるから大事ないかって」

「よく倒れるから心配しないで良いのに」

「いや! それ誰でも心配するからね!」


 フィランダーは私に突っ込んだあと、なぜか真面目な表情になる。

 私が心の中で首を傾げていると、彼は口を開いた。






「あの三人の冒険者なんだけど、詳しく調べると魅了に掛かった状態だったんだ」

「魅了?」

「うん。冒険者の女と話してそうなったらしい」

「女?」

「冒険者ギルドに確認してもらったらそんな女は居なかったよ。この領の複数人の若い女性に声を掛けていた様で……シェリルを笑っていた女性達皆、魅了にかかっている事が分かった」

「え……それって……」

「あぁ。うちにまた余計な事をしようとしている奴らの仕業だよ」


 ふと脳裏に蔑んだ女性達の姿が浮かぶ。


「じゃあ……あの蔑みは……?」

「魅了にかかってた女達は俺の結婚にはショックだったらしいんだけど、概ね祝福してくれたそうだよ。多分魅了でそうなる様に光魔法使いが指示したんだろう」


 魅了を使えるのは光魔法使いのみ。


 確か特徴は、金か桃色の髪か瞳を持っているってクルー先生が言ってたっけ?


「彼女達は大丈夫なの?」

「片っ端から捕まえて魅了を解く魔道具を使って解いたよ。領都の住人全員確認したからもう大丈夫」

「よかった……」

「こんな事になると思ってなかったよ。まさか領民まで手を出すとは……」

「その……魅了を使った女は? 捕まえたの?」

「冒険者()の女は王都へ続く門から出た事までは確認が取れているんだけど……それ以降の足取りが掴めていないんだ。おそらく味方に闇魔法使いが居るんだろう」


 足取りが掴めないというのは不自然だ。

 王都はこの国でもっとも栄えている場所。という事は目撃者も必然的に多くなるはずだ。

 そうなると途中で変装したか、誰かの力を借りてその場から移動したとしか考えられない。

 痕跡を残さず移動出来る手段は影から出入り出来る闇魔法しかない。

 となると、怪しい家は限られてくる。







「……スタートレット家?」

「かもね。でも断定は出来なかった」

「そう……とにかく領民達が無事で良かった。……三人の冒険者は……どうなるの?」

「魅了にかかっていたとはいえ、やった事は消せないから……一定期間Cランクへ降格とヘインズ領への入領禁止にさせてもらった。まぁ三ヶ月くらいだし。彼女達も仕出かした事の大きさに比べたら、軽い刑だって言ってたよ」

「それも良かった。……もし魅了にかかってない場合はどうなっていたの?」

「その場合冒険者ギルドからの追放と、ヘインズ領への入領を一生禁止」

「え……」

「ランクが上がると貴族からの依頼が増えるからある程度の礼儀作法を身につけるのが決まりなんだよ」

「礼儀作法ね……バーナビー見てるとあまりそうとは……」

「あぁ。バーナビーは衝動的に突飛な行動はあるけど、本来はしっかりしてるんだよ。言葉遣いは荒くても対応出来ていれば良いから」

「なるほどね」


 一先ず、魅了が解けた事は良かった。

 だけど、どこの家が仕掛けた事なのかは分からない。

 恐らくこの先も仕掛けてくるつもりだろう。


 やっぱり……狙いは私だ。






「シェリル」


 フィランダーの言葉で現実に戻る。


「な……何?」

「シェリルには俺がいるでしょう?」

「は?」

「ネルもセリーナもルースもいるし、うちの使用人達は皆シェリルの味方だよ。シェリルじゃなくても、スタートレット家以外の令嬢を妻にしたらこうなっていたかもしれない。だから……シェリルの護りを徹底的に強化するからね」

「強化……って?」

「色々。そのためにペンダントも強化したんだから」

「……呪い度が増した気がするだけなんだけど」

「そんな事ないよぉ。定期的にチェックするからね。魔力の残量次第で防御壁が弱くなる可能性もあるから……」

「せめて外せる様にしてよ……」

「だーめ」


 何だかんだフィランダーのペースに乗せられて、自分が狙われているという恐怖がうやむやになり、そのあとぐっすり寝れたのだった。




 


次で四章は終わりです。

もう少しお付き合いください。

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