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12 魔道具ギルド支部長

サブタイトルに支部長をつけ忘れましたので訂正しました。





 一日目のお詫び行脚を終え、私はとりあえず夕食も食べずにベッドに横になった。そのまま寝てしまったそうで、気づいたら次の日の朝だった。


「またやっちゃった……」


 するとタイミングよくネルが中に入ってきた。


「おはようございます。調子はどうですか?」

「大丈夫……だと思うけど……」

「では念のため、回復と治癒をかけさせてください」


 かけて貰うと、少し身体が軽くなった。


「ありがとう、ネル。ちょっと疲れてたみたい」

「今日はやめましょうか?」

「ううん。熱はないから行く。今は早朝?」

「はい。少し早いですが仕度しましょうか」


 今日は慌ただしく朝食を済ませ、街へ行く準備をした。……私が早く起きて先に朝食を済ませてしまったので、フィランダーはショックを受けた後慌てて食べたらしい。


「おはようシェリル。出来れば朝食の席で会いたかったよ」


 私と会うなり駆け寄ってきたフィランダー。

 まるで大好きな飼い主に擦り寄る犬の様だ。


 ……正直大型犬が寄って来たと思って身構えちゃった。


「また夕食を食べ損なったから早く行きたかったの。それに準備もあったし」

「準備か……なら仕方ないか」


 納得してくれた様でホッとした。







 今日はまず魔道具ギルドの支部長の商会へ向かう。

 中に入ると、一階は冒険者用の武器を中心に展示してあった。


「ようこそ、お越しくださいました。私が会頭をしているドウェインと申します」

「久しぶりだな、ドウェイン」

「フィランダー様こそお久しぶりです。手紙ではやりとりしておりましたが……奥方様にご挨拶もせず申し訳ございません」

「いいえ。シェリル・ヘインズと申します」

「ドウェイン会頭。今まで騎士団を改善出来ず、済まなかった」

「申し訳ございませんでした」

「……次期領主様の言葉、確かに受け取りました。お金の援助をしてくださった事には感謝しております。ですが、それ以上に早く騎士団を何とかして欲しかったという気持ちもあった。……やっと改善してくれてありがとうございました。……シェリル様」

「はい」

「襲われたシェリル様には申し訳ございませんが、そのお陰でこの街が平和になったのは事実です。私からお礼申し上げます」

「結局私自身は何もしておりませんよ」

「いいえ。シェリル様が来てから、この街は良い方向へと変わりました。……あまりこの街にシランキオ人は来ないので、どの様な人なのか不安もありましたが……シェリル様がこのヘインズ領に来てくださって心から嬉しく思います」


 お詫びの挨拶が済み、今度は店の中を見せてもらった。

 

 




「この商会では主に魔法付与された武器を販売しておりますが、二階には魔法付与されたアイテムも置いてあります」


 今いるのは二階の応接室だ。

 応接室を出て、少し歩いたところにアイテムの展示スペースが現れた。


「こんなに……これ、シランキオ人でも使えるのですか?」

「はい。ものによっては魔力を消費して使うものもありますので、魔力が入っていればという条件付きですがね」

「……やっぱりシランキオ人にはお売りにならないという事でしょうか?」

「とんでもない! 寧ろ売りたいくらいですよ。……ですが、ある商会から圧力があってなかなか表立って宣伝出来なかったという事情がありまして……」

「圧力? どこの商会だ?」

「元騎士団長様のご実家ですよ」

「……あそこか」







 元騎士団長の実家とはハストン商会の事である。会頭は子爵であり、かなりの影響力のある人だった。ここに睨まれた者はもうこの国で出店も出来ないというほど。魔道具ギルド長ではなかった様だが、優秀な付与師がいたのか無視できない存在だったのだ。


「ただ先日、騎士団長だった男が監獄行きになったでしょう? それをきっかけにあまり客足が良くないそうで」

「あら。そっちに影響出てるのね」

「やはり身内が監獄行き……しかも次期領主の妻を襲ったというのは大きな醜聞でしょう。あちこちの支店が閉店しているそうですよ」

「ふーん。良い事じゃないか」


 ハストン商会は人を選ぶ事でも有名な商会だ。特にテナージャ人を最優先する。私は王都にある外観を見た事があるのだが、下品だったのを覚えていた。


「あそこ……私シランキオ人だから入れなかったのよね」

「その商会が眉唾をばらまいたのですよ。シランキオ人は魔道具が使えないと」

「えっ!?」

「そういう事だったのか」

「なので来るものも来ないという訳です」


 それがシランキオ人の冒険者にも影響し、テナージャ人、テナーキオ人の冒険者もそれを信じてしまった。その結果、ますますシランキオ人はテナージャ人が治める領には立ち寄らなくなったという事だ。


「魔道具ギルド長はテナージャ人ですから……異を唱えなかったのです。表立っては言えませんが腹の底ではそう思っているのでしょう」


 やはり隔たりはちょっとやそっとではなくならない様だ。







「でも私はこれを機にシランキオ人にも売りますよ! 貼り紙も用意しました」


 そこには「シランキオ人歓迎」と大きく書いてあった。


「これなら入ってくれそう。目印になるし」

「ただ……領に来てくれないと意味ないのですよ」

「そっか……。魔道具ギルドの方ではどうなの? シランキオ人に魔道具を売りたがっている人はいる?」

「居りますよ。渋っているのは一部のテナージャ人だけです」

「なら、議題に取り上げる事は出来ない?」

「それは……難しいでしょうね。取り仕切っているのはテナージャ人なので……」

「貴方だけじゃなくて他の領の支部長を巻き込んで提案してみても?」

「あ……そうですね。ただ……それだけだと弱いですね」

「うーん……これは陛下もご存知なの?」

「陛下が!? それは分かりませんよ。こんな事までいちいち報告には上げないでしょう」

「なら……フィランダー。お義父様は陛下とも話せる立場よね?」

「ん? ……まぁ、王国騎士団長だし」

「お義父様からこれを陛下に伝える事は出来ない?」


 すると二人は目を見開き私を見る。まるで魚の目の様だ。


「もしかしたら、陛下も勘違いしているかもしれない。これが嘘だと分かれば……」

「かなりお怒りになって……え!?」

「もしかしたら、ギルド長にも責任が問われる可能性があるわね。ギルドは辞めなくてもギルド長を理解ある人に交代を仕向ける事が出来れば……シランキオ人が魔道具を使える環境を作れる……かもしれないわ」

「シェリル……まさか……」

「使える人材は使うに限るんじゃない?」

「……うん、そうだな。久々に父上に頑張ってもらおう」

「それにこれは重大な事よ。命がけで働いている冒険者に対して申し訳ないわ」

「確かに。シランキオ人の冒険者の方もおりますから……それに他の領を行き来するシランキオ人達にも防衛のために持ってもらいたいですよ」


 魔道具が必要な人は国民全員と言っても良い。

 魔獣はシランキオの土地でも現れるのだから、持っておいて損はない。


「早速帰ったら父に報告しよう」

「ありがとうございます!」


 ドウェインは嬉しそうに微笑んだ。



 

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