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10 鍛冶ギルド支部長






 酒場をあとにし、次は向かったのは鍛冶ギルドの支部長の商会だ。

 その道中、私達が練り歩くのを見ていた女性達から嫉妬の視線が突き刺さるのを感じた。


 あからさまだなぁ。


 だからなのかフィランダーの手はずっと私の肩にあり、まるでバカップルの様だ。


「シェリル。体調は平気?」

「え……大丈夫」

「念のため、次の目的地に着いたら回復魔法をかけるよ」

「お世話かけます」

「初っ端から思い掛け無い話を聞いたから疲れちゃったでしょ?」

「まぁ……だけど興味深い話だったよ。あまりお祖父様の話は聞いてなかったし」

「……それについてはあとで言うよ。一応知っといて欲しいし」

「まだ秘密があったんだね」

「うっ……まぁそれは言う機会がなかっただけだよ」

「そういう事にしておきます」


 別に知らなくて良い話なら良いけど、ご家族の話くらいは知りたかった。でも病気で二人ともって……そのくらいの年に伝染病って流行ってたっけ?


 ふとフィランダーを見ると威圧を女性達に飛ばしていた。それに女性達は気づいたのかゆっくりとその場を離れる。


 これで治れば良いんだけど……治らないだろうなぁ。


 そんなことを思っているうちに目的地に到着した。







 商会に入る前にフィランダーが回復魔法をかけてくれた。


「シェリル、こっち向いて」


 フィランダーに言われて呼ばれた方に身体を向けると、私の身体が水に包まれた。しばらくするといつもの様にポンポンと水が弾けて消えた。


「やっぱり結構疲れてたんだ。無理しないでよ」

「あんまり疲れて気がしなかったんだけど……」

「……シェリルは自分の事には鈍いのかな?」

「そうかも」


 商会の中にまだ入っていないというのに、カンカンとリズミカルな音が響いていた。騎士の一人が商会に入り声を掛けると、弟子と思われる青年が現れた。


「あ、次期領主様ですか?」

「そうだ」

「お待ちしておりました。どうぞお入りください」


 青年は慣れた様に応接間に通してくれた。


「今、親方を呼んできますのでこちらでお待ちください」


 にこやか対応してくれた青年はその場をあとにした。






 しばらく待つと、恰幅の良い大柄の男が入って来た。


「おう。待たせたな。ヘインズの坊主」

「お久しぶりです。ジョナスさん」

「立派になったなぁ。……そっちは噂の奥さんか?」

「はい。私の妻です」

「お初にお目にかかります。シェリル・ヘインズと申します」


 彼は目下の人ではあるが、フィランダーの対応を見て目上の人への挨拶に変える。

 すると彼の眉が中心に寄った。


「……坊主。そっちの趣味が……」

「今年で十八になる妻です」

「……本当か?」


 あ……胸ないから、子どもに間違えられた……と?


 私がジト目で見ると、ジョナスは慌て始めた。


「いや! その……顔が思っていたよりも若かったからな。深い意味はねぇよ!」

「……そうですか」


 童顔なのか。私は。


「ジョナスさん。とりあえず、席に着いたらいかがです?」

「そ、そうだな。うん」


 彼はどかっと音を立てて椅子に座った。








「この度は、長年に渡る騎士団の横行を止める事が叶わず、ご迷惑をかけた事をお詫びしに参りました」

「本当に申し訳ございません」


 フィランダーと私が謝ると、ジョナスは真剣な表情で私達を見た。


「……俺がこのヘインズ領に来たきっかけは、お前だ坊主。ちっさいガキがうちの領を助けるために来てくれないかと懇願しに来た事は、今でも覚えている」

「ジョナスさん……」

「騎士団の横行はその当時からあったもんな。それでも俺には僥倖だった。元いたところの領主はこちらの言い分を何も聞いちゃくれねぇ。こっちに移って、騎士団の事はあっても、元いたところに比べりゃ天国だった。商会もこんな大きくなったしな。騎士団の被害は金で裏から補填してくれたりしていたのは知ってるし……うちとしてはその謝罪を受け入れるよ」

「ありがたいお言葉です」

「だがな。鍛冶ギルド支部長として言っておく。お前の行動は他の商会や領民に対しては迷惑この上ない事だ。金で解決出来ると思うな。心を病んだ奴だって居るんだ。お前にはそいつらが復帰出来る様働き掛けて欲しい」

「……承知しております」

「ん。……お貴族様は大変だな。邪魔だから出ていけが出来ねぇんだから」

「もっともです」


 フィランダーに対しかなり気さくな人だと思ったが、小さい頃からフィランダーを見ているなら息子みたいなものだったのかな。

 こちら側の事情も知ってるみたいだし。


「んじゃついでに、うちで注文していけ。他のとこに行った時も何かしら金を落としていけよ」

「はい」


 これで謝罪は済んだ様だ。






「あ、シェリル。もし良ければ剣造ってもらおうか」

「私の?」

「嬢ちゃん。剣握るのかい?」

「あ……私木剣しか握った事がなくて……力もそんなに無いですし……」

「ちょっと手を見せてくれ」


 私は手の平を上にして両手を見せると、ジョナスはニヤリと笑った。


「嬢ちゃんにしてはやるじゃねぇか」

「……実戦では使えませんよ」


 この前は歯が立たなかったし。


「いや、相手によるだろ。新米なら嬢ちゃん並みの戦士もいるし。嬢ちゃんは軽い剣が良いな。軽い剣は振りやすいから重宝するし、ギリギリまで軽い剣って造りたかったんだ。俺のために一つ注文してくれねぇか?」


 ニッと笑っていうジョナスに私は縦にうなずくしかなかった。





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