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31 ウォーレン

タイトルを見て「誰?」って思う方もいるでしょうが、読めば分かります。


 私は三日間寝っぱなしだったが、目覚めてすぐ歩けたので問題ない……と思っていた。けれど、長距離を歩く事に支障が出たため、しばらく散歩をして過ごす事に。


 起きてから一週間後。ようやくその機会は訪れた。


 地下の牢屋に行く事になり、皆で階段を下る。

 ユーインとトミーが先頭に立ち、その後ろにフィランダーと並んで歩く私、最後尾には私の侍女三人がいた。


 地下に到着するとそこは薄暗い空間だった。地下を管理をしている男が私達に挨拶すると目的地へと先導する。

 壁にかろうじてある燭台に灯るわずかな灯りを頼りにゆっくりと先へ進む。

 牢屋なはずなのに、まだ牢屋が見えてこない。なぜなのか問うと今向かっているのは牢屋ではなく、罪を犯したのか曖昧な者を入れておく待機部屋なのだという。


 部屋に着き管理人の男が鍵を開けると、扉を開けて私達を中へと入れた。鍵はユーインが預かり、管理人は元いた場所へと戻って行く。






 部屋の中を見ると案外広く、一人用のベッドにソファーと机まであった。私が目を丸くしていると、フィランダーから説明を受ける。


「ここは貴族も入る事があるからこの設備なんだ」


 この部屋の名前は待機部屋。

 罪人と疑わしい人を待機させるための部屋なのだそう。


「間違って牢屋に入れる訳には行かないからね。……まぁそれでも誤って牢屋入れてしまう事もあるんだけど」


 フィランダーの説明が終わると、私はこの部屋にいる男に目を向けた。

 ストレートの長い銀髪に柔和な印象の紫の瞳を持つ男は、銀色の無精髭を生やしているせいか、本来の歳より上に見える。全体的には線が細く、座っている足を見ると長く見える事から長身である事が伺えた。


 男はベッドに腰を掛けて座っている。

 手枷や足枷はつけていない。 

 ただ気になったのは目に覇気がない事だった。






 男はユーインに促されソファーの一番奥の席に座った。その横にはユーイン。対面には私とフィランダーが座った。私は目の前の男に目を合わせて自己紹介する。


「私はシェリル・ヘインズ。貴方は?」

「……ウォーレンと申します。領都でバーを経営している者です」

「バー……って事はバーテンダーなの?」

「はい。……とはいえ、あまりカクテルを振る舞えてはいないのですが……」

「どうして?」

「それは……」


 ウォーレンから話を聞いた私は憤りを隠せなかった。







 彼は修行を経て、自分の店を持つためこの街へやって来た。しかし、店を開いてからというもの騎士団の男達が浴びる様に酒を飲み、金を払わず店を荒らして帰るという事が横行していた。

 いつもそのあと自警団が現れ、損害額を彼らに請求すれば金が補填出来たため、我慢していたという。

 しかしそんな生活が五年もの間続くと、諦めの気持ちを持つ様になった。

 

 そんな時に次期領主夫人を襲う計画を話しているのを聞いてしまい、騎士団長に脅され口止めされてしまう。本来だったらそのあと来た自警団にいうべきだったが、騎士団長の実家が大商会だという事を知っていたウォーレンは、店が経営出来なくなる事が恐く、領主にも不満があったため黙っている事にしたという。


 結果、領主夫人は襲われたものの、それが彼らを捕縛する理由になり監獄送りになったと、歓喜に沸く出来事として新聞に掲載された。


 それを読み「自分が黙っていなければ領主夫人は襲われなかったのではないか」「もし黙っているのがバレたらそれこそ終わりだ」という罪悪感に襲われ、自警団に話し、自分を捕まえて欲しいと懇願したのだという。






 黙ってれば良いのに……この人は優しい人なのね。


 なんだか損しそうな性格で可哀想になる。


「……その自警団て……フィランダーの部下?」

「……公表はしていないけど、そうだよ。彼らには今後騎士団に名を変えて働いてもらうつもりなんだ。金で解決……と言われたらそうかもしれないけど……被害が出ているのは酒を提供する店と娼館、それと一部の武器屋のみだったから、これで抑えれるならと思って……」


 私はそのフィランダーの言葉にイラついた。


 フィランダーはこの領を立て直した人だ。なのにこんな対応しか出来なかったのはおかしい。もしかして……


「フィランダー。貴方、わざと動かなかったのではなくて?」


 その言葉にフィランダーは視線をそらす。


「貴方ならこれをうまく解決出来る力があったはずよ。……貴方がこの領を立て直したと言っていたけれど、もしかして別の人がやっていたの? ……それとも、それ以外に理由があるのかしら?」


 途端に渋い顔になり、フィランダーは口を開いた。


「……あまり目立ちたくなかったんだよ。それを解決すると王太子に強く側近に懇願されそうで……」

「王太子が?」


 フィランダーはこくりとうなずく。







「確か、王太子のご友人だったのよね?」

「そう。だけど側近になる気はなかったんだ」

「どうして?」

「……王太子の側近って結構いるんだよ。今は……八人いたかな?」

「八人? そんなに居るならフィランダーになれって言わないんじゃ……」

「自分に必要だと思う人がいたら、欲しくなる人なんだよ」


 王太子。ちょっと傲慢かも。


「それだけじゃないけどね。側近は皆、中立のテナージャ派なんだ」

「え? ……偏り過ぎじゃない?」

「そうなんだよ。それも嫌でテナーキオ派になりたかったんだ」


 すると、意外な人が声を上げた。







「それは……困りますね」


 ウォーレンが眉をひそめて言った。


「どうして貴方が困るの?」

「俺はこの商売ですから、テナーキオ国各地の酒を集めております。その中でもシランキオ人が造った酒は極上なんですよ。俺はテナージャ人ですから信用がなくて……何度も足を運んでようやく卸してくれたんです。もし、王太子が国王になった時にテナージャ至上主義になったら……せっかく築けた関係が崩れるかもしれません」

「……確かにそうね。そんな事になるとシランキオ人は、ますます住みづらくなるわ」

「そうなんだよ。王太子の考えなのか、側近の考えなのかが分からなくてさ。距離を置きたかったんだよね」

「だからと言ってそれを理由に大切な領民達にお金を使って放置するのは問題よね」


 私はジト目でフィランダーを見ると、シュンと身体が小さくなった。





ウォーレンは出す予定すらなかったキャラでした。

ただこのエピソードを入れた方が良くなるかなと思い名無しで入れたところ、名前も入れたくなり今に至ります。

お気に入りキャラになりそうな予感。



登場人物紹介


名前 ウォーレン

所属 平民 ヘインズ領民

年齢 32歳

容姿

・髪 ストレートの肩までの銀の長髪

・瞳 紫

・体型 痩せ型

・顔 無精髭

・身長185cm

魔法 氷魔法 中


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