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18 危機的状況

シェリル視点に戻るので、※がついております。

R15ありです。



 ※


 私達は教会から邸に戻り、やっとドレスを脱げてホッとした。しかし気を抜いてはならない。この日のメインイベント、初夜が待っているからだ。


 幸い邸に泊まる人はなく、皆、すぐに領地に帰る選択をしたらしい。


 夕食は本来親しい友人を招いて行うものだが、私の身体を心配してか、食堂の席にいるのは私とフィランダーのみ。パトリック様は多忙だからか式の後すぐに王都へ帰ってしまった。


 夕食はいつもの食堂で行われた。ただいつもとは違い、豪華な飾り付けがあちこちにしてあった。一品ずつ料理が出てきてどれもすごく美味しいのだが……会話がない。フィランダーはどこか緊張した面持ちだった。


「このお肉、美味しいね」

「え? ……あぁ。そうだね」

「これは領内で取れたもの?」

「そうだよ。滅多に入らない魔獣の肉を選んだんだ」

「それじゃあ、もっと味わって食べればよかった」

「気に入ったならすぐ手に入る様にするけど?」

「いつもはいいわ。高価な肉ばかりではつまらないもの」

「安肉でもいいって事?」

「それを上手く調理出来る料理人がいるじゃない」

「……本当、君の様な人は滅多にいないよ」

「そうかしら? ステイシーとエイダもそうだと思うけど」

「なら、似た者同士だね。普通は『お願いね』って念を押すところだよ」


 それで会話が終わってしまった。


 微妙な空気の中、最後のデザートを食べ終えると、私は早々に侍女達に退出を促された。






 そして侍女達に連れて行かれた先は、夫婦二人の寝室の浴室。

 私はそこで侍女達によって徹底的に磨かられていた。


「今日やるか分からないのだから、ここまでしなくても……」

「いいえ。隅々まで綺麗にするのが基本ですよ。それに、シェリル様は飾りがいがあります。しっかり磨かれてください」


 三人の侍女達の目が少し怖かったので、私はそれ以上反論出来なかった。


 徹底的に身体を磨かれ、最後は一度も着た事のない白のランジェリーを身につけ、侍女達にベッドへと促された。

 私はとりあえずベッドの上に腰を下ろす。

 ふと、首につけているネックレスに目がいった。

 ランジェリーを切る時このネックレスも外そうとしたが、やっぱり外せない。「それはそのままで」と侍女達が言うので、結局それもつけたままだ。


 ちなみにウェディングドレスの下にもそのネックレスはつけていた。ドレスを来たその上に、もっと大ぶりのネックレスをしていたせいか誰にも気づかれなかったのだ。


「若様をお呼び致しますので、ここでお待ちくださいませ」

「ごゆっくり」

「頑張ってくださいませ」


 三人の侍女は各々言葉を残して部屋を退出した。






 そして一人残され、途端に現実味が増していく。


 いよいよ、初夜だ。


 どうしよう……やっぱりここは白い結婚を通すべきか。でも、それだとお金を貰っているだけになってしまう。妻としての役目も果たさなければ……でも怖い!!


 私が頭を悩ませていると、ドアがノックされた。


「シェリル、入っていいかな?」

「……どうぞ」


 さすがに嫌だとは言えない。

 バスローブ姿のフィランダーが部屋に入ってくると、私を見るなり固まってしまった。


「……どうしたの?」

「夢に見た光景のままだったから……これは夢なんじゃないかと……」


 それを聞いて私は疑いの目で見てしまった。


 嘘っぽいなぁ……。私の真っ平らな身体を見てガッカリするなら分かる。でも感動するって事はないんじゃないかな?


「遊んでいた方々は美人で巨乳の方が多かったって聞いたけど? それに比べたら、私のは貧相でしょ」


 するとフィランダーは慌てて隣に腰を降ろして、私の両肩を掴んだ。


「それ、誰から聞いたの?」

「……庭師の会話を聞いちゃったの」


 「あいつら……」と若干怒りながらもフィランダーは私を諭した。


「シェリル。自分を卑下しちゃダメだろ? 俺はシェリルが良いんだから、そのままでいいんだよ」


 そう言われても……「遊び人」の言葉だしなぁ……。







「……やっぱり今日は……」と断ろうとすると、今度はいきなり抱きしめてきた。


「シェリル、それはない。ここまで俺を興奮させておいてそれはないでしょ」


 そう言って私をベッドに押し倒して、優しくキスをする。私は抵抗しようと必死にもがくが、力が違い過ぎて全く腕が動かせない。

 一度口から離すもすぐにまたキスをするフィランダー。それを繰り返して私の抵抗を弱めようとする。何回キスされたか分からなくなると、それは突然深いもの変わった。そしてやっと口を離した頃には私の身体は力を失い、全く抵抗出来なくなっていた。


「優しくするから、安心して」


 そう耳に囁く声が色っぽくて、全身がゾクッとする。危ないという警告を身体がしている様に思った私は、此の期に及んで口で抵抗した。


「わ……私にはまだ早……」


 言い切る前に口を塞がれ、獣の目をしたフィランダーに文字通り食われてしまい、私はそのまま意識を失った。











 翌朝目覚めると、横にフィランダーの姿はなかった。

 「洗面所に行ってるのかな」と少し待っても戻って来ない。

 どうやらとっくに目覚めてどこかへ行った様だ。


 私は前世で初夜の経験がなかった。

 しかも今回急遽結婚が決まったので、お母様からの手解きは一切ない。

 なので前世のホリーの時に聞いたダーシーさんの話だけが頼りだった。

 そんなダーシーさんによると……


「初めて日の朝は、隣で寝て優しく私を気遣ってくれてね。頭を撫でてくれたんだ~」と嬉しそうに話していた。


 私にそんな朝は来なかった様だ。


 珍しかったんだろうな。この身体が。

 結局テナーキオ派に行くために適当な相手が欲しかっただけかもしれない。


 ……最初から言えばいいのに。







「トイレ……」


 ベッドから降りて二歩歩いたところで足がふらつき、私は絨毯に向かって倒れてしまった。


「あれ?」


 身体が……動かない!?


 昨日の事だけが原因じゃなさそうだ。なんだか全身がだるい。

 いつも実家でやっていた悪い癖がここで出てしまった様だ。

 私には目覚めたらトイレに直行する癖がある。ベッドの上ではまだ大丈夫と思っているからだ。そして倒れて動けなくなり、よく侍女に発見してもらっていた。


「だれが……」


 「誰か」と言いたかったのに、声が枯れて大声も出せない。


「だずげで……ドナ」


 ドナ……ドナなら、少し待てば助けてくれる。


「あ……居ないんだっだ」


 ここはヘインズ侯爵邸。ドナは今、妊娠中でアストリー領から動けない。


「どーじよ」


 呼び鈴はナイトテーブルの上。しかし私は起き上がる事も出来ない。

 床に敷いてある絨毯に突っ伏して待つ事しか、私には出来なかった。






ついにシェリルが一番恐れていた事態が起きてしまいました。

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