17 フィランダーの妹
中立のテナージャ派の態度に司祭がやや眉を顰めたが、目を瞑って切り替え次の進行へ進んだ。
本来ならここから新郎新婦と貴族達の挨拶に移るのだが、身体の弱い私がいるためそれは省略された。その代わり、私達から短い挨拶をする事になった。
「この度は私達の結婚式に足をお運び頂き、ありがとうございます」
「若輩者ではありますが、夫と共にテナーキオ王国の貴族としての務めを果たしていく所存でございます。私の体調を考慮し個別のご挨拶が出来ない事はとても残念に思いますが、今後は中立派として微弱ながら夫を支えて参ります」
「今後とも、私達夫婦をよろしくお願い申し上げます」
フィランダーと私はご来賓の皆様に一礼すると同時に拍手が沸き起こる。しかし中立のテナージャ派からの拍手は一切なかった。
挨拶も無事終わり、あとは私達が教会の扉に戻るだけだ。
私達が赤い絨毯の上をゆっくりと歩くと、来客の方々は神官から差し出された籠の中の花びらを掴み、私達の頭に降り注ぐ様にそれを振りかける。
主にやってくれているのはテナーキオ派の貴族達と私の家族。
中立のテナージャ派の貴族達は誰も花びらには手をつけず、籠を持った神官達がオロオロしている。
それでも私達は歩みを止めず、教会の扉に向かって歩いて行った。
すると、突然花びらが横から飛んできた。
私は飛んできた方向を見ると、フィランダーが私の真横に立って飛んできた方向を見ている。
フィランダーの向こうにいたのは金髪の猫目美人。
険しい表情を向け、私を睨みつけていた。
どうやらこの女性が私達に花びらを投げつけたらしい。
「イーディス!」
そう言ったのはパトリック様だった。
どうやら目の前の女性がフィランダーの妹様だった様。
父親であるパトリック様の注意の言葉を聞かず、イーディス様はそっぽを向いていた。
しかしその周りにいる中立のテナージャ派の貴族達は、イーディス様の行動を称賛しているかの様に笑顔を浮かべている。特にご婦人達はいい気味とばかりに私を見てクスクスと笑っていた。
フィランダーは「気にしないで」という目で私を見て、一緒に教会の扉をくぐった。
そして中で待っていた神官に新郎新婦の待合室に通され、その中に入るや否やフィランダーから謝られた。
「ごめんシェリル! イーディスがごめん!!」
やっぱりそうかと納得する。
「……ご夫人とは思えない行動に若干呆れた」というのが私の感想だった。
「当たらなかったから、大丈夫。……嫌われているのが良く分かったわ。中立のテナージャ派の人は歓迎していなかったし」
「……俺が至らないせいで……」
「それは私のせいでしょ?」
「いや、俺のわがままのせいだ」
「じゃあ二人のせいね」
するとキョトンとした顔になり、顔が真っ赤になってしまった。
「フィランダー?」
「……あ~!! シェリルが可愛過ぎる!!」
そう言って急に抱きついてきた。
「ちょ……ちょっとフィランダー……」
「あの……お客様です」
ネルの気まずそうな声に顔を向けると、そこには私の家族が立っていた。
「な……仲が良さそうで何よりだよ」
気まずそうにお父様が口にすると、フィランダーも照れながら謝る。
「すみません。お恥ずかしいところを……」
「いやいや……今日は珍しいものが見れたらしいし、テナーキオ派にも無事入れた。それにやっと貴方の父上ともご挨拶が出来たのでお礼に参りました」
「中立派に入れたのですか?」
「あぁ。先程の出来事は精霊の祝福と言って奇跡に近いらしい。それを見れたのは貴殿のおかげと言われてね。思ったよりすんなり受け入れてくれたよ。それよりも興奮している人達が多かったな」
「テナージャは精霊を神の使いと考えているのですが、たまにこうした珍しい出来事があるのですよ」
「はぁー、面白いですな。これを機にテナージャのそういう捉え方も学ばねばなりませんね」
「よろしければいつでもお教えしますよ。手紙をくださればすぐ回答しましょう」
「それはありがたい。是非頼みます」
フィランダーと父が握手をしていると、母と兄が心配そうに私に駆け寄った。
「シェリル……ちょっと心配だわ、私……」
「母上は先程の花びらの事を言っているんだよ」
「……あれはフィランダーの妹様だそうです。中立のテナージャ派の家に嫁いだので……」
「あぁ、そういう事か」
今回中立のテナージャ派からテナーキオ派に移るから、その事で怒っているというのを察してくれた。
「気をつけなさいね。フィランダー様にしっかり守って貰うのよ」
「私だって、やる時はやりますよ?」
「シェリル。もっと身体を労らなきゃダメだよ」
兄は苦笑するが、私は本気だった。
「では、これで失礼するよ」
「あ……泊まっていっても……」
「うちは復興中だからね。長居は無用だよ。シェリル。また建国祭で会おう」
「……はい」
私の家族達はそう言って教会を後にした。
※
娘を心配するあまり、大事な事をシェリルの母であるオーレリアは忘れていた。
「あ……いけない。ドナから手紙を預かっていたのに……」
「ヘインズ家の使用人に渡しとけば良い」
シェリルの父、イライアスはそう言って辺りを見渡す。
「君、ちょっといいかな?」
「あ……はい。なんでしょう」
見目麗しい男が足を止め、こちらを向いた。紫の頭と困り眉が印象的な執事だった。
「君はヘインズ家の執事で間違いないかな?」
「左様でございます」
「私は若君であらせられるフィランダー様の妻で、シェリルの父のイライアス・アストリーだ。これをシェリルの侍女に渡して欲しい」
イライアスが執事に手紙を渡すと、彼はそれをうやうやしく受け取った。
「かしこまりました」
アストリー家の面々が退出すると、彼はその手紙を内ポケットに入れた。
「これはあとでいいよね。えっとこの後は……あ! 司祭様に挨拶行くんだったっけ? 急がないと、トミーさんに怒られる!!」
彼は慌てた様子で駆けて行った。
やっと第三章の半分まで来ました。
※執事とイライアスの会話を改稿しました。2020.10.5
登場人物紹介
名前 イーディス・ケネット
所属 貴族 次期ケネット侯爵夫人 元ヘインズ侯爵令嬢
年齢 20歳
容姿
・髪 ゆるウェーブの金髪
・瞳 水色
・体型 Cカップ 標準
・顔 猫目 綺麗系の顔立ち
・身長 160cm
魔法 水魔法 高




