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14 伯爵夫人

シェリル視点に戻ります。





 私は邸の中にある庭園を三人の侍女を連れて歩いている時、たまたま庭師達の話を聞いてしまった。


「なぁ。またあの女がうろついているって」

「あれ? あぁ。巨乳美人」

「ってか、若が付き合ってた相手って、大抵それじゃね?」

「確かに……でもシェリル様はそうじゃないよな?」

「若の好みってよく分かんねぇ」

「遊びの女だから巨乳美人にしてたとか?」

「さぁ?」

「おい! 何くっちゃべってんだ!」

「「「すいやせん!」」」


 そう言って庭師達はその場をあとにした。

 私は部屋に戻ろうと三人の侍女に振り向くと、皆、青ざめた顔で立っている。


「部屋に戻るわ。ちょっと教えて欲しい事があるのだけど」


 そう言うと、三人の侍女は力の無い声を出しながらうなずいた。






 私の部屋のソファーに皆で席について、話を聞く。


「うろついている女って誰?」

「……私も詳しくは分かりませんが、恐らく昔、若とお茶していた相手かと。ですが、そういう女性がここを訪れた事は一度もありません」

「そう……」

「私達にも言っていないのは、よっぽどシェリル様の耳に入れたくないからでしょう。……私も迂闊だったのですが、しばらくの間は邸の中に居た方がよろしいかと」

「庭を散策したのは私の希望よ。それをを叶えてくれただけなのだから、ネルは悪くないわ。でも……私の方こそ、考えが足りなかったかもね」

「いえ。私達が気づくべきでした」

「それでその女性の用件は聞いているのか、庭師の人に確認してくるか、連れて来てもらえない?」

「いえ、シェリル様。恐らくユーインも知っているでしょう。まずは副執事長である彼を呼び出した方が良いと思います」

「あ……それもそうね。なら、ネルに呼んできてもらおうかな」

「え? 私が風で呼び出しますよ」


 ルースがそう言うとネルが首を横に振る。


「いえ。あの人には緊急でない限り風で呼び出すのは避けるべきです。来客対応中かもしれませんし」


 ネルがきっぱりとそう言うと、部屋を出て執務室へと向かった。







 ちょっと気まずそうな様子のルースに、私は問いかける。


「ルース。風で呼び出すって?」

「……私は風魔法が使えるのですけど、声を風に乗せて届ける事が出来るのです」

「あぁ! ルースの髪は緑だもんね」


 その言葉を聞いて、侍女二人は固まった。


「え……魔法属性について、言いましたっけ?」

「学園で習ったのよ。放課後、先生に押しかけてね」

「そんな事なさったのですか」

「でも結果的には良かったみたい。もしかしたら近い将来、シランキオ人でも魔法学系の授業を受けれる様にするって」

「それを……シェリル様が?」

「うん。どうしてもテナージャ人について知りたかったからね。修道院に行くために」

「「……は?」」

「私、修道院に行くつもりだったのよ。だからテナージャ人について知りたかったの。知らない事がいっぱいでびっくりしたわ」

「……そうだったのですか」

「うん。社交界に行きたくなんてなかったからね」

「……珍しいお考えですね」

「よく言われる」


 二人の侍女は乾いた笑いを漏らしていた。


 しばらく待つと扉がノックされ中へと通すと、ネルの後ろにユーインが立っていた。


「申し訳ございません。あまりシェリル様の耳に入れたくなく、黙っておりました」


 開口一番謝ったユーインに、私は首を横に振る。


「それはいいの。……とにかく、詳しい話を聞かせてもらえない?」

「かしこまりました」


 私はユーインを対面のソファーに座らせると、彼は話し始めた。







 うろついている彼女の名前はアイリーン・ソディー伯爵夫人。中立のテナージャ派の未亡人で情報通の一人だと言う。


「彼女は未亡人ですが、まだご令息も小さい事から伯爵代理として責務を果しております」

「え? そんな人が、どうしてうちの前をうろついているの?」

「留守の間は家の事を使用人に任せているのでしょう。彼女にはそれよりも優先したい事があるのです」

「……それは、フィランダーにつきまとう事?」

「いえ……資金調達です」

「え……そんなにソディー領は苦しい状態なの?」

「そうではなく、ご令息にあるのです。ご令息は病気持ちでしてそのための資金を集めているのですよ。……以前、まだ若と付き合いがあった頃は若からの土産を金に変えていて何とか凌いでいました。それは若もご承知の上でした」

「そんなにお金がかかる病気って……」

「ご令息の病気は魔力過多症。身体の中の魔力が溢れ、日常生活に支障を来たすだけでなく、非常に短命な人が多いとされる病気です」


 それはクルー先生から聞いた事がある病だった。


「確か……身体の外に魔力を出すには、規模の大きい魔法を放つか、宝石や魔石に魔力を溜めるって言っていたような……」

「え……よくご存知ですね?」

「学校で学んだのよ。先生の部屋に押しかけてね。それより、その方が資金を集めているのは宝石や魔石を買うためなの?」

「そ……そういう事です。大きな魔力を溜められる石は限られておりまして、必然的に値も高くなります。それだけでなく、教会の神官に診てもらうにもお金がかかるのです」

「なるほど……それで。大きな魔法を放つなんて、領民に被害が出るかもしれないから出来ないものね。……私この話を聞いてずっと疑問に思っていたのだけど、常に魔法を使ってもらったら良いのではないかしら? 例えば、常に邸を覆う防御壁を張ってもらうとか」


 すると、ユーインは目を丸くする。


「え……?」

「使うのは攻撃魔法じゃなくてもいいのでしょ? でも……熱があったら無理なのかしら……」

「それは……分かりかねます」

「あと、その方はテナージャ人よね? この病気は血が濃くなり過ぎるとそういう子どもが生まれやすくなるって聞いたの。余計なお世話だけど……今後はテナージャ人を避けた方が……。いえ……これは言い過ぎね」

「それも併せて伝えておきます。……次世代も短命では支障があるでしょうし、怒られたとしても、うちとしては事実を教えただけですから」


 そう言ったユーインはニヤリと笑った。






 数日後、フィランダーが王都から戻る前にユーインから報告があった。


「あの後にすぐにソディー夫人と接触しまして、お伝えしました」


 するとすぐにソディー夫人は領地にある邸に風魔法を使って連絡をしたそうだ。試しに邸に防御壁を張らせてみたら、みるみる内にご令息の体調が回復。今までの体調が嘘のように元気になったという。


「良かった……」

「どうしてこんな簡単な事が分からなかったのか……恥ずかしいですよ。それと全てお伝えしましたが、怒られる事はありませんでした」

「それも良かった……」


 ソディー家はギリギリの状態ではあったが、借金はなかった様で領地経営に問題はなさそうだ。


「ソディー夫人からはお礼がしたいとの申し出がありました。いかがなさいますか?」

「特には……うーん。何か困った時に助けてくれれば……あ! フィランダーは情報をもらっていたのよね?」

「左様で」

「なら、何か情報が入ったら教えて欲しいの。フィランダー宛てに」

「それでよろしいので?」

「あとは……出来れば仲良くして欲しいと……私、テナージャ人の知り合いっていないから……あ、手紙書いても良いかしら?」

「はい。お届けしますよ」

「すぐに書くから待ってて」


 その後ソディー夫人が味方になり、しかも女主人としての先生になった事は嬉しい誤算だった。




登場人物紹介


名前 アイリーン・ソディー

所属 貴族 ソディー伯爵代理 未亡人

年齢 30歳

容姿

・髪 ストレートの茶髪

・瞳 淡いエメラルドグリーン

・体型 Fカップ 標準

・顔 可愛い系美人

・身長 164cm

魔法 風魔法 高

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