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12 使用人達の雑談1




 フィランダーとトミーが王都に行っている間、シェリルは食事を自分の部屋でとっていた。侍女を一人だけつけ、あとの二人は使用人達と一緒に食事をするため使用人控え室へと向かう。

 今日はルースが担当の日。

 なので、ネルとセリーナは他の使用人達と一緒に食事をとっていた。


 話題はもちろんフィランダーの奥様になるシェリルに関してだ。


「奥様がシェリル様で良かったー」

「本当。イーディス様とは雲泥の差」


 それには皆がうなずいた。


 イーディスとはこのヘインズ家の元ご令嬢。フィランダーの妹であり、かなりのワガママ娘で皆が手を焼いていた女性だった。今は嫁いでこの邸にはいない。


「……よく結婚出来たとつくづく思うわ」

「お相手の方の器が大きいのでは?」

「違いねぇ」


 男の言葉に笑いが起きた。言ったのはセリーナの旦那で庭師のバーナビーという男だ。






 すると、バツの悪い顔になった料理長のニールが口を開く。


「シェリル様。身体が弱いって聞いてたからてっきり野菜嫌いかと思って、最初会った時にちょっと嫌味な顔しちゃったんだよなぁ……失敗したなぁ」

「やっぱりそうだったのね」

「俺、シランキオ人と接してた時があったからさ、その時に聞いてなかった事だったんで驚いたよ」

「シランキオ人の女性の一部の人が身体が弱いって有名じゃないの?」


 ニールは黙って首を縦に振った。


「そんな話は聞いた事がなかった。もしかしたら貴族特有なのかもな」

「シランキオの貴族特有の体質かぁ……。それじゃあ情報も集まらないね」


 なんたってヘインズ家は中立のテナージャ派。テナージャ人との交流の方が深い。







「これがテナージャ人とシランキオ人の壁か……」

「反対に言えば、テナージャ人には常識でもシェリル様はご存知ない事もあるかもしれない」

「私達ももうすぐテナーキオ派になるんだから、積極的にシランキオ人とも関わらなきゃ」

「使用人も増えるって事?」

「まずシランキオ人が来てくれるか分からないけどね。この領はテナージャ人とテナーキオ人しか居ないし」

「徐々にだなぁ。南隣はシランキオの土地だから来れるといえば来れるけど」

「あ……そういや、そっちの土地ってちょっと貧困が進んでないか?」

「え……そうなの?」

「あぁ、それね。領主が突然交代したか何かで税が上がってるんだって」

「うまくこっちに流れればちょっとは変わるか?」

「……突然は無理でしょ。こっちじゃなくてシランキオの土地を目指すって」


 ただでさえシランキオ人は魔法が使えないというだけで肩身が狭い。







「うちの領に立ち寄るシランキオ人の冒険者もあまり見かけないもんね」

「武器に魔力が付与してあれば、シランキオ人だって使えるんじゃねーか」

「それを知らない人も多いんじゃない?」


 武器に魔力が込められているからと言って、それを魔力がある人しか使えないという訳ではない。魔力が全くない人だって使う事が出来る。しかし「魔力があるから使える」と勘違いしている人も多い。それはシランキオ人だけでなくテナージャ人も勘違いしている。


「積極的に教える人も居ないのかしら?」

「冒険者ギルドの職員は何やってるんだよ」

「そもそもうちの領に来るシランキオ人が居ないんじゃない?」

「古巣だし、あとでちーっと覗いてくらぁ」

「こういう時に便利よね。元Sランクの威光は」

「短い期間だけだったけどな。多分うちの支部は知り合いがギルドマスターやってるからすぐ会ってくれるさ」


 バーナビーが言うと、皆も「任せた」とうなずいた。







「それにしても、シェリル様は若のあしらい方がうまいですね」

「うん。若にのぼせない令嬢も初めて見たけど、ああいう風に若に冷たくバッサリ言える人も珍しい」

「『色気より食い気』って言ってたしねぇ」

「ハハッ! 若が食い気に負けたのは笑える」

「若もシェリル様が来てからおかしくない?」

「え? シェリル様を見つけてからおかしくなったの間違いじゃない?」

「そんな前から?」

「そうよ。初めてシェリル様と会ったのって、シェリル様がデビューの年の建国祭じゃなかった?」

「あぁ。突然身辺整理をした事あったね」


 それまでのフィランダーは多くの女性と親しくしていた事が多かった。主に未亡人の貴族や娼婦だ。しかしこの邸に女性を連れてきた事は一度もない。


「シェリル様のためかな?」

「じゃない?」

「ただ……シェリル様、分かっているのかな? 若が本気って事」

「え……分かってないって事、ある?」

「あるでしょ。シェリル様って若様が本気だって分かってないからあんなに軽くあしらえるんじゃ……」

「考え過ぎでしょ」

「いや……ネル達を愛人だと思っていた時点で疑ってるな」


 「そうかも……」とその場にいる全員が思った。








「それじゃあ、私達が皆結婚してよかったんだね。これで一先ずは安心でしょ」

「若の自業自得もあるし」

「そこまでは面倒見きれないよね」


 侍女達が笑い出す中、ネルだけは一度笑ったあとに顔をしかめた。


「ただ……私、ちょっとだけシェリル様に不満があるわ」

「え……ネルが?」

「何? 何が悪いの?」

「……シェリル様がご実家の侍女が来てくれない事にショックを受けてたところ。……ちょっと嫉妬したの。私じゃダメなのって」

「それは……仕方ないじゃない。長年の付き合いと私達じゃ比べものにもならないでしょ」

「でも……私だって出来ると思うのよね」

「まだ来たばかりだろ? それにその侍女がシランキオ人だから嫉妬してるだけじゃね?」


 否定しようとしていたが、思い直したネルは冷静に自己分析をする。


「そんな事……もしかしたら、それで嫉妬してたのかしら?」

「シランキオ人だって優秀な人は優秀だよ。俺の料理の師匠はシランキオ人だったし」


 ニールがそう言うと、バーナビーもそれに乗っかる。


「剣の腕はテナージャ流よりもシランキオ流の方が参考になるしな。剣の腕だけならシランキオの方が圧倒的に強い奴が多かった」

「……私、知らずに差別してたの?」

「さぁ? でも、シランキオがテナージャがって考えは改めた方が良いかもしれないな。もし、この邸にシランキオ人の使用人が来た時に『当たり前だろ』ってところを飲み込んで教えないと」


 使用人達は皆がうなずき、意識改革をする必要がある事を自覚した。



使用人回は次回で終わりです。

新しく出てきた使用人も居ますが、登場人物紹介はあとに回します。

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