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09 呪いの魔道具?

前回の話の続きになります。



 するとフィランダーがジャケットのポケットに手を入れると、雫型の青い宝石がついたペンダントを取り出した。


「シェリル。これは俺が即席で作った魔道具。常につけておいてね」


 そう言って私にペンダントを掛けた。


「魔道具って……かなり高かったよね?」

「あれ? 魔道具の事知ってるの?」

「聞いてない? 私、学園で放課後に魔法学系の先生に教わってたの」

「……あ。そう言えば、学園長に言われてたね」

「それで。常にって……お風呂の時も?」

「うん」


 私が冗談交じりに言った事を真面目にうなずくフィランダー。

 嫌な予感がした私はすぐに首に手を回し、ペンダントを外そうと留め金の部分を(いじ)ったが外れなかった。


「……フィランダー。これ、外れないんだけど」

「外れないよ? 俺の魔力じゃなきゃ外れない」


 サラッと言った最後の言葉に私は背筋に悪寒を感じた。


「じゃ、じゃあお風呂は? 汚くならない?」

「ならない。浄化機能付きだから」

「……これは……呪いの道具?」

「違うよ。お守り。もしかしたら外したまま放置して着けないかもしれないだろ? そういう事がない様に」

「……どういう機能がついているのか、説明してくれる?」


 フィランダーは嬉々としてペンダントの機能を教えてくれた。








 即席で作ったものだからと前置きした上で、これは私が襲われた時に自動で水の防御が発動するものだという。


「その宝石にありったけの魔力は入れたけど、これでも心許ないよ。もっと早くから準備しておくんだったなぁ……」

「フィランダーは安心かも知れないけど、私からみれば首輪をつけられた気分……」

「シェリルは魔力もなければ体力もないからね。本当は自動回復もつけたかったけど、その宝石だと防御が限界だったんだ。もっと良い宝石を探してくるからそれまではこれで我慢してね」

「フィランダー……もしこのペンダントに値段をつけたら……どのくらい?」

「これは大した事ないよ。ちょっと良い剣が買える程度。使えそうなのがこれしかなくてさ」


 フィランダーの言う「ちょっと良い剣」の値段が分からないので定かではないが、恐らく高い宝石がいくつか買えるくらいなのかも知れない。


 そう思った瞬間一気にペンダントが重くなった気がする。


「俺が居ない間、騎士団がちょっかいかけてきたらマズイでしょ? うちの騎士団は敵って思っていいからそのつもりで」

「それ……敵に囲まれているのと同然なんじゃ……」

「大丈夫。使用人は俺が決めたんだよ? 優秀な護衛と同じだからさ」


 侍女の方を見ると、侍女達は緊張した面持ちで頭を下げた。

 フィランダーは口に出さずに「もしシェリルに何かあったらどうなるか……分かっているよな?」と言っている様だ。


「……フィランダー。あまり圧かけないで」

「優しいなぁ、シェリルは」


 威圧が消え去りいつもの穏やかな笑みに変わってホッとした。






 次の日。

 私はドレスを持ってきた仕立て屋と対面していた。


「お初にお目にかかります。へスター商会から参りました、会頭兼筆頭仕立て人のへスターと申します。まずはご結婚、おめでとうございます」

「ありがとうございます。シェリル・アストリーです。本日はよろしく」


 ヘスターは四十代くらいの柔らかな雰囲気を持つ女性だった。平民は苗字を持てないので、名前がそのまま商会名になっているのだろう。そんな彼女が連れて来た従業員は四人。

 その内二人はへスターとあまり変わりない歳の女性達だ。もう二人は新人の様で、私と同い歳か若干上くらい。


 着付けるのはヘスターとベテラン女性二人。新人二人は準備は手伝うものの、私の着付けが始まると、壁に棒立ちになっていた。


 ウェディングドレスはフリルが品良く入っている、格調高いAラインの純白のドレスだった。


「……素敵ですね」

「ありがとうございます」


 そしてドレスを身に付けて姿見を見ると、嘘のようにしっくりとくるのを感じる。


「実際に採寸していないので心配でしたが、これなら詰めるところもなくて済みそうですね」

「……こんなにしっくりくるものなのですね」

「私共のドレスは着ている人に着心地よく過ごして欲しいと努めておりますの」


 すると、後ろの方でクスクスと言う声が聞こえた。それをヘスターが咎める。


「そこの二人。この部屋から出て行きなさい。申し訳ありませんが、待機できるところはありますか?」

「では、隣の部屋が空いておりますので、そちらに」


 ネルが二人を案内し、隣の部屋へ連れて行った。


「失礼致しました、シェリル様」

「いえ……」


 それにしても、なぜ彼女達は笑ったのだろう。私がシランキオ人なのがおかしいのかな?


「それにしても、職人の街の仕立て屋は凄いのですね。正直、もっと派手なデザインのドレスを想像していたのです」

「それは次期領主様であるフィランダー様がその様に指示なさったのですよ」

「え? フィランダーが?」

「はい。シェリル様は慎ましい人だからあまり派手にするなと……妹のイーディス様は派手なものが好みでしたので」

「あぁ……」


 やっぱり好みも正反対だったか。






 調整が終わり、ドレスを三人がかりで脱がしてもらっていると、隣の部屋から声が聞こえてきた。


「ねぇ、あれがフィランダー様の奥方? 隣に並ぶには貧相な方じゃない?」

「私も作ってて思った。胸がささやか過ぎて『これで良いの?』と思ったけどぴったりで笑っちゃいそうで……。顔も大した事ないよねぇ?」

「あれで良いなら私がフィランダー様狙えそう」

「だよねぇ。狙っちゃえば?」


 隣の笑い声が響き、侍女達とへスターが隣の部屋に行こうとするので、私は慌てて止めた。


「良いです。好きに言わせてあげてください」

「シェリル様……」

「自分でも分かっているのです。怒らないであげてください」


 納得した。

 領民達も私の結婚はあまり嬉しいものではないのだと肌で感じる。


 それに私が怒れば「これだからシランキオ人は」と言われかねない。身の丈に合わない結婚なのは私が十分に分かっている。


「……大変申し訳ございません。次に来る時はあの二人を外します」

「……よろしくお願いします」


 ヘスターがすぐに謝罪をしたという事は、故意ではなかったという事か。


 すぐに対応してくれて、私は少しホッとした。



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