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07 料理人


 私はとりあえず、昨日の失態を謝罪した。


「シェリル・アストリーです。昨日は寝てしまってごめんなさい」

「いえ、奥様が謝る事ではありません。それらは使用人で頂きましたのでご心配なく」

「無駄になる事が一番心配だったの。もし今後同じ様な事があったらそうしてね」

「かしこまりました。ところで奥様はもしかして……好き嫌いがお有りですか?」

「好き嫌い? あぁ、食事ね。今のところは無いのよね」


 するとニールはキョトンとした目でこちらを見る。


「……左様でございましたか。てっきり好き嫌いが激しいのかと」


 もしかして、身体が弱い原因は好き嫌いだと思っているのだろうか?

 確かに好き嫌いが多い人は身体が弱いって聞いた事がある。ニールはそれを気にしているのかも。


「私の身体が弱い理由は恐らくシランキオ人特有のものよ。原因は分からないのだけど、体力が伸びにくいのよね」

「そうでしたか。それは良かった。では今出されているもので食べられないものは無いのですね?」


 今日の朝食は目玉焼きに葉もの野菜を添えてドレッシングがかかっているものに、ほくほくのじゃがいもとカリカリに炒めたベーコンが混ざっている副菜。あと玉ねぎのスープ。そして小さめの丸パンが二つ。


「全部食べれるわ。量もこれくらいでちょうど良さそう」


 全体的にそんなに量は多くなく、胃がもたれる事はなさそうだ。


「少食ではなさそうですね。……あ、失礼しました」

「少食では無いわ。食べるのは好きなの。建国パーティーの時はダンスより食事の方を気にしてるのよ」

「左様ですか」


 ニールが微笑むと、フィランダーの表情が固まった。


「どうしたの? フィランダー」

「って事は、俺とのダンスは楽しくなかった?」

「ダンスも好きよ? でも二曲で限界だし。それより家で食べた事がないものを食べた方が幸せ」

「……色気より食い気」

「だからフィランダーに靡かないんじゃない」

「……そっか。まさか、俺より食事の方が良かった?」

「今更?」


 ちょっとしょんぼりしたフィランダーが可愛いと思ってしまったのは秘密だ。







 食事を始めると、どの料理も見た事があるはずのものばかりなのに、味が段違いに美味しい。


 幸せぇ~。


「美味しい……」

「そんな風に食べて頂くと料理人冥利に尽きますね」

「そういえばシェリル。さっき侍女達が俺の愛人って言ってなかった?」

「うっ!」


 やっぱり聞かれてた。


「しょ……食事中に言う事ないでしょ!」


 しかも本人達がいる前で。


「ちょうど良いと思ってさ。ここにいるニールは、ルースの旦那だよ」

「え!?」


 思わずニールを見た後、近くにいたルースの方を向くと照れている様子の彼女が立っていた。


「じ……実は結婚しておりまして……」

「ルースに関わらず、他の二人も既婚者だから」

「えぇ!?」


 また侍女達の方を向くと、気まずそうに目をそらす二人。


「ネルの旦那は副執事長のユーイン。セリーナはまだ紹介してないけど、バーナビーっていう庭師が旦那」

「本当に!?」

「えぇ……隠してはいなかったのですが……」


 彼女達は言うタイミングを計っていたらしい。







「使用人達は皆、既婚だよ。未婚だとシェリルに愛人だと疑われそうだしさ」

「焦りましたよ。実はシェリル様のお輿入れギリギリに籍を入れろと言われてしまいまして……」


 籍を入れてなかった使用人達は慌てて入れて事無きを得たと言う。


「こうでもしないとシェリルに疑われっぱなしだったろうし……」

「確かにそうだけど……どうして見目が美しい人しか居ないのか説明してくれる?」


 苦々しい顔をしながらフィランダーは口を開いた。


「妹が……そういう人しか認めないって言ってさ」

「あぁ……あの」

「俺が小さい時から領地経営をしているのは知ってるよね?」

「うん。言ってたね」

「それで縁戚のテナージャ派や中立のテナージャ派に乗っ取られそうになって、一応気づいてからは極端な横領は減ったんだけど。使用人の中にもいたらしくてさ。近くにいる使用人だけは信用出来る人にしたくて、少しずつ変えてたんだ。そしたら……」


『私の目に入れたくない人を使用人にしないで! 迷惑だわ!』


「って言ったんだよ。怒ったけど、妹の態度は少しも変わらなくて、挙句侍女を怪我させて……」

「えっ……」

「……大事には至らなかったけど、精神的に辛かった様で田舎に帰ったよ。もちろん妹にバレない様、退職金も多く持たせた」

「そんな事が……」

「だからなるべく見た目が良い人を探して……でも必ずそんな人が見つかる訳ではないから、必要だと思う人は下男下女として働いてもらってる」

「……でも、もう妹様も居ないから、その人も侍女や執事にしても……」

「うん。それはあとで考えるつもり。……ってかその方が楽って人も居るんだよ。……それより、理由は分かってくれた?」

「よく分かりました。妹様が苛烈な事も」


 私の言葉に、周りにいた全員が縦にうなずいた。





 朝食を済ませると、ニールが食器を下げて奥へと下がって行く。


「いつもニールが配膳してるの?」

「いや、今日だけ。いつもは別の侍女がやるんだけど、シェリルに会いたかったみたい」

「あ、そっか」


 好き嫌いとか量も聞かれたのはそれか。


「今日は俺も休みだから、一緒にいようね」

「え? 仕事、溜まってるんじゃ……」

「俺よりシェリルだよ。……昨日の手紙の事について」


 ギクリと身体が強張る。


「出来れば、話して欲しいな」

「……はい」


 フィランダーの笑みに私はうなずくしかなかった。





登場人物紹介


名前 ニール

所属 平民 ヘインズ家料理長

年齢 27歳

容姿

・髪 ゆるウェーブな赤髪 オールバック(この髪型なのでゆるウェーブなことはわからない)

・瞳 黒

・体型 がっしり

・顔 つり目の美形 狐顔

・身長 185cm

魔法 炎魔法 中


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