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19 火急の知らせ



 ダンスが終わった後、周りから私に痛い視線が送られるのを感じた。その視線の人数が思っていた以上に多く、フィランダーとあとから来たステイシーに気遣って貰い、なんとか耐えてパーティーをやり過ごした。しかし家に着いた途端倒れてしまい、いつもよりも長く寝込んでしまった。


 フィランダーからはお詫びの手紙が届き、本当に動揺した様子が伺える。私は当たり障りない返事を送った。


 いつもより長く伏せってしまったが、学園の単位は問題なく、二学年にしてもうすでに卒業に必要な単位を全て取得した。




 


 テナーキオ歴 百十六年 秋


 そして最終学年。

 クラスは変わらずいつもの様にステイシーとエイダの三人で過ごし、たまにクルー先生の部屋や他の魔法系の教師の部屋を訪ねて、興味がある事を教えて貰っていた。


 変わらない日々が続くと思っていたが、それは唐突に訪れる。


 私の元にお父様から火急の手紙が届いたのだ。



 親愛なるシェリルへ

 大変な事になった。アストリー領にあるダンジョンから魔獣が溢れ出し、領を襲った。畑、家畜の被害が酷く、幸いだったのは領民達が怪我で済んだ事くらいだろう。かなりの被害を受けたので、早急に資金が必要になった。

 そこで急ぎ、フィランダー・ヘインズ侯爵令息の元へシェリルが嫁ぐ事が決まった。シェリルの気持ちを尊重したかったが、この緊急事態に持参金なしで良いという彼の提案を飲むしかなかった。不甲斐ない私を許して欲しい。

 もうすぐ学園にヘインズ侯爵家の馬車が到着する予定だ。急いで荷物をまとめてヘインズ侯爵領へと行って欲しい。うちの領に一旦戻す事も考えたが、ヘインズ侯爵領は王都から近い事から彼の申し出を受ける形で決まった。

 友人達と一緒に学園を卒業させてやれなくて済まない。また、追って連絡する。

                               イライアス





 まずダンジョンとは、世界各地に存在する迷宮の事である。そこは魔獣達の住処となっており、通常は迷宮の外に魔獣が出る事はない。そのダンジョンを目指して冒険者達が入り、貴重なアイテムや魔獣の素材を取りに行くのだ。

 たまたまうちの領にも一つダンジョンが存在する。しかし初心者用のダンジョンだったらしく、あまり人気はない。我が領の貴重な観光資源であるが正直寂れ気味であった。


 そんなところから突如魔獣達が溢れ出し領を襲った。いわゆるスタンピードである。それが起こる事は滅多にないのだが、今回たまたまうちが当たってしまったのだ。それにしても、領民達が怪我で済んだのは奇跡に近い。それだけレベルの低い魔獣達だったのだろうと予想が出来た。


「……だからって、学園を辞めなきゃいけないなんて……」


 登校前だった私は寮監に手紙の事を話し、今日は荷物をまとめるので登校しない旨を伝える。寮監はすぐに風魔法で連絡してくれ、昼食を持って来てくれる事に。


 コツコツと荷造りをしていると、コンコンとノック音が聞こえた。少し早いが私は昼食が来たんだと思いドアを開けると、息を切らしたステイシーとエイダが立っていた。


「え……どうして……」

「それはこっちのセリフ! どうしてシェリルが卒業しなきゃいけないの?」

「知ってるの?」

「私達が知っているのは……シェリルが二、三日以内にここを去る事しか知りません。……はぁ、はぁ。先生は……理由を話してくださらなかったので、聞きに来たのです……」


 二人は一限の授業を受け、次の授業は入っていなかったため、一限の授業が終わったと同時に走って来てくれたそう。


「私も今朝、手紙を貰って知ったの。アストリー領でスタンピードが起こって、畑や家畜に被害を受けちゃって……。その……資金が必要になって……フィランダー様のところに嫁ぐ事に……」

「「えぇ!? フィランダー様に嫁ぐの!?」」

「う……うん。もう決まった事らしくて……従うしかないの」


 すると、ステイシーは意外な言葉を口にした。


「良かったー……」

「え?」

「だって、変なところに嫁ぐより、フィランダー様のところがいいじゃない」

「私も賛成です。会った事もない方のところに嫁ぐよりはマシだと思います」

「……えー……」


 私が不満そうに言うと、ステイシーは「知らないの?」という顔を作る。


「シェリル。贅沢言ってるんじゃない? フィランダー様って、遊び人令息って言われている以外は優秀なのよ」

「そうですね。色んな方々が縁談を申し込んでいるそうですよ」

「……そんな人の妻になる自信ない」


 この前パーティーだって必要以上に注目されて辛かったというのに。


「大丈夫。フィランダー様がシェリルにベタ惚れだから」

「それに……貴族の方に嫁ぐのであれば、また会えますね」

「ね! またパーティーとかで会えるじゃない」


 二人とも、私に会えなくなる事が嫌だったらしい。それに気づき、私は感極まる。


「ステイシー……エイダ……」

「シェリルと結婚するって事はテナーキオ派に移るんでしょ? ならヘインズ家主催のパーティーがあれば呼んでよね。 もし体調良ければロドニー家のパーティーにも出席して欲しいなぁ」

「また建国パーティーでご一緒出来ればと思います」

「グズ……うん。ありがと、二人共……」


 私が泣き出すと二人も涙目になり、三人で抱きついて、泣いた。


 




 その後昼食を持って来てくれた寮監が、私達を見て「何事!?」と動揺していたが、理由を言うと「青春ね……」と言ってくれた。しかし、二人に「早く昼食を食べに行きなさい」と促し、二人を追い出す様に仕向ける。


 「もうちょっと居て欲しかったな」と思った私は、出て行く二人をみると、二人も同じ気持ちだった様だ。


 二人共ドアを出て行く瞬間、ずっと私の顔を見ていたから。


 二人が友人で良かった。


 手紙を読んでから下がっていた口角が、いつの間にか上に上がっていた。





登場人物紹介


名前 シェリル・アストリー

所属 貴族 アストリー伯爵令嬢

年齢 18歳

容姿

・髪 ストレートの黒

・瞳 黒

・体型 AAAカップ やや引き締まった身体

・顔 前世の姉に近い顔

・身長 162cm

魔法 なし


名前 ステイシー・ロドニー

所属 貴族 伯爵令嬢

年齢 18歳

容姿

・髪 くすんだ橙のゆるウェーブ

・瞳 黒

・体型 Dカップ 細マッチョ

・顔 つり目にそばかす 貴族の中では平凡

・身長 172cm

魔法 雷魔法 低


名前 エイダ・バーリス

所属 貴族 伯爵令嬢

年齢 18歳

容姿

・髪 黒のストレート

・瞳 黒

・体型 Bカップ

・顔 涼やかな瞳 メガネ 貴族の中では平凡

・身長 158cm

魔法 なし

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