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18 本当の理由





 音楽が流れると、皆一斉に踊り始めた。

 そんな中、目の前の美形は嬉しそうにこちらを見つめる。


「楽しいですね」

「そうですか……良かったですねぇー」

「貴女のお兄様に頼んだ甲斐がありました」

「それっ! それですよ。兄に何をしたのですか?」

「ちょっと手助けしただけですよ」






 今日のパーティーより少し前。

 王都にいる貴族限定で王妃主催のパーティーが行われたという。騎士団に入団した兄はそのパーティーの警備を担当していた。


 フィランダーがたまたま会場の外廊下を歩いていると、前を歩いていた警備の騎士達の話し声が聞こえて来たそう。


「はー……俺もパーティーに参加したかったな」

「婚約者探し?」

「そうそう。俺ももういい歳だしさ」

「なら、今度王城の侍女紹介しようか?」

「いいの? 頼む!!」

「あ……あのー……」


 三人の騎士がお兄様……メレディスを気怠そうに見た。その瞬間、慌ててフィランダーは物陰に隠れたという。見つかると色々厄介らしい。


「待機場所に着きましたので……」

「あぁ? 一人で十分だろ? なぁ!」

「このくらい、一人でやっとけよ」

「はぁ……なんでシランキオ人と組まなきゃいけないんだよ」


 そう言って三人はそのまま立ち去ってしまった。


「はぁ……また、()が怒られる」


 詳しく話を聞くため、お兄様にフィランダーは声をかけた。






 

「これはこれは! お義兄様ではありませんか」

「え……貴方ですか……」


 うんざり顔のメレディスにフィランダーは騎士達が去って行った方向を見つめる。


「随分と身勝手な騎士達の様ですが……」

「……お恥ずかしい所をお見せしてしまい、申し訳ございません」

「俺は謝罪を聞きたいのではありませんよ? それにお義兄様は一切悪い事などしていないではありませんか」


 そう指摘すると、メレディスは諦めた様な顔を浮かべた。


「……色々、あるのですよ」

「それは……シランキオ人関係でしょうか?」

「……そうです」

「失礼ですが、所属の方は?」

「第七騎士隊です」

「隊長は何も言わないので?」

「……隊長は、誇り高きテナージャ人でして……」

「なるほど……そういう事ですか。では、騎士の方が戻るまで俺が一緒にいましょう」


 するとメレディスはやや俯き加減だった頭を勢い良く上げた。


「えぇ!? 貴方は招待客でしょう? お戻りください。貴方を引き止めたと知られたら今度は王城の女性達からの目もきつくなります」


 そう言われてフィランダーは背中を押される。しかしフィランダーはメレディスの方を向き、不敵な笑みを浮かべた。


「ははっ! それは残念。……ところでお義兄様。一つ取引をしませんか」

「はぁ!? 何をです?」

「第七騎士隊について、密かに報告を上げようと思います。そしてもし、第七騎士隊の環境が改善された暁には、シェリル嬢とのファーストダンスの権利を頂きたいのです」


 「なぜそれを俺に聞く」とばかりにメレディスは眉を顰めた。


「……それは私の父に頼めば良いのでは?」

「貴方の許可が欲しいのですよ。シェリル嬢を守る最大の壁ですから」

「……言ってくれますね。分かりました。もし、改善されたら許可しましょう。……俺としても、修道院には行って欲しくはないので」


 メレディスは納得し、フィランダーと握手を交わした。







「そして騎士団長の父に密かに報告を上げ、第七騎士隊に調査が入り見事改善! こうして俺はシェリル嬢のファーストダンスの権利を得たのです」

「なるほど。告げ口なさったと。その後私のお父様にも取引しましたよね?」

「はい。セカンドダンスの権利も欲しかったので。ただ、取引はしませんでした」

「どういう事です?」

「アストリー伯爵の方からお願いされたのです。セカンドダンスを踊る様にと」

「え……」


 「そんなにお父様は中立派になりたいの?」とお父様を責めたい気持ちがじわじわ湧いてくると、フィランダーは優しい笑顔で口を開いた。


「俺の事はさておき、皆、シェリル嬢の身を案じているのですよ。親としては社交界に残って欲しいのだと思います」

「それは……私が修道院ではやっていけないと?」

「……少なくとも、今修道院で貴女が手伝っている仕事は、修道女の極一部です。他にも体力が要る仕事を沢山こなさなければなりません。貴女にそれが出来るでしょうか?」

「それは……」


 今までのフィランダーの口からは出てこなかった厳しい言葉に、私は少し動揺した。しかも的を射ていて何も言い返せない。


「無理にとは言いません。ですが、俺を選んでくれると嬉しいですね」


 ニッコリ顔で言うフィランダーに、私は前世の事は明かさず、本当の理由を伝える覚悟を決めた。


「……正直に言いましょう。私は、テナージャ人が一番恐いです」

「……それは魔法……ですか?」

「いいえ。考え方です。シランキオ人も時として苛烈なところがありますが、テナージャ人はそれ以上だと考えております。正直、そんなところにシランキオ人の私が嫁いでは身の危険が大きい気が……どうしても拭えないのです」


 私は前世でテナージャ人の画策によって殺されている。正直、二度と関わりたくはなかった。でも、テナーキオ王国の貴族に生まれてしまったからには避けられない。だから社交界から逃げたかった。でも、身体の弱さが行く手を阻む。


「……分かりました。今日のところは引きましょう。テナージャ人が恐いと言われてしまっては、俺はどうにも出来ませんので」

「……申し訳ございません。決して差別している訳ではないのですが……」

「こちらとしても配慮すべき事でした。テナージャ人は魔法が使えない事を何かと指摘し、貶める事があるというのはよく聞く話ですから」

「……申し訳ありません」

「いいえ。つまり、俺の事は安全だと思ってもらえれば良いんです」


 この言葉を聞いた時、私の思考は一時的に止まった。


「は?」

「諦めた訳ではありませんよ。言ったでしょう? 『今日のところは』って」

「へ……?」

「貴女を本当の意味で手に入れたいですからね」


 色気のある顔で微笑まれて思い出した。


 忘れてた。この人、遊び人だったっけ?


 どうやら私は、フィランダーに火をつけてしまったらしい。






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