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13 新たな友人と授業



 私が一人になったところで、ステイシーが心配そうな表情を浮かべながら近づいて来た。


「シェリル。大丈夫?」

「ステイシー……もしかして?」

「そう。クルー先生を呼んだのは私」

「さすがぁ!!」

「私じゃ対抗出来なかったからさ。頼りたくなかったけどあの先生、いざという時はビシッと締める人なんだよね」


 私がステイシーを讃えていると、そこに一人の令嬢が近づいてきた。


「あ……あのー。魔法学の授業、私も受けたいのですが……」


 シランキオ人の彼女は同じクラスだが、ずっと一人で読書したり勉強していた伯爵令嬢だった。


「では放課後、ご一緒しましょうか」

「よ……よろしいのですか?」

「はい。先生が良い仰るなら大歓迎ですから。そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はシェリル・アストリーです。よろしく」

「ステイシー・ロドニー。よろしく~」

「あ……わ……私は、エイダ・バーリスです。よろしくお願いします」

「何か……もっとしっかりしている人かと思った」


 ステイシーがそう言ったのは、エイダの容姿にあった。涼やかな目元にメガネをつけている彼女は、いかにもしっかり者という雰囲気だ。だが話してみると割とおっとりとしている。


「よ……よく言われます」


 するとステイシーが申し訳なさそうな顔になった。


「エイダ。私の話し方、怖い?」

「いえ……大丈夫です。私、友人作るの下手で……あまり同世代の方と話せなかったものですから」

「私もー。何だ。話しかければ良かった」

「本当にね」


 そう言うと、エイダは照れ臭そうに小さく微笑んだ。







 放課後にクルー先生の所へ行くと、なぜかお兄様がそこに居た。


「……どうしてお兄様がここに?」

「どうしてって、興味があったからさ。さすがシェリルだね。俺には思いつかなかったよ」


 なんと兄も魔法学の授業に興味があったらしい。


「最終学年でしょう? 大丈夫なのですか?」

「最終学年だからだよ。もう卒業に必要な単位は取れているんだ」

「さすが、アストリーさんの兄上だ。しっかりしている」


 嬉しそうにうなずくクルー先生に私は質問する。


「本当に良いのですか? 他の先生方からは批判の声とか出ていません?」

「むしろ羨ましいがられたよ。学問としての魔法に興味がないテナージャ人が多くてね。他の先生も歓迎してくれるそうだよ」

「「本当ですか!?」」


 興奮した声をあげる私とエイダに、クルー先生はうんと縦にうなずいた。


「本来なら、授業に出て欲しいけど……さすがにそれは許可が取れなかったよ」

「でも、学べるのは良いです!」

「私は遠慮したい……」


 この中で喜んでいなかったのはステイシーのみだった。






 早速クルー先生の魔法学の授業が始まった。


 魔法学ではテナージャ人にとっては当たり前の事を学ぶ。しかし、その当たり前の事がシランキオ人にとっては重要だったりもするのだ。


 まずは見た目。

 テナージャ人の特徴は、瞳と髪の色には必ず有彩色が入っている事だ。


 鮮やかなものから淡いものまで、くすんでいない髪色は純テナージャ人の特徴だ。しかし、くすんでいる色などを持つ場合はシランキオ人の血が入っている可能性が高い。シランキオ人と結婚するとその子どもの色がくすむと、シランキオ人との結婚を嫌がるテナージャ人は後を絶たない。


 また、その色には重要な意味を持つ。







 一人につき使える魔法属性は一つのみ。瞳、または髪の色がその人の属性になる。


 魔法属性は光、闇、風、土、炎、水、雷、氷の八つ。


 光属性は、髪または瞳の色が金色か桃色。攻撃、回復、治癒、浄化、魅了の魔法が使える可能性がある。


 闇属性は、紫色。攻撃、防御、空間の魔法が使える可能性がある。


 風属性は、緑色。攻撃、防御、伝達の魔法が使える可能性がある。


 土属性は、茶色。攻撃、防御、回復、治癒の魔法が使える可能性がある。


 炎属性は、赤色、または赤色寄りの橙色。攻撃、防御、浄化の魔法が使える可能性がある。


 水属性は、青色。攻撃、防御、回復、治癒、浄化の魔法が使える可能性がある。


 雷属性は、橙色、または黄色寄りの橙色。攻撃、防御の魔法が使える可能性がある。また、正式ではないがクルー先生によると雷魔法を治癒に用いる事もあるそう。


 氷属性は、銀色。攻撃、防御の魔法が使える可能性がある。


 なぜ、「使える可能性がある」のかというと、人によっては属性全ての魔法を使う事が出来ないからだ。








「ではそれらの特徴をふまえて、ロドニーさんは何属性でしょうか? バーリスさん、お答えください」


 ステイシーの髪色はくすんだ黄みよりの橙、瞳は黒なのでこの場合髪の色で魔法が判断しやすい。指名されたエイダはステイシーをじっと見てから答える。


「はい。黄色寄りの橙に見えるので……雷です」

「ロドニーさん、正解ですか?」

「はい。雷です。……ただ、魔力は低いですが」


 ステイシーは防御出来る程の雷を出す事が出来ない。そう言えば以前弱い攻撃しか出せないと言っていた事を思い出す。


「あの失礼ですが、ステイシー……いえ、ロドニーさんの魔力が低いのは、髪がくすんでいるせいでしょうか?」


 私が質問すると、クルー先生は横に首を振った。


「いいえ。今のところそれは関係ない事が分かっております。シランキオの血が混ざっていても、魔力が高い人もいるからです。それよりも親の血が影響している様ですね」







 次に属性を問わない魔法もある事を教わった。


「属性を伴わない事で有名なのは、鑑定魔法と魔獣従属魔法ですね」

「鑑定……って何でしょう?」

「鑑定魔法は、人やものの名前、体調、体力、魔力などを知る事が出来るものです。主に教会に所属する人に多く見られる魔法ですね」


 鑑定魔法を持っていると、教会側からスカウトに来る事もあるらしい。鑑定魔法自体珍しく、教会に取り込もうとする動きがあるため、鑑定魔法持ちと分かった子どもの親は必死に隠すそうだ。

 なぜなら教会に入ると、里帰りも難しくなるため一生の別れになる可能性があるから。


 そんな事情をシランキオ人の私は知らなかった。横で聞いていた兄やエイダも私と同じ顔をする。


「……恐いですね」


 率直な感想を口にすると、クルー先生からは真逆の答えが返ってきた。


「私は欲しかったです。研究さえ出来れば教会に入っても良いので」


 意外な答えに私は少し唖然とした。


「……珍しい人なのですね、クルー先生は」

「よく言われます。もう一つの魔獣従属魔法は、文字通り魔獣を従わせる事が出来る魔法です。こちらは鑑定魔法よりも滅多におりません。鑑定してもらわないと分からない職業でもあります」


 魔力がある人にとっては当たり前の事でも、それを少し学んだだけで驚きがたくさんあった。


 やっぱり魔法学を学んで良かった。まだまだ私の知らない事がいっぱいある。


 そして真剣に学んでいた私達は気づかなかった。……ステイシーがすでに船を漕いでいる事に。




登場人物紹介


名前 エイダ・バーリス

所属 貴族 伯爵令嬢

年齢 16歳

容姿

・髪 黒のストレート

・瞳 黒

・体型 Bカップ

・顔 涼やかな瞳 メガネ 貴族の中では平凡

・身長 155cm

魔法 なし


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