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11 剣舞




 テナーキオ歴 百十四年 秋


 この国では秋が学園入学の季節だ。秋、冬、春の間は学園の寮で過ごす事になる。社交の季節にあたる春は王都に邸を持つもののみ、一時帰宅が可能になる。春の間だけは生徒も社交が中心になるので特別休暇も多い。そして夏の間は少し長めの休暇になる。

 王都で働いている貴族の場合は夏の間だけ領に戻る事も少なくないそう。特に雪深い領に住んでいる貴族の大半は夏にしか領には戻らないのだ。なので夏の間は家族揃って領に戻る事が多い。私もその予定だ。


 学園に入学して二ヶ月後。

 思っていた通り楽しくない……事もなかった。

 どういう事かというと、まず中立派の友人が出来た。


 あれは剣舞の授業の初日。

 男子と女子は剣舞の舞が違うため、今ここに集まっているのは一年の女子のみだ。


「この中には剣舞を事前に習っている者もいるかと思う。そこで習っている者はどの程度出来ているのか、皆の前で披露して欲しい」


 剣舞担当のブロウ先生は習っている人全員で剣舞を披露する様指示した。

 ちょっと戸惑いつつ、全員ブロウ先生に言われた配置につき、剣舞を披露した。


「アストリーさん、素晴らしいです。身体が弱いと事前に聞いておりましたから、これ以上無理させる訳には参りませんが、この中で一番の出来です」

「ありがとうございます」

「これなら、二ヶ月後に行われる学園祭の剣舞に推薦出来ます。やりますか?」

「はい! やります」

「皆さんにも機会はあります。二週間後に剣舞の試験を行いますので、そこで合格すれば私から推薦しましょう。頑張ってください」

「「「はい!!」」」







 授業が終了し、更衣室へ向かおうとすると、後ろから声がかかった。


「あの! その剣技、どなたに習ったの?」


 聞いてきたのは剣舞の授業が一緒の伯爵令嬢。容姿が前世のあの人に見え、私は内心驚いていた。


「……アーサー先生です」

「え!? アーサー先生!! ……アストリー家に行ってたんだ……」

「もしかして……」

「お願いしていたのだけれど……別の所に決まったって……」

「そ……それは……」

「あぁ! 謝らないで!! 羨ましいと思っただけですから!!」


 そういう姿が前世のダーシーさんと重なった。良く見ると顔つきがダーシーさんそのものだ。唯一違うのは髪の毛の色。緩いウェーブのポニーテールは、くすんだ橙色だ。


「よ、良かったら、一緒に練習します? ……体力はないのですけれど」

「え! いいの!! あ……よろしいですか」


 嬉しそうな顔の彼女を見て、思い切って口を開いた。


「わ……私……その、友人がいなくて……もしよろしければ友人になって貰えないでしょうか?」


 すると目を輝かせて私の手を両手で掴んだ。


「なるなるなる!! あ……じゃなくて、なります!!」

「……二人きりの時なら、言葉遣いもいつも通りのもので良いですよ」

「本当!? いや~……伯爵家なのに、貴族言葉が苦手で」

「私もその方が気楽だから」

「良かったー。こんな砕けて話してくれる人いなくて困ってたの。私も友人をうまく作れなかったんだよね。あ、私ステイシー・ロドニー。よろしく!」

「シェリル・アストリーです。よろしく」






 あとで系譜を調べると、彼女はやっぱりダーシーさんの子孫だった。ダーシーさんのご息女がテナージャ人と結婚して混血になった様。


「魔法使えるのでしょう? いいなぁ……」

「ちょっとね、ちょっと。魔法って言っても戦闘には使えないよ」


 ステイシーは雷魔法が使えるそうだ。ただし魔力は低く、肌がピリッとする程度。


「だから持っててもあまり意味なくって……」

「近くにいる敵だったら効果的じゃない? 一瞬でも動揺させれば有利だと思うけれど」

「うーん……魔法発動の前に隙が出来るから、難しいよ」

「そっかぁ。それでも魔法、使いたかったなぁ。魔法が使えない上に身体も弱いなんて……」

「でも、剣舞は凄いよ! あんなに綺麗に出来る人いないし、しっかり鍛錬してるって分かるもん」

「ありがとう。……本当は剣術の授業も取りたかったの。一戦くらいだったら出来るんだけど、それ以上は出来ないから迷惑かけるかなって」

「え! 一戦でも良いからやりたい!!」

「すぐへばるよ?」

「そしたら私が運んであげる」

「重いよ?」

「それが鍛錬になるじゃない」


 何もかも吹き飛ばしてしまう様なステイシーの笑顔が私には心地よかった。







 私はステイシーと一緒に鍛錬する様になってから、あっという間に剣舞の試験の日になった。すると、見事ステイシーも学園祭の剣舞に推薦され、一緒に出れる事に。


 学園祭当日。

 私達は一年なので、あまり目立たない後ろの方に配置された。私は後ろの方で落ち着くから良かったのだが、ステイシーは不満の様子。


「シェリルの方が上手なのに……」

「え!? そんな事思ってたの?」

「だって上手い人順なら分かるけど、学年順て……」

「私は寧ろここで良かったよ。それに三年が目立って当然でしょ」


 ここに立つまで三年間頑張って来た人が、ポッと出の一年に前を奪われるなんて、恨み言一つじゃ足りない気がする。


 そうこう言っている内に出番がやって来た。


 後ろではあるが皆に見劣りしない様、精一杯丁寧に舞う。終わると盛大な拍手が贈られ、ホッとした。そして私達の出番が終わり出て行こうとすると、なぜか私は観客席に座っている人達から注目を浴びている事に気づいた。


 控え室に戻ると、ステイシーは嬉しそうに口を開いた。


「凄いよシェリル! 皆シェリルを観てたよ!!」

「え!? そんなはず……後ろなのに?」

「型が綺麗だから目立ってた。観客の視線が凄いなと思って観察してたら、皆シェリルの方を見てるんだもん。……もしかしたら、結婚の申し込みが殺到するかもね」

「ないない」

「何でそんな消極的かなぁ?」

「皆、私の事を知らないだけだよ」


 身体が弱くて平民並みの顔で、棒の様な身体の私が引く手数多なんて……ないない。






 そう思っていたのだが、後日お父様からの手紙に、「シェリル。学園祭以降、お前に見合いが殺到しているんだ」と嬉しそうに書いてあるのを見て、私は頭を抱えた。





登場人物紹介


名前 シェリル・アストリー

所属 貴族 アストリー伯爵令嬢

年齢 16歳

容姿

・髪 ストレートの黒

・瞳 黒

・体型 AAAカップ やや引き締まった身体

・顔 前世の姉に近い顔

・身長 160cm

魔法 なし


名前 ステイシー・ロドニー

所属 貴族 伯爵令嬢

年齢 16歳

容姿

・髪 ゆるウェーブのくすんだ橙

・瞳 黒

・体型 Dカップ 細マッチョ

・顔 つり目にそばかす 貴族の中では平凡

・身長 167cm

魔法 雷魔法 低

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