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08 ダンス




 次は気が重い二曲目。

 曲が少しの間止まり、その間にパートナーを交代する。

 そしてお披露目と学園卒業以外の人達にとっては一曲目だ。白以外の様々なドレスを身につけている女性達とネクタイを締めている男性が会場の中心に集まった。先程の三倍以上の人数なので、さらにごった返している。


 私達はヘインズ侯爵令息の元へ向かうと、こちらに気づいたのか彼も近づいて来た。


「妹をくれぐれもよろしくお願いします」

「承知しました」

「シェリル。曲が終わったら合流しよう」

「ありがとう、お兄様」


 お兄様が離れると、フィランダーは手を差し伸べる。


「お嬢様、お手をどうぞ」


 私が渋々手を差し出したのはいうまでもない。






 二曲目が始まり先程よりも難しい曲になった。それなのに踊りやすい。悔しいがフィランダーはリードが上手な様だ。


「初めてにしては上手いですね」

「いいえ。足を踏まない様必死ですよ」

「それでも大したものだ。……身体が弱いと聞きましたが、運動神経は良いのですね。剣も嗜んでいる様ですし」

「あぁ……分かりますか」


 フィランダーも剣を嗜む様だ。女らしくない手の硬さで気づいたのだろう。


「俺もよく剣の鍛錬はするので。団には入っておりませんが、父が騎士団長ですから」


 「それは知らなかった」と口が開きそうになるのを必死に抑える。父親が騎士団長なら、団に入っていなくても剣の手ほどきは受けるだろう。


「そうだったのですね。無知で申し訳ありません」

「いえ、新鮮で良いです」


 その笑みに嘘はなかった。肩書きのある父親がいると、皆寄って来るものだ。彼は少しうんざりしているのかもしれない。


「恥ずかしながら私はよく体調を崩していたので、お茶会にも出た事がないのです。情報収集は夫人の役割の一つでもありますから、私では満足にこなせないでしょうね」


 「貴方に気はありませんよ」とそれとなく言ってもフィランダーの顔は変わらなかった。


「必要ありませんよ。確かに女性同士の会話で得るものも大きいのは知っております。ですが、別に仕入れるところがあれば問題ありません」


 そう言い切るフィランダーに違和感を覚える。


「まさか……そのために女性と仲良くしていらっしゃるの?」


 私の言葉が当たりという様に、少し悪戯な笑みになった。


「おや? 私の噂はご存知なのですね?」

「……さすがに母の耳には入っておりましたから。それに先程、ご令嬢達に囲まれておりましたし……」

「それは残念。貴方にはその印象を植え付けたくなかったのに」

「……初めて会った時から、軽薄そうだなと思っていましたが?」

「え……」

「私、真面目な方が好みですの。それに結婚は期待しておりませんので、どうかこれっきりにして……」


 私がもう会う事をお断りしようとすると、フィランダーの手に力が入る。


「諦めませんよ?」

「え……」

「私が遊びで近づいたとお思いで?」

「……正直、先程ぶつかったお詫びだと思いましたの」


 フィランダーのニヤリと笑う顔を見て「腹黒い人」だと思った瞬間、私の背筋が寒く感じた。


「……貴女は面白い人だ。今後も貴女にダンスを申し込みます。私は諦めが悪いので」


 私は心の中で「え~!?」と大声で叫んでいた。








 やっとダンスが終わると、なぜか背中に手を回される。


「なっ……」

「もう休憩するのでしょう。一緒に食べませんか?」

「けっ……結構です!!」

「そう言わずに」


 「すぐにお兄様の元に返してよ」と思いつつ辺りを見渡すが姿が見えない。

 ここは……自力で逃げるしかなかった。


「お……お花摘みに行って参りますので……ついてこないでください!!」


 そう言ったおかげで何とかフィランダーの手を逃れ、トイレに逃げる事が出来た。







 トイレに行ったのは良かったかもしれない。火照った身体を休ませたかったし、ちょうど行きたかったから。用を足し終わり外に出ると、今度は令嬢達が私を待っていた。


「ちょっとよろしくて?」


 代表の令嬢が迫力に押され、顔を引きつりながらも逃げるという選択肢は残されていなかった。






 会場から大分離れた人通りの少ない場所に連れていかれ、私はこのまま会場に帰れるか心配になった。周りをみるとそこは庭に近い場所の様だ。庭と言っても公園と思う程広い庭園。今が夜でなければもっと素敵な場所なのだろう。


 フィランダーの取り巻きの代表と思われる令嬢が一歩前に出て私を睨んだ。ドレスの所々に白が入っている事から、学園を卒業したばかりの令嬢という事が伺える。


「貴女、フィランダー様の何?」

「何でもありません。……ただ少しぶつかってしまっただけです」

「本当にそれだけ?」

「はい。今日が初対面です」

「貴女の父親が計った……とか?」

「それはありません。我が家はシランキオ派です。中立派の方とはご縁がありませんし、騎士団にも所属しておりません」


 そう言うと、令嬢達は互いに顔を見合わせる。


「フィランダー様が自らダンスを申し込まれるのは初めてなのよ? それを知っていて?」

「いいえ。フィランダー様のお名前もお姿も……噂も今日初めて知りました」

「ふーん。なら、この先あの方に近づかないって誓える?」

「それは……難しいと思います」

「どうして?」

「先程のダンスの時に、これっきりと申し上げたのですが、諦めないと言われてしまいまして……」


 すると取り巻きの令嬢の一人が私の肩に手をやり、突然後ろへ押され、倒されてしまった。その時慣れないヒールを履いていたせいか、足が思うように動かず捻った様に感じる。


「っ痛……」

「どうしてシランキオ人なんかに私達が劣るわけ? 魔法が使える私達より劣る人があの方に近づくなんて許されないわ」


 倒してきた令嬢が私に近づいて、今度は蹴ろうと片足を後ろに下げようとした時……

 

「何をしている!!」


 そう言ったのは、血相変えてこちらに走ってきたフィランダーだった。





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