38 ヘインズ侯爵家展
神視点です。
これが最終話になります。
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オペラ『ドラゴンと囚われの妻』が制作されて、二百年が経過したのを祝い、『ヘインズ侯爵家展』が王都で開かれた。
そこには、ヘインズ家所有の絵画や、そのゆかりの品などが展示されている。
中でも目玉なのは、今の世ではありえない事が詰まった絵画だ。
それは『ドラゴンと囚われの妻』のモデルになった、フィランダー・ヘインズ侯爵とシェリル夫人が、家族でピクニックへ行った様子が描かれている。
走り回っているテナージャ人、シランキオ人、テナーキオ人の子ども達。
そこには幼児並みの大きさの大妖精と、人の肩に乗れる大きさのドラゴンの姿もあった。
魔獣は四体もいる。
有名なのはシェリル夫人の従魔、ヒューだ。
ホワイトフォレストレオパルトの変異種で、シェリル夫人の横に座っている。
他には真っ黒と、黒と白混じりの狼型の魔獣が二体。
最後に、垂れ耳で白地に黒斑の犬型の魔獣が一体いた。
四体とも馬並みの大きさで、かなりの迫力がある。
そしてシェリル夫人は笑顔で子ども達を、侯爵は横のシェリル夫人を見て微笑んでいる。
この絵の前には大行列をなし、子どもから大人までが釘付けになっている。
とても現実味のない絵は、想像で描かれたのではないかと思うほどだ。
しかしそれはない。
なぜなら描いているのは、本当の事しか描かない事で有名な画家、ロニーだ。
きっと彼の目にはこう映っていたのだと思う。
ここに来場する人の大体が『ドラゴンと囚われの妻』のモデルを見るために来たのだろう。
しかし、実はもう一つ目的がある。
それは最近起きたある論争だった。
歴史的に見ても、フィランダー・ヘインズ侯爵とシェリル夫人は、おしどり夫婦と言われている。
しかし、今はそうではないという論争が起きていた。
それはシェリル夫人の容姿にあった。
彼女は歴史的に見ても、あまり美人の部類ではない。
表向きおしどり夫婦として見せていただけではないかと、誰かが言い始めたのだ。
ただそれも、この絵を見れば一瞬で払拭されるだろう。
それはプライベートの二人を描いた絵画だった。
そこには二人がソファーへ座って談笑している様子が描かれていた。
しかもそれが三枚も展示されている。
同じ場所で二十代、四十代、六十代の頃に描かれたものだ。
二人とも、決まって笑顔で笑い合っている。
作り笑顔ではなく、心から笑っている様子に、観ている方も思わず笑みがこぼれてしまう。
絵を全部見終わった時にふと気づいた事があった。
確認のため見直してみると、ある事実に気づいてしまった。
プライベートが描かれていた全ての絵のフィランダー・ヘインズ侯爵は、シェリル夫人の方を見ていたのだ。
これを情熱的だと顔を赤らめたが、中には恐怖を感じた人もいたらしい。
これは、侯爵がシェリル夫人を愛していた証拠だろう。
証拠はそれ以外にもあった。
ヘインズ侯爵家ゆかりの品の中には、日記も展示されている。
その中には彼らの娘であるクリスタルのものもあった。
証拠はその一部に記されている。
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実家に帰ると、相変わらず仲の良い二人を発見した。
私も結婚しているけれど、さすがにここまでベタベタする事はなくなったというのに。
そう言えば小さい頃、お父様に聞いた事を思い出した。
今思えば失礼な発言だったと思う。
小さい私は、両親と兄弟と初めて出たパーティーで、多くの貴族夫人達を目撃した。
それが衝撃的でつい聞いてしまったのだ。
「お母様よりきれいな人がいるのに、どうしてお母様ばかり見ているの?」と。
お父様は微笑んで、こう答えてくれた。
「お父様はね。お母様しか、きれいに見えないんだよ」
※
シェリル夫人は確かに、夫に溺愛されていたのだ。
『前世で裏切られた令嬢は、遊び人令息に溺愛される』 完
これで『前溺』は完結となります。
タイトル回収になるかなと思い、書いてみた話でした。
絵の中のフィランダーがずっとシェリルを見ているというのは、気持ち悪いと思う人もいるかと思います。
ただ、フィランダーならこうするなと思い書きました。
現実ではあまり見すぎるのはやめた方がいいと思います。
完結できたのは読んでくださった皆様がいたからです。
四年と七ヶ月もの間お付き合いくださり、誠にありがとうございました。




