06 社交界デビュー
前話から一気に時間が進みます。
そうしないと、話が進まなくて……。
今回はヒーロー登場回です!
テナーキオ歴 百十三年 春
私は十五歳になり、社交界デビューのため家族で王都へ向かっていた。王都からアストリー領は馬車で約一週間はかかるほど離れている。そのためパーティーの二週間も前に出発した。
「もうシェリルも十五歳かぁ」
「早いわねぇ。身体が弱いから心配したけれど」
「昔よりは多少丈夫になったよね」
「多少は余計です、お兄様」
剣のお陰か、二曲までならダンスも踊れるくらい体力をつける事が出来た。二曲踊った後は体力を温存すれば、パーティーも乗り切る事が出来るだろう。
身体も少しは丈夫になったが、恐らく王都に到着した直後と、私の社交界デビューである国王主催の建国パーティーの後は熱を出すだろうと予想が出来た。
それ以上に一番の心配事は私の身体つき。十五になり身体は成長したものの、胸回りは全くと言っていいほど出て来ない。お母様には「気にしないで良いわよ。まだ十五でしょ?」と言われたが、恐ろしい予感が拭えなかった。
「少しでも丈夫になった事は嬉しいわ。それより……全くお茶会に出ていないのが心配」
「仕方がないではありませんか。私が熱を出すのが悪いのです」
お母様の心配はもっともだ。
今まで参加しようとしていたお茶会、私のために開いたお茶会は、全て私の体調不良で欠席する羽目になってしまったのだから。
社交界デビュー前にお茶会などを開き、ご友人を作るのが通常の流れだ。しかしその機会を体調不良で棒に振った私は、いまだに一人も友人が居なかった。
「一人でも平気ですから、パーティーの時は食事に集中します」
「そうじゃなくて、友人を作りなさいな」
呆れた目でいうお母様に、お兄様が名案とばかりに嬉しそうに口を開いた。
「なら自分の友人に頼んでダンスして貰うのはどうだろう? 彼らなら多分頼めば受けてくれると思うよ」
「それは良いわね」
「私の友人の子どもを紹介っていうのもアリだな」
「そうよ! どうして気づかなかったのかしら!!」
家族をよそに私は苦い顔を作る。
「紹介されても……例えばダンスも二回が限界ですし……よく倒れる友人なんて要らないと思いますよ」
諦めた声で言うと、家族は悲しい顔に変わった。
「もう! その歳で諦めないの!!」
「そうだぞ」
両親の言葉に私の心は沈んだ。
王都の邸に着くと私はその日の夜に熱を出し、次の日は起き上がる事が出来なかった。私の体調を予想して、パーティーの一週間前に来れる様計画したお父様に心の中で感謝する。回復してからお礼を言うと「私はシェリルの父親だぞ? 当然だ」と頼もしいお言葉を頂いた。
パーティー当日。
私は白いドレスに身を包まれていた。シンプルだが品が良いデザインが気に入っている。
「これが着れるだけでも満足だなぁ」と感じるのは、前世でドレスを着たのが社交界デビューの時のみだったからだろう。ただ、この姿になったからといって、友人も婚約者も作る気がなかった。そんな事よりもどんな食べ物が出るのかが楽しみで仕方がない。心配するとすれば、王族方に謁見する時とドレスが汚れない様に注意する事くらいだ。
今日は私と同じ、今年で十五になる人の社交界デビューを兼ねている、国王主催の建国パーティー。テナーキオ王国全ての貴族が集まるため、この国の最大規模のパーティーになる。
変な人に絡まれなければいいや。
そんな呑気な気持ちで、家族と一緒に馬車でパーティー会場へと向かった。
王城に着くとすでに多くの人でいっぱいだった。
「すごい……」
「人多いよね。テナーキオ全土から来てるから、かなりの人数になるんだよ。シェリルが迷子になりそうで心配」
「本当に……自信ないです」
「今は固まっておけば大丈夫だよ。会場の中ではそうはいかないだろうけど、目印を決めておけば後で待ち合わせ出来るし」
使用人達と別れて、お父様が受付で招待状を渡し家族全員で会場の中へ入ると、すでに談笑している貴族達がいた。
「シェリル。この像を目印にしたら?」
お兄様が示したのは会場に入って右側にあるドラゴンの像だった。他にも会場の後ろ側にある鳥の像と左側にある狼の像があるが、一番目につくのがドラゴンだった。
「迷ったら、この像の前に立ってれば行くから」
「分かりました。この近くのテーブルで食事しますね」
「今から食い意地張ってどうするの?」
色気より食い気の妹を見て、お兄様は苦笑いを浮かべた。
会場内をキョロキョロ見回していると、今は家族と一緒にいる人がほとんどだった。
「今のうちに社交をしないのですか?」
「今は貴重な家族だけの時間なんだ。陛下の挨拶の後は大体散るからな。ただ、今年デビューのシェリルは違うぞ。陛下に謁見しなきゃいけないから、挨拶が終わったら、家族皆で陛下の元へ行かなければならない」
「あ……そうなのですね」
「デビューだけでも何人もいるからなぁ。呼ばれたらすぐに行くぞ」
私はすぐに食事は出来ないのかと密かにガッカリした。
お酒は学園を卒業してからなので、私が今持っているのはジュースが入ったグラスだった。グラスが来場した全員に配られると、陛下の挨拶の時間がきた。
「皆の者。今年も皆の顔が見れて嬉しく思う。今宵は大いに楽しんでくれ。では……カンパーイ!!」
「「「カンパーイ」」」
家族や近場にいる人達とグラスを鳴らし会うと、皆各々の目的のために一斉に動き出した。私達家族も近くにいた給仕に、少し口をつけた飲み物を下げてもらい父の号令に従う。
「では、我々も陛下の元へ向かうぞ」
お父様の後に続いて陛下が座る場所へとゆっくりと近づく。すると横から軽く誰かとぶつかってしまった。
「あ……申し訳ない」
「い……いえ」
私がぶつかった方へ顔を上げると、歳は二十歳くらいで緩いウェーブの金髪に水色の瞳を持つ美形の男が、私を心配そうに見ている。ちょっと軽薄そうな見た目で、失礼ながら私は見た瞬間に苦手な人と認定しまった。
「あ……」
「え?」
美形の男の口から溢れる不審な声を聞き取り、私は最悪な事態を頭に浮かべる。
もしかして……相手の飲み物がドレスに溢れた!?
美形の男はグラスに入った赤ワインを持っていた。私は慌てて下を向いてドレスを確認したが、飲み物が溢れた跡はない。ホッとしていると、美形の男はまだ私を凝視している。
「あの?」
「シェリル」
立ち止まる私をお兄様が迎えに来てくれた。
「どうしたの?」
「あ……ちょっとぶつかってしまって……」
「ごめん。私の不注意でぶつかってしまったんだ。申し訳ない」
「いえ……」
すると彼はやや強引に私の手を取る。……突然の事に私は少し動揺してしまった。
「えっ……」
「もしよろしければ、ダンスの申し込みをしたいのですが……。あぁ、私はフィランダー・ヘインズ。ヘインズ侯爵の嫡男です」
「シェ……シェリル・アストリーと申します。アストリー伯爵の長女です」
「それで……ダンスは受けてくださるでしょうか?」
ダンスを受けてくれるまで離してはくれない気迫を感じる。
「一曲……だけなら……」
私はダンスカードを渡して記入してもらった。するとフィランダー様が「ん?」と眉を寄せる。おそらく三曲目からは斜線が入っているからだろう。すぐそれに気づいたお兄様が横から入ってきた。
「失礼、フィランダー卿。自分は兄のメレディス・アストリーと申します」
「これは……お兄様でしたか」
「一曲目は自分と踊る事が決まっております。シェリルとは一曲だけにしてください。シェリルは身体が弱く、二曲が限界なのです」
「……そうだったのですか。分かりました。では、また後程」
美形の男はニッコリと微笑んで、私達を見送った。
謝らなければならないのですが、男達の一人称が、ただ今迷走しています。
この回から主人公の兄メレディスは『自分』に変わっておりますが、この先どうするのか決めておりません。
基本貴族は男女共『私』なんですよね。でも個性を出すためには変えようか、どうしようかと悩んでおります。
連載前に決めなきゃいけなかったのですが、私のミスです。
この先、訂正があるかもしれませんので、ここで謝ります。
混乱させてごめんなさい。
上記は解決したら削除しますね。
下記に登場人物紹介を載せております。よろしければご覧ください。
登場人物紹介
名前 シェリル・アストリー
所属 貴族 アストリー伯爵令嬢
年齢 15歳
容姿
・髪 ストレートの黒
・瞳 黒
・体型 AAAカップ やや引き締まった身体
・顔 前世の姉に近い顔
・身長 159cm
魔法 なし
名前 イライアス・アストリー
所属 貴族 アストリー伯爵
年齢 41歳
容姿
・髪 ストレートの黒
・瞳 黒
・体型 がっしり
・顔 精悍な顔
・身長 176cm
魔法 なし
名前 オーレリア・アストリー
所属 貴族 アストリー伯爵夫人
年齢 41歳
容姿
・髪 ストレートの黒
・瞳 黒
・体型 Bカップ 標準
・顔 可愛い系の顔 シェリルは母似
・身長 160cm
魔法 なし
名前 メレディス・アストリー
所属 貴族 次期アストリー伯爵
年齢 17歳
容姿
・髪 ストレートの黒
・瞳 黒
・体型 がっしり
・顔 精悍な顔
・身長 176cm
魔法 なし
名前 フィランダー・ヘインズ
所属 貴族 次期ヘインズ侯爵
年齢 22歳
容姿
・髪 ゆるウェーブの金髪
・瞳 水色
・体型 ヒョロッとした身体
・顔 軽薄そうな顔 イケメン
・身長 180cm
魔法 水魔法 高




