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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十二章: みんなで伝説探究

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012_04_それでも探すしかなくて

「待ってよ、ツバサ!」


 先程までの出来事を気にも留めない様子でスタスタと歩くツバサをわたしは必死で追いかける。ツバサは足をとめ、振り向くと、


「すまない。宝剣を奪われたのも、先ほど襲われたのも私のせいだったとは」


 悔しそうに目を伏せて謝った。


「え……? あ、ううん。ツバサが悪いんじゃない。武器を追跡できる機能があるなんて、分かるわけないんだし仕方ないよ」


 わたしはパタパタと手をふり、慌てて否定する。


「むしろわたし達……わたしが気づかなきゃいけなかったんだよ。ごめんね」


「いや……今は悔いている場合ではなかったな。早く【超越者】が残した手がかりにたどり着かねば」


 ツバサは首を振ると、力強く言い、またずんずんと進み始めた。


「そう……だね。あー、ちょっと待って。道、あってるかな…………うん、大丈夫」


 わたしはさっき見つからないようにとっさにバッグにしまった、ミライから預かっていたペンダント――ペンダントトップがコンパスのようになっている――を引っ張り出す。超越者の男のところに連れて行ってくれるというそのコンパスの針は、ゆらゆらと揺れてはいたけれど、進んでいるのと同じ方向を指していた。そうだ、ツバサの言う通り今は先に進まないと。カンとミライの事は、今は考えたってしょうがない。とにかく針の指す方向に進もう。わたしは小走りに、彼の横に並ぶ。



「コンパスが差してるのはここっぽいんだけど……」


 目の前にポツンと建っている――建っているとはもう言えなそうだけど――植物に侵食され大部分が崩れ落ちた石壁の家と、手の上のコンパスの間に何度も目を往復させて、わたしは呟いた。針は建物の方を指している。念のため建物の裏側に回ってみたけれど、やっぱり建物の方を指したからここなんだと思う。でもこんなボロボロの家というか廃墟、何か残されているのかなあ?


「彼らが生きていたのは遠い昔なのだ。朽ち果てているのは仕方のないことだろう。とにかく、手がかりを探すぞ」


 ツバサは扉、というよりは壁の穴から中に入っていった。ひとまずレイさん――目的地が見つかったら連絡するように言われていた――にメッセージを送り、わたしも後を追う。中はそれほど広くはなかった。何かないか、と探してみるけれど、家具だったっぽい朽ちた木やら、布の切れ端やらが散らばっているだけだった。やっぱり、何も残ってないのかな……。


 ううん、何もないわけじゃないんだ。だけど、役に立ちそうなものが見つからない。っていうか、何に注目したらいいんだろう? さっぱり分からないな。いつもだったら、あれやこれや考えを呟きながら部屋の中を飛び回って、そこにあるものに意味を見出していく人がいて、それにツッコミを入れながらわたしも考えるんだけど――


「おい! うるさい黒雲(リン)、一体どうした!?」


 あれ? ツバサが戸惑った様子でわたしを見下ろしている。どうやらいつの間にかふらふらと、わたしは床にへたり込んでいたらしかった。


「ツバサは……こんな最悪な状況になっちゃって、辛くないの? それから……カンの言ってたことも……。もしまた、昔みたいに選択を迫られたら、今度はどうするの……?」


 わたしは彼を見上げて問い詰めるように尋ねた。何でこんなこと聞いてしまったんだろう? 聞いてはいけない事だったと思うし、こんな聞き方をするものじゃないと思う。でも聞いてしまった。勝手なことに、わたしは何かどうしても答えが欲しかったんだと思う。彼は何の脈絡もない、突然の質問に少し戸惑った顔をしていたけど、


「辛くないわけではないが、最悪という程でもあるまい」


 やがてふっと軽く笑うと、事も無げに言った。思いもよらなかった答えに、わたしは眉をひそめて彼を見つめる。


「幸福な未来も私も、まだ生きている。お前達もだ。

 それに彼女は破壊神復活の儀式は次の破壊神の日まで待たねばならんと言っていた。皇女が帝都に攻め入るのもそれより後だろう。戦の開始は戦神の日――破壊神の日の後だ――を待たねばならぬからな。皇女は迷信と嘲笑うが、戦士達には大切なことなのだ。命を掛けているのだからな。いくら彼女でも無下には出来まい。だから僅かとはいえ時間はある。それまでに手を打てばいい。

 破壊神の復活を止めたいと訴えた幸福な未来が、なぜまた破壊神を復活させると言ったのかは分からない。だから私は彼女を必ず連れ戻し、問いただすつもりだ。破壊神の復活などさせるわけにはいかない。彼女が世界と彼女自身の破滅を望むなら何としても止める。それだけだ」


 ツバサは冷静に、力強く答えた。前向き、だなあ……。でも、もう一つの質問はどうなんだろう? わたしは彼の目を覗き込む。


「それと、淀んだ黒雲(カン)の問い……何があっても彼女を選ぶかどうか、だったか。

 正直に言えば、分からんな」


 ふっと軽く息をつくと、ツバサは短くそれだけ答えた。分からない、だなんて! 何があっても彼女を守るって、言ってくれたらいいのに。


「幸福な未来は私の大切な人だ。だが彼女だけを守れれば良いわけではない。それで彼女が幸せになるとは限らない……いや、私はそれでは駄目だと思っている。確かに淀んだ黒雲(カン)の言った通り、私の考え方は変わっていない」


 顔をしかめる私を見つめて、ツバサは静かに言った。ミライの事は大切だけど、もっと大切なことがあるって事? じゃあ、やっぱり……。もやもやする気持ちを抱えて見上げるわたしに、彼は続ける。


「以前彼女から逃げようと誘われた時、私は彼女の事を拒絶してしまった。私の事を理解してくれているはずの彼女がそうでなかったと知り、その辛さに耐えきれなかった。彼女がどんな想いだったのか、聴きもしなかったし、それに私の想いを伝えようともしなかった。

 だが今度はそうはしない。何を選んだとしても、二人で後悔の無いものにしたいんだ」


 迷いなくはっきりとそう言って、ツバサは微笑んだ。それが良い事なのかどうなのか、わたしには正直分からない。でもその答えを出した彼の笑顔は晴れやかで、それがなんだか羨ましかった。


「だが……そうだな。わたしは先を急ぐあまり考えが及ばなかった。いや……どこかでお前達はどんな状況でも、きっと打開する方法を見つけるのではないかと甘えてしまっていたのだ。だが同じ想いを持って、共に歩んでいた……これからも共に歩んでいくと思っていた相手にああ言われて、お前が平気でいられるはずがなかったな。気づくことができずすまない」


 と、ツバサがわたしのそばにかがみこんで、気づかわし気にわたしの顔を覗き込んだ


「ツバサ、気遣ってくれてありがとう。でも……ちょっと待って。そんなに重い感じではないかも。わたし達、別にツバサとミライみたいな関係じゃあないんだ」


 そう言うと、ツバサは途端に怪訝な、というか、ちょっと非難も混じったような顔でわたしを見つめた。何でそんな顔するかなあ? あ、竜人には、そういう関係以外だと一緒にいてはいけない、みたいな古風(?)な掟があるのかも。そんな感じする。


「でも……そうだ。それだ。間違いなく恋人じゃないし、友達かって言われるとそれも怪しいけど。でも今まで、短い間とはいえ、一緒に色々たくさん、大変なことを乗り越えてきたんだよ。それなのに、ぜんぜん、まったく、なーんにも関係ないみたいに言うなんてひどいよ!」


 裏切られた、ってことも辛かったんだけど、それ以上に辛かったのは何とも思われてなかった、って事だ。ずっと何だかモヤモヤしてたんだけど、ようやくその正体に気付いた。憤りのあまりわたしはぎゅっと拳を握りしめ、どん、と思いっきり床を叩く。その拍子に、叩いたそばの床板が少し浮き上がった。その下に、ちょっと隙間が空いている感じがする。


「あれ……なにこれ? もしかして、隠し扉?」


「かもしれん。ああ、ここに取っ手らしきものがあるな……」


 ツバサは突然の展開に少し戸惑いながらも取っ手に手を掛け、床板を引っ張り上げた。1メートル四方くらいの穴が開いていて、地下に続くはしごが現れた。


「きっと地下に何かあるんだ! 行ってみよう! ツバサの言う通り、まずは破壊神を止める方法を探して、復活を防がなきゃ! さっきはちょっと感情的になっちゃって上手く聞けなかったけど……今度はもっとちゃんと、カンが何を考えてるのか聞いてみよう。やっぱりゲートを開けてこっちの宝物を奪いたいって言うなら、わたしの邪魔をするって言うなら、容赦しないんだから!」


 わたしは立ち上がり、気合を入れる。あれこれ悩んだってしょうがない。シンプルに、一つずつ、出来ることをしよう。せっかくいかにも何かある感じの地下室も見つかったんだし、まずはそこに何かないか探すんだ。


 よし、行こう!

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― 新着の感想 ―
[一言] もやもやって言葉に出して、誰かと話してると晴れることもあったり。ひとまず今は出来ることを。リンが立ち直ってよかった。 カンの本心だってまだわからないし、がんばれ! ツバサは一度失敗してしまっ…
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