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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十一章: またまた遺跡探検!

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011_08_パワーアップの代償は#2

「ブースト……ぉおぅわぇ!?」


 早速レイさんに使えるようにしてもらったパワーアップ機能、【ブースト】をONにして、マドカさんを斬りつけようと思いっきり踏み込む。踏み込んでみたら、それはもう恐ろしく速く遠く飛べてしまって、自分の体とは思えなくて――ホントは自分の体じゃないんだけど、普段は自分の体って感じで動けるのに――勢い余って体勢を崩し、そのままべしゃっと地面に叩きつけられてしまった。痛い。すごいスピードだっただけにめちゃくちゃ痛い。


「物凄い勢いだったけど、大丈夫かしら?」


 マドカさんが心配そうに手を差し伸べてくれた。ありがとうございます……と手を取ろうとして、全然手が上がらない、というか全身に力が入らない事に気が付いた。これがブーストの反動ってことなのかな。


「そうか。過負荷のせいで機械が壊れるわけだ。という事はその分を置き換えてしまえば良いわけで……傷薬で回復可能ですかね?」


 カンはそう冷静に分析して、レイさんに尋ねた。


「そうそう。傷薬、使ってみて。僕がホーラがいるよ、って言ったのはこういう事さ」


 と、レイさんも肯定したので、わたしは中々動かない手で傷薬をようやく引っ張りだし、使う。するとなんとか立てるようになった。


「よかった。でも……使うの難しいですね。コントロールできないです。それに全然動けなくなっちゃうし、傷薬で回復しなきゃいけないってなると、ホント、ここ一番、ってときに、しかも一発で確実に決めないと。そのためには早く慣れて、コントロールできるようにならなきゃ!」


「まあ、確かに一発で決めるに越したことはなさそうだけど。でも使い続けることはできるんじゃないか? 自動回復と組み合わせれば自分で傷薬を使わなくていいし、回復装置の限界までは勝手に回復してくれる。タイムラグはあるだろうけど、それなりに連続運用可能じゃないか?」


 カンが腕組みをして、わたしの方を――わたしを、ではなくて分析対象を、って感じかな――じっと見て考えながら言った。


「あー、スウィスウィだっけ。ユキやネネが連れてたペットのユニコーン! 傷薬をカバンから出すのも結構辛いから、勝手に回復してくれたらすごい良い!」


 あれと戦った時はすぐ回復されちゃって苦労したけど、今の状況だったら頼もしい。


「ああ、そうだね。いいアイデアじゃない!」


 レイさんも賛同した。よーし、後でスウィスウィちゃんをお迎えに行こう。高そうだけど、結構騎士団の仕事でホーラは溜まってるし。


「運用方法を考えるのは良いけど、アンタは試してみないのかしら?」


 マドカさんが腰に手を当て、ずいっと踏み込み威圧気味にカンに言った。


「いやー、止めておきますよ。俺には使いこなせそうにありませんし。それに大体俺、メインは銃ですし、ドローンやら各種予測アプリやら、戦闘支援システムのコストを考えると、そこまで手――っていうより(ホーラ)か――が回りませんしね」


 カンは即座に首を横に振り、ものすっごく早口に言い訳を並べた。


「まったく、いつもいつもアンタは……。やる前からできないって言うんじゃないわよ。これから接近戦、重要になるのよ? ちょっとは努力しなさいよね!」


 マドカさんからお説教が飛んだ。それに対して何も言わずにひょい、と肩をすくめるカンに、


「まあ、確かにカン君は適性が無いかもね」


 レイさんが冷静に、あまり感情を込めずにさらりと告げた。カンが眉をピクリと跳ね上げた……ような気がした。何も言わない彼に、レイさんが続ける。


「そもそもそんな武器のチョイスをするあたりがね。成程君の装備は上手く組んでると思うよ。探検時の野生生物に対する自衛って目的によく合致してる。でも攻撃力って意味だとやっぱり弱いよね。それ、普通の猟銃の威力しかないんだから。その気になれば大型の竜だって狩れる腕力があるのに使わないって勿体無いでしょ?

 とはいえ力を上手く使うのは結構難しいよね。君もよく知ってると思うけど」


 確かにカンの銃って、スイフトフェザーみたいな固い鱗のない小さい奴は倒せても、トライホーンドラゴンには殆ど効いてなかった。そうだ、あの時は大きな武器を思いっきり振り回して倒したんだよね。でもって、それもホント大変だった。そういえばセイ達が来てからのカンって、何してたんだか記憶にないな。ちらっと隣を見ると、彼はレイさんから目を逸らし、唇を固く結んでいた。レイさんはそんな彼を一瞬だけ見ると、さらに続ける。


「機体は皆同じなんだけど、強さには結構バラツキがあるよね。強いプレイヤー――まあ、機体を上手く動かせるって言った方がいいかな――は体を動かすイメージがあるんだよね。で、そのパターンは2種類。一つは現実の体の動かし方を知っている場合。マドカさんみたいに元々動ける人だね。それだとそのまま強いってわけ」


 同じ機械のはずなのに、マドカさんとわたしの間には随分な差がある。そういう事なんだ。でももう一つは何だろう? わたしはレイさんを見つめ、先を促す。


「でもね、それだけじゃないんだ。結構、“ゲーム”って信じ切ってる方が――自分がカッコよく技を決める勇者だか戦士だかになり切っちゃう方が――そういうイメージができるから、高い運動性能を使って動けちゃったりするわけさ。

 でも実はこれも難しいんだよ。どっかで疑っちゃうと言うか、ブレーキを掛けちゃうみたいなんだ。君は特にその傾向が強いよね。どっか冷めてて、努めて現実的に考えちゃう。結構夢見がちな割にさ」


 レイさんは淡々とそう言って、カンに視線を向けた。彼は目を閉じて、軽くため息を吐いた。あー、言われてみると確かにそんな感じ。けど、わたしだってブレーキ掛けちゃってる気がする。わたしの場合は、何か怖くって、こんなのムリ! って思っちゃう。でも頑張らなきゃ、っていつも言い聞かせてる感じ。


「あ……そうか。ゲームの勇者になり切る……だから、セイなんですか?」


 レイさんの最後の言葉にふっと思い当たって、わたしは尋ねた。そうだ、セイは完全にゲームとして、いかに強い敵を倒すかってことを楽しんでる。タイラントドラゴンにもツバサにも、一切臆することなく、だ。自分は倒せる、って信じてる。レイさんは、こくりとうなずいた。


「多分そうだと思うよ。君のお友達――元、かもしれないけど――は、なり切れる側だ。同じリスクオンのジョーとか金騎士団(ゴールドナイツ)のシンとかも強いけど、効率重視の指揮官タイプだし、どちらかと言うと疑っちゃう側だと思うよ。きっと新型は更に性能高いから、彼女みたいなのの方が都合がいいんじゃないかな。まあ、ショウ君に聞くこともできないから、確かめられないけど」


 うーん、何でセイ? って思ったけど、そう言われたらセイがベストな気もするな。中々そういう人っていないと思うし。


「けどブーストを使えば、とりあえず旧型で最高のパワーとスピードは出せるんですよね。だったら後は頑張って使いこなせるようにすればいい、と。よし、じゃあ練習あるのみ!

 マドカさん、すみませんけど、また修行、よろしくお願いします!!」


「いいわよん。かかって来なさい!」


 わたしは再びブーストを使い、マドカさんに飛び掛かる。


 何度か地面に叩きつけられたし上手く剣を振れなかったりもしたし、傷薬も結構使ったけど、おかげでちょっとずつ、どうしたらいいか分かってきた気がする。少なくとも、転ぶことは無くなってきた。



「そこそこ動けるようになったわね。でもリン、ここまでにしましょ。あまりホーラを使いすぎると、ログインできなくなるわよ。それじゃ本末転倒だわ」


「……はい」


 まだ思い通りに力を使いこなせてる、とは言えなかった。ブースト無しのマドカさんに対応されてしまっている。実戦ではまだまだって感じだ。もっと頑張ろう。


「何でそんなに頑張れるかねえ……。練習に、一体いくらつぎ込んだのやら」


 レイさんの横でぼんやりわたし達の様子を眺めていたカンがため息交じりに、小馬鹿にしたように呟いた。今更お金の事を言うなんて! しかも言い方! もう、カチンときた!


「意外と最近の白騎士団の活動でホーラ、たくさんあったし、別にお金がほしいわけじゃないし。っていうより、それを使えば強くなれるなら、そっちに使うよ。だって、ミライ達のためにも破壊神を止めたいもん。邪魔してくる人達には勝たなきゃ。

 それにセイはこのゲームのこと、知らないんだよ。知らないまま、竜人を滅ぼすようなことをして欲しくない。だからやっぱり、彼女の事も止めたい」


 なので、わたしはビシッとバシッとスパッとはっきり答えてやった!


「ふうん……。人のため、か……」


 彼は死んだ魚のような目をして乾いた笑いを浮かべると、くるりと踵を返した。何なのその態度。友達のことを考えるのがそんなにおかしいって言うの? 立ち去ろうとする背中に怒りの文句を浴びせようと息を吸い込んで、ふと気づいた。人のため、ってだけじゃなくて、自分のこともあるな、って。今のミライ達のことも、この世界を侵略するのを止めるってことはもちろんあって、それはウソじゃないんだけど、理由の全部じゃあない。


「あと……やっぱり負けっぱなしはくやしい!!」


 そう、やっぱり何かくやしい、ってのも大きいんだよね。もちろんセイは強い――新型じゃなくても、わたしより強かった――わけだし、リスクオンも連戦連勝で稼ぎまくってるトップのギルドで、わたしはそうじゃないから、見下すのも分からなくはないけど。でもそういうのって嫌だし、このまま負けてくともっとひどくなるだろうし。だからきっちり勝っておきたいんだ。そう思って、わたしは拳をぎゅっと握って高らかに言った。すると彼は足を止めて振り向き、ぱちぱちと何度かまばたきをして、


「そう」


 と、ほんのちょっと口元をゆるめて一言呟いた。なんなのかなあ。そんなにおかしいかな? 目的優先な彼にしてみたら、何言ってるんだってことなのかなあ? 彼がどう考えているかは分からないし、問い詰めてもきっと彼も答えないと思うし、ここでさらに険悪になるのもやだから聞くのはやめとこう。


 けど、どうあれわたしは強くなりたいんだ。だから使いこなせるようになるまでガンガン使っていくのみ、だよね!


 がんばるぞ!!

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