011_01_死者の都へレッツゴー#1
「あら? 今回は貴女だけなの? ……そう、他の二人は別行動なのね。ふぅん……何の力もない貴女だけで大丈夫なのかしら?」
二人のところに来たのがわたしだけなのを不審がるミライに、カンは別行動で、リスクオンの動きを見張るから、わたしとミライとツバサで宝剣を回収しに行く、という事を伝える。すると彼女は腕を組み、薄目でわたしを見てキツイ一言を浴びせた。うう……頼りないのはそうかもしれないけど、そんな意地悪を言わなくてもいいのに。
「幸福な未来。そんな事を言うな。飛竜に乗せられるのは後一人が限界なのだし、宝剣の在処は私が知っているのだから、黒雲の特殊な力が必要なわけではない。それに何の力もないというが、うるさい黒雲は勇気と根性がある。いざという時は重要なことだ」
涙目のわたしをツバサが真面目な顔でフォローした。勇気はともかく根性ってどういう事なんだ、と思わなくもないけど、ごくごく真面目に言ってくれたわけだから、ありがたく受け取っておこうっと。ミライは腰に手をやり、ぷいと目をそらして、
「ただの冗談なのに、二人とも真に受けすぎだわ」
とため息を吐いた。ツバサはちょっと照れたような顔をしたけれど、それをごまかすかのように、
「……話している場合ではなかったな。敵対する黒雲に出くわさんようにするのだろう? 急ぐぞ」
と、努めて冷静にわたし達を促した。そうだった。タイミング間違えたら鉢合わせしちゃうかもしれないもんね。わたし達は急いで飛竜に飛び乗った。
結局探検エリアはリスクオンもわたし達も【忘れられた都】の周辺で重なっていた。しかも遺跡、と言っても今も使われていて、近くに竜人が住んでいるから、彼らのいない時間帯――日の入りから次の日の出まで――でないと探検はできないみたい。だからリスクオンのいないときを狙う、というのは無理だった。なのでリスクオンの案内役のカンと上手く連絡を取って、彼らと会わないように探検する事になった。ツバサとミライも他の竜人に会わない方が良いから、この時間の方が都合がいいという事ですんなり受け入れてくれた。
で、今回はカンだけでなく、マドカさんもリスクオンと一緒に行くらしい。マドカさんが行くのは珍しいな、と思って理由を聞いてみたら、最初はカンだけだと心配だから、と言っていた。でも、普段は放置なのに、とカンが問い詰めたら、リーダーがイケメンらしいから見に行きたい、という真の理由を白状した。ちなみに、セイ――とってもかわいいジョーの彼女――の事を言ったら、イケメンに彼女がいるかいないかなんて気にしない、だそうだ。いてもそいつから奪えばいいだけ、と満面の笑みで指をパキパキ鳴らしながら付け足していた。あれは怖かったなあ。
白騎士団三人のうち二人が来るのに、わたしだけ来ない、ってことになるんだけど、それはぜんっぜん不審に思われなかったそうだ。喧嘩別れしたところに来たくないのは当然だし、特にセイとの仲は険悪だし、ということで、ジョーもリカも納得してた、と主にリスクオンと話をしていたカンが言っていた。今回はそう思ってもらえた方が面倒がなくていいんだけど、でもホントはそうじゃなくて、わたしは仲直りしたいんだけどな……。って、暗くなってもしょうがない。交渉は上手く行ったんだし、遺跡から宝剣を持って帰ることだけ考えよう。
そうそう、遺跡探検免許はちゃんと――ちょっと危うかったけどカン先生のスパルタ試験対策講座のお陰もあって――取れた。だからわたしだけで遺跡に入っても大丈夫! ……って言っても、帝国領側はどうもルールも関係ないっぽい。実はわたしも、今回はルール違反の武器を持ち込んでる。万が一リスクオン――ばっちり武器を持っていくらしい――と会って戦う事になった時に備えてだ。もちろん遺跡を壊したりしないようにしっかり気を付けないとね。
「あ、あれ、町? そこが目的地なの?」
ふと下を覗くと、暗い中に町のものらしき灯りが揺らめいていた。
「そうだ……いや、正確にはあの町の周縁部なのだが。とはいえ町に直接降りるわけにはいかん。銀星を隠しておかねば。一旦近くの森に降りて、そこから歩くぞ」
ツバサが徐々に高度を下げ、銀星――ツバサの飛竜の名前――を森のそばに着陸させた。銀星を森に残して、わたし達は、さっき通り過ぎた町の方を目指す。
「でも黎明の翼、どういうことなの? 英雄は【第二の都】に祀られていたはずよ。それがどうして【忘れられた都】なのかしら?」
先頭を歩くツバサに、ミライが怪訝な顔で聞いた。
「彼の故郷だからだ。故郷で眠りたい、というのが彼の希望だったそうだ。とはいえ新しい国の中心に祀りたいという残された者たちの希望の方が強かった。それで結局都に祀られたのだが――」
「実は別の場所に眠っていたのね。そしてそのことは、限られた者だけに伝わる秘密にされた、ということかしら」
ツバサが話すより先に結論を尋ねるミライに、ツバサが「そうだ」とうなずいた。英雄が眠ってる場所は秘密なわけだから、宝物の隠し場所にしたってことなのかな。
そんな話をするうちに、崩れかけた家と、家というよりもはやテントがまばらに並ぶ、なんていうか暮らし向きと治安の悪そうな町外れにたどり着いた。その先に見える、町――飛竜から見えた方――を囲む壁にはかがり火がたかれているものの、こちら側には目立った灯りは無く、陽が落ちた後の町を照らすのは星だけだった。まさに満天の星空、って感じできれいに輝いていて、それなりに周りも見えるんだけど、やっぱり暗いのは暗い。
「こんな時間に出歩く者もいないとは思うが、警戒した方がいい」
そういうツバサは頭からすっぽりと黒い布を被り、闇に紛れこんでいた。ミライも同じような格好だ。一応周囲を警戒しながら、誰もいない通りをツバサを先頭に、足早に進んでいく。少しして、ふと何となく嫌な空気を感じた。それとほぼ同時に、
「うるさい黒雲、幸福な未来を頼む」
ツバサが真ん中を歩いていたミライを少しわたしの方へ押したかと思ったら、ふっと目の前から消えた。状況がよく分からないながらもわたしは急いで、よろめくミライをそばに引きよせ盾を構える。ツバサはどこだろう、と探していたら、何かがぶつかる高い音が聞こえてきた。わたしは慌ててそちらに目を向ける。
闇の中に浮かび上がったのは、ツバサと剣を交える、暗い紫の髪をした、鋭い眼つきの竜人の男だった。




