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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十章: ゆるゆる休息時間!

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010_09_宝探しにもう一度

「こんなまたすぐに帝国に行くことになるなんて思わなかったな。でも今回はツバサの飛竜に乗せてもらえばいいから、スターリングから船に乗らなくても行けるよね」


 ついこの間、やっとの思いで帰ってきたのを思い出しながらカンに声を掛けた。彼はせっせとホワイトボードにさっきミライ達から聞いた話を書き込んでいる。


「まあね。けど飛竜って、小柄なミライさんを入れて3人で限界だったんだよな。それに、帝国領に行くこと自体、問題になりそうな気もするし……」


 振り返らずに答えた彼の言葉に、思わずハッとした。何で気づかなかったんだろう。


「うわ、ホントだ。これじゃみんなで行けない!! どうしよう。ツバサに二回に分けて送ってもらうとか? 時間掛かっちゃうけど……。あとやっぱり帝国行きは運営に相談しないとダメだよね。とりあえず、レイさんに聞いてみよう! あ、でもわたし連絡方法とか知らないや。カン、連絡してもらえる?」


 レイさんていつも気が付いたらいる感じだから、こっちから連絡することなんてなかったんだよね。でもきっと、カンはよく一緒にいるし、連絡を取れるんじゃないかな。そう思って彼に頼んだんだけど、なんだかちょっと嫌そうな顔をされた。宝剣とか、遺産関連は興味あるはずだから、ひょいひょい動いてくれるかと思ったんだけど。


「カンってさ、もしかしてレイさんの事あんまり好きじゃない?」


 そういえば一緒にいる割にそれほど仲良さそうな感じじゃなかったな、と思ってつい聞いてしまった。彼はホワイトボードのマーカーを置いて、くるりと振り返ると、少しうつむいて、


「嫌いってわけじゃない。けど苦手ではあるかな。何でも見透かされてる気がして。運営の仕事が無かったら、自分で探検して、俺なんかよりもっと色々見つけてるんじゃないかって気もするし……」


 と、苦笑交じりに答えた。いつもよりほんの少し暗いその声に、聞いちゃいけなかったな、と思った。何かありそうな感じだ。


「おっと、こんな話をしてるとそろそろ現れるんじゃないか? 俺が連絡を取るまでもなく」


 カンはぱっと顔をあげ、おどけた調子で軽く笑いながらドアの方を見た。つられてわたしもそっちを見る。


「やあ、元気? あれ、何か来ちゃいけない感じだった?」


 ただの話を変えるための冗談だと思ったのに、ウワサをすれば何とやら、レイさんが扉のところで笑っていた。うわあ……もしかしてそばで聞いててタイミング見計らって現れた、とかかなあ。やっぱり、わたしもちょっと苦手。悪い人ではないと思うけど。


「いえ、丁度頼みたいことがあって、連絡しようと思っていたところですから――」


 カンがレイさんに一通りツバサから聞いた伝説の続きと、ツバサは宝剣を帝国の【忘れられた都】と呼ばれる場所に隠したこと、それを取り戻すために帝国に行きたいことを説明した。


「うーん、それ、どうかなぁ。帝国領って今まで探検出来てなかったんだけどさ、今は帝国側――っていうか、皇女様だけだろうけど――のお許しが出たから、向こうに小さな拠点を作って探検してるみたいなんだよ。そっちはショウ君が仕切ってるんだけどね、彼、僕に殆ど情報流してくれないんだよ。困った奴だよねぇ! まあ多分彼の愉快な手下共がその辺りの遺跡とか、探検してると思うんだけどさ。でも、だとすると面倒だねぇ」


 レイさんはホワイトボードを見ながら、ひょいと肩をすくめて答えた。ショウさんって、リスクオン設立の時にいた、何かすっごい冷たそうなザッツエリートって感じの人だよね。ジョーと仲いい感じだったなあ。


「愉快な手下共、ってジョー達……リスクオンのことですか?」


「そうそう。それから金騎士団(ゴールドナイツ)もだね。まあ金騎士団は遺跡になんて興味無いから、実際はリスクオンがやってると思うけど」


 ジョー達も興味ないと思うけど、金騎士団に押し付けられたらノーとは言えないだろうし、報酬がたくさんもらえればやりそうだ。そうだね、前に遺跡に行きたくないのは儲からないからって言ってたっけ。


「リスクオン他と鉢合わせするのは御免蒙りたいですね」


 カンが面倒くさそうに首を振った。


「そうなんだよね。ま、鉢合わせちゃったら蹴散らすってのでもいいけど、それもちょっと厳しいよねえ。実際の探検エリアがどこかは分からないけど、重複している可能性は高いんじゃないかな。それにリスクオンって人多いから、出くわしちゃう可能性もそれなりにありそうだし」


 レイさんが腕を組み、苦笑した。こっそり入るのも見つかるリスクがあるっぽい。飛竜で行くと人数制限がある、っていうのもあるしなあ。どうしよう。


「そうだ! もういっそ、ジョーに直接頼んでみるとか!! ツバサ達をリスクオンに会わせるとセイがリベンジに燃えそうだから……わたし達はリスクオンと一緒に行って、ツバサ達には飛竜でこっそり行ってもらって現地で合流、とか!!

 あ……でもジョー達がOKしてくれるかなあ……?」


 それだったら普通に頼んで堂々と入れてもらっちゃえばいいんじゃ、と思ったんだけど、OKしてくれるか以前に彼らに頼めるのかなあ。リスクオンとはほとんど喧嘩別れみたいな感じになっちゃったし、セイなんてわたしのこと、リアルでも無視だしなあ。自分で言っておいてなんだけど、キビシイかも。


「……ちょっと待って。そのジョーから何かメッセージが来てる。……おや、どうやら彼らの遺跡探検は捗々(はかばか)しくないらしいね」


 カンが【探検用情報端末(エクスプローラ・ギア)】を片手に薄い笑みを浮かべた。


「ジョー、何て言ってるの?」


白騎士団(ホワイトナイツ)って遺跡探検が主な仕事らしいじゃん? だから探検したいんならさせてやってもいいぜ。但し発見の報酬は全てリスクオンの取り分だ。経費はそっち持ちで、何人で参加してくれても構わねえぜ。お前らにとって悪い話じゃねえだろ?

 ……だ、そうだよ」


 ジョーっぽい口調でメッセージを読み上げ、短く息を吐くと、カンがこちらに視線を向けた。意外と似てたなあ……って、そんなことはどうでも良くって。


「え、ちょっと何言ってるの? それ、どう考えても悪い話だよ!! 自分達だけじゃ上手く行かなかったから、遺跡探検のノウハウがある白騎士団にタダ働きさせて、おいしいところだけ取ろうってことでしょ!! わたし達のこと、何だと思ってるのかな! そんなの、許せない!!」


 あまりにも上からで、自分勝手すぎる言い分にカチンときた。報酬は山分けとか、経費は向こうが持つ、とかならまだ分かる。タダ働きなんてひどすぎる。友達……じゃないにしても知り合いにそんな無茶な要求吹っ掛けるなんて信じられない。さっきはジョーに頼んでみたら、と思ったけど、こんなヒドイ条件出してくるならやっぱりだめだ。


 怒り心頭なわたしに、カンは眉根を寄せ、首をかしげていた。なんでそんなに怒ってるんだって、そんな顔だ。


「俺は受けようと思うよ、この話。ジョーの言う通り悪くはない話だから。リンさんだってジョーに頼んでみたら、って言ってたじゃないか」


 彼はふぅ、と息を吐くと淡々と言った。悪くはないって言うけど、そんなはずないじゃないか。少なくともジョーは思いっきり悪いことしてる自覚があるはず。こっちの足元見てる感じだ。そういう悪意には敏感だと思ってたけど、そうでもないのかな?


「さっきはそう言ったけど、こんな条件つけると思わなかった! これ、悪い話だよ! いつも都合よく人を利用しようとしてさ。ジョーはカンのこと、何だと思ってるのかなあ!

 トライホーンの時だって、結局解体免許(ライセンス)持ちを安く捕まえてたってことだったし。カンもそういうの、怒ったほうがいいと思うよ!!」


「え? 俺のこと? それはまあ、何と言うか……とにかく、別に納得しようと思えばできないこともないから目を瞑ろう。それに、腹を立てたところでどうなるわけでもないし。

 そうだな、やっぱり悪い話というわけでもないよ、今のままじゃ彼らを連れての遺跡探検――ましてや帝国領の――は厳しいんだから。リンさんの言った通り、リスクオンの帝国側の拠点から入って彼らと合流出来れば――まあ、リスクオンに協力する以外の使用は許可してくれないかもしれないけど――飛竜の定員オーバーは一応クリア可能だ。それに向こうの状況が探れるならいいじゃないか。今回の探検のためが第一だけど、ついでに強硬派が何を考えているのか分かるかもしれないし。

 まあ条件は微妙でも、金銭面で交渉しようとすると時間もかかるし、他を当たられても困るし。遺跡探検は白騎士団の専売特許じゃないからね、残念ながら」


 彼はため息交じりに、腕を組んだまま、ややたどたどしく言った。目的のためと割り切って考えられるのは凄いと思うけど、でもそれってストレス溜まらないのかなあ? わたしにはできないな。


「ふぅん……カンがそれでいいならいいけど……」


「まあとにかく、彼らの状況を探ってみよう。目的地が彼らの探索エリアと離れていれば問題はないし、それか彼らのいない時間が分かればいいけど、どうだろうな。

 時間が重なったら、残念だけど今回は別行動かな。ツバサ達とはリンさんに行ってもらって、俺がリスクオンの案内だね。なるべくそっちから離れた場所を」


 確かに、ジョー達の状況が分からないと今は何にもできないか。それに、リスクオンのいない時間が無かったり、拠点が使えなかったりだったら、カンの言う通り別行動にするしかなさそうだ。リスクオンから遺跡探検を手伝えって言われてるんだし。


「うーん……そうだね。でももし別行動になったら、カンはいいの? 宝剣とか英雄の残した手がかりとか、興味あるでしょ? 自分で探せなくなっちゃうけど……」


 わたしが尋ねると、彼はしばらく不思議そうに瞬いて、わたしの方を見ていたけれど、やがてふっと軽く笑って、


「まあ、宝剣は回収した後で調べればいいし、それに英雄が眠ってるという遺跡自体には行けるわけだから、何か他も探してみればいいさ。

 それにあの二人と一緒に遺跡探検なんて気まずくて仕方ないしね」


 と、ちょっと肩をすくめて答えた。後半はそんな言い方することないのに、と思うけど、いつものなんかめんどくさい感じって事で気にしない、気にしない。


「そっか。カンがいいって言ってくれるなら、そういう感じで行こう!」


「良かった。話はまとまったみたいだね。じゃ、頑張って」


 レイさんがにっこりさわやかスマイルを浮かべて、ひらひらと手を振った。


「はい。それじゃ、ジョーに返事しておかないと」


 カンはそう答えるが早いか、カタカタとすごい速さで虚空に浮かべたキーボードを打ち始めた。


 彼は少しして手を止めると、ふいに何かを思い出したようにわたしをじっと見た。


「あ、そういえばリンさんて遺跡探検の資格(ライセンス)持ってたっけ? 帝国領側には適用されなそうな気もするけど、念のためってのもあるし、それに心構えとして知っておいた方が良いから、持ってないなら取っておいたら?」


 あ、そういえば持ってない。また勉強しなきゃ、だ……。


 でも、破壊神の復活を防いで、ミライ達には幸せになってもらわなきゃ、だ! そのためなら勉強くらい、どうってことないよね。頑張るぞ!


今回で10章終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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