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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十章: ゆるゆる休息時間!

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010_07_二人の過去とこれからと#2

「これは……君が皇帝から取り返してくれたのか? ……そうか。すまない。決して奪われてはならないものだったのに、私には守りきる力がなかった」


 ミライが取り出したペンダントを見るや、辛そうにツバサが目を伏せた。あれ? どういうことだろう? 今の話だと、これを皇帝に奪われたのはツバサ、ってことだよね。じゃ、これはツバサのものなんだ。で、それを皇帝からミライが取り返したってことなのかな。でも、きっとそれだけじゃない。


「もしかしてこのペンダント、ミライがツバサにプレゼントしたもの?」


 大切な人からのプレゼントを奪われた、なんてなったら辛いに決まってる。そう考えてわたしが尋ねると、二人がはっとした顔で同時にわたしを見た。


「……ああ、そうだ。彼女が母親から受け継いだ、大切なお守りだ」


 ツバサは目を閉じて、沈んだ声で答えた。ミライは何も言わず、ペンダントに目を落としたままだった。


「受け継いだお守り……何だっけな……あ、あった、これだ。そのコンパス、竜人の風習の……女性が結婚相手に贈るお守りにされてたってことか。大抵の場合、娘が生まれたら、その子の将来の相手のために、ってことで引き継ぐ、と」


 カンが探検用情報端末(エクスプローラ・ギア)を見ながら呟いた。画面を覗き込んでみると、そのことが書かれた研究所のレポートが表示されていた。へえ、そんな風習あるんだ。でも、そうだとしたら、彼らの過去は、余計に辛いものだったってことになるじゃないか。


「そっか……結婚、するはずだったんだ。それなのに――」


「ずっと母娘の間で受け継がれてきたのなら、どこかで超越者に行きつくはずだ。単に超越者から奪い取ったもの、って可能性もあるけど、外見とかからしてミライさんには超越者の血が混じっているはず。

 でも、それがその男だったとすると変だ。竜人の土地に来てすぐ処刑されたのなら子孫は残っていないはず。とはいえ他の超越者だとすると、今度はそのコンパスは何のための物か、って事になるし……。いずれにしても謎だな。

 ミライさん、何か他に聞いてない?」


 わたしは二人の過去を思い、どうにもやり切れない気持ちに沈んでいたのだけど、彼は全くそんな事は気にもしなかったみたい。カンは腕を組んで、どこか遠いところを見つめたまま、早口に推測を語っていたかと思ったら、ぱっとミライの方を振り向いた。


「私は破壊神を復活させたいのよ? それを防ぐ手がかりになるような事、たとえ知っていたとしても教えるはずないじゃない! こんな下らない話にいつまで付き合わせる気かしら!

 そうよ、黎明の翼、いい加減に宝剣の在処を言いなさい!!」


 ミライははん、と鼻で笑ってカンに答え、そしてツバサに詰め寄った。ツバサはそれには構わず、落ち着いた様子でわたしとカンの方を見た。


「宝剣の隠し場所には私が案内しよう。そこには英雄も眠っている。何か他の手がかりがあるかもしれない」


 よかった! 案内してくれるんだ! 英雄も眠って……そっか、そんな場所だったら、ミライが見たって言う日記みたいに昔の事を伝える何かがあるかも! それに、宝剣も、万が一誰かに見つかっちゃうこともあるかもしれないから、早めに押さえておいた方がいいよね。


「何としても、破壊神の復活を防がねば。同胞達の平穏な暮らしを守るのが、生き残ってしまった私に課せられた務めだ。そのためならば何でもしよう。黒雲、一緒に来てくれるな?」


 ツバサは力強く言った。だけど、なんだろう。なんかちょっと引っかかる。頼もしいと思うし、もちろん破壊神の復活を防ぐことには賛成、なんだけど……。


「ツバサ、わたしだって破壊神、復活させたくない。だからもちろん一緒に行くよ。だけど……ちょっと待って。上手く言えないんだけど、何か違う気がする。

 そうだ……ツバサ、もしかしてやっぱり、自分は死ぬべきだったって思ってるのかなって、ちょっと思っちゃったからだ。守らなきゃいけないって、そんなに自分を責めなくてもいいんじゃないかな、って」


 ツバサはさっきまでの穏やかな様子ではなく、鋭い目でわたしを見つめた。気を悪くさせちゃったかなあ。


「あ……ごめんね、変なこと言って。的外れ、なのかもだけど。みんなを守りたいって言うのはすごくいい事だと思うけど、そんなに一人でこうしなきゃ、って背負いこまなくていいんじゃないかな。危機が迫っているのはそうだけど、でももうちょっと、自分のことも考えていいと思うな」


「私の事、だと……?」


 彼は低く、小さく呟いた。ちょっと視線が怖いけど、わたしは目を逸らさずにうなずく。そんなわたし達に、ミライは冷ややかな視線を浴びせた。


「フン、そんなの無理な話よ。()()を守るために戦い、華々しく散って、神の御許に迎えられることだけが望みの戦士なのよ? それ以外なんて、考えられないのよ!

 まあ、そんな事はどうでも良かったのよ。英雄の眠る場所、ね。場所の目星はついたわ。宝剣は、私が手に入れる。貴方達、一緒に来るわよね」


 そしてカンの方をじっと見て、念を押すように問いかけた。彼はふっとため息を吐いて、


「場所が分かったとして、どうやって行く気だよ。前に言わなかったか? 俺達が帝国領に行く手段は限られていて、容易には行けないって。まさか飛竜でも奪うのかい? 帝国領にお尋ね者が一人で行くって? 冗談じゃない。そんな事をする気なら、悪いが拘束させてもらう。これ以上の面倒は御免蒙りたいからね。

 前よりずっと帝国行きの条件が厳しくなってるんだ、とにかく対策を立てるのが先だよ、人選も含めて」


 と、冷たくぴしゃりと、ものすっごく早口に言った。それを聞いたミライはむっとした顔で彼を睨み返した。もう、険悪な雰囲気を加速させないでよね! 言ってることは分かるけど、言い方も気を付けてほしいなあ。こういうときって、どんどん悪い方向に受け取っちゃうものだしさ。わたしはいったん深呼吸して、


「とにかく、みんなで行ける方法を考えようよ、ね。宝剣と、破壊神を止める手がかりを手に入れなくちゃ。みんなで破壊神を止めよう」


 と、ややめんどくさそうにため息を吐くカンと、じっと何かを考えている様子のツバサと、いら立つミライに笑顔で伝えた。でも、誰もそれに賛成してくれなかった。それどころか、ミライのいら立ちはドンドン濃くなっていく。彼女は破壊神を復活させたいってことなんだから、そりゃ反対するだろうけどさ。


 でも、そうじゃなくて、彼女もホントはやめたいんじゃないかって思うんだ。

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