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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十章: ゆるゆる休息時間!

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010_06_二人の過去とこれからと#1

「この島が浮かぶ湖の周囲には、かつての英雄達が建てた三つの国があった。前皇帝はその三つを統一しようとした。一つを滅ぼし、そして我々の国にも攻め込んできた」


 二人の過去に、一体何があったのかと尋ねたわたしに、ツバサは静かに語り始めた。破壊神を復活させる宝物を集めるために、他の国を滅ぼした、ってミライや皇女も言ってたっけ。


「我々は当然、戦う事を選んだ。たとえ帝国が強大であろうと、黙って滅ぼされるわけにはいかない。

 戦う者にだけ、神の栄光はもたらされるのだから」


 静かに、でも強く、ただどこか寂し気にツバサは言った。その言葉を、ミライがふっと嘲笑う。


「そんなものが、誰かにもたらされたのかしら? どうして、あの時――」


「逃げようと言った君と、一緒に逃げなかったか、か……?」


 ツバサがミライをじっと見つめた。何も言わないミライに、彼は続ける。


「私とて、君と一緒にいたかった。だが、二人で逃げて、それでどうなる? 同胞を見捨てた罪悪感を抱えて二人だけで幸せに生きられるものか」


「死んでしまったら、何にもならないわ!

 ……ああ、でもきっと貴方は言うんでしょうね。戦の生贄として捧げられ、永遠に神に仕える私と、勇敢に戦い神に召され、永遠にそれを守り続ける戦士の貴方、それが至福の在り方なのだって」


 ミライがふっと乾いた笑いを浮かべた。そうだ、前にイケニエにされかけたところを逃げ出したんだって、そう言ってた。


 それに、前にツバサがミライに役目を放棄して消えた、とか責めてたっけ。それってこの事だったんだ。ミライはイケニエにされそうだったけど、逃げた。逃げる時に、戦っても勝ち目がないからとツバサを誘ったんだ。でもツバサは応じなかった。で、戦いの後ミライは皇帝の奴隷、ツバサは皇女の夫として帝国で生きることになった、と……。ヒドイ。何でそんなことになっちゃんたんだろう。


「逃げて、生き延びた先には何があった?」


 ツバサはミライの言葉に表情を変えることなく、静かに問いかけた。ミライがはっと目を見開き、ぎゅっと自分の体を抱いて、小刻みに震えた。これまでの彼女の話からすると、思い出したくもないような地獄だったはずだ。でもそれは、きっとツバサにとってもそうだったんだと思う。そりゃあ、待遇はミライよりずっといいのかもしれないけど。ツバサはどことなく暗い目をして、小さく息を吐いた。


「君が帝国でどんな仕打ちを受けていたのか、本当のところは分からない。だが、辛かったのだろう? 世界を滅ぼそうとするほどに。やはり、君もあの時――」


「神に捧げられるべきだった? 冗談じゃないわ。どんなに祈っても、何を捧げても何一つ叶えてくれないくせに、ひとたび裏切れば罰だけは与える無慈悲な神なんかに捧げられなくて良かったわ! 私を捧げたところで、勝利なんて無かったのよ!!

 そう、私が信じるのは破壊神だけ。全てに等しく、滅びを与える破壊神だけ!

 ……食事も終わったわ。さあ、黎明の翼。早く本物の宝剣の在り処を話して」


 ミライはすっと立ち上がりると、さっさと空になった食器を片付けながら強い調子で言った。しまった、なんか悪い方向に話が進んじゃった。いっぱい辛いことがあったからそう簡単に過去を捨てられないんだろうって思う。でもミライだって、ホントは破壊神を復活させるよりも、二人で一緒にいたいんじゃないかなあ。そうだったらいいな、ってわたしの願望かもしれないけどさ。


「ミライ、ちょっと待って。この間も言ったけど、わたし達は破壊神の復活を止めるために動いてるんだよ。だから、ツバサに宝剣の在処を聞いたとしても、破壊神の復活には使わない」


 彼女に考え直してもらうために、わたしはできるだけ落ち着いて、ミライにきっぱりと告げた。彼女はキッとこちらを睨みつけた。


「破壊神を止める方法ですって!? そんなもの――」


「【超越者】の男は三つの宝を戻し、神殿を甦らせろ、そうすれば自分が破壊神を暴走させた原因を取り除き、破壊神を鎮めると言った。三つの宝がなければ、原因を取り除けないのだ、とも言った」


 すごい剣幕のミライを遮り、ツバサが再び静かに語り始めた。え? 破壊神を暴走させた原因を取り除く? その言葉にわたしは驚きと期待を込めてツバサを見つめる。


「だが神殿を封印し破壊神の力を断ち、それで世界の破滅を防いだと自負する英雄達は男の言うことに耳を貸さなかった。今まで何もしなかった超越者が今更何か言ったところで、信じられようはずもなかったのだ。それでも男は神殿の封印は一時的な効果しかなく、またすぐに破滅がやってくると主張し続けた」


 彼は淡々と語り続けた。ミライが言ってた伝説、続きがあったんだ。真剣な顔でじっと聞き入っているカンに知ってるか、と視線を向けてみると、彼は小さく素早く首を振った。ならきっと、誰も知らない新情報ってことだ。


「その超越者の男が、破壊神を封印する方法を知ってたってこと!? しかも、三つの宝を戻すのが条件ってことは……じゃ、むしろ今からでも間に合っちゃう!?」


 これならなんとかなりそう! と嬉しくなって、思わず興奮気味にツバサに詰め寄る。彼は少し困った顔で首を振った。


「いや、そう簡単には行かん。英雄達が方法を尋ねても、男の答えは要領を得ないものだった。だから彼らは男が自分達を騙して神殿を甦らせて破壊神を再び呼び覚まし、超越者の栄光を取り戻そうとしているのだと考えた。危険を感じた彼らは男を捕らえ、処刑した。そう伝えられている」


「そんな……! じゃあ、方法は分からないんだ……」

「理解できるはずもないか、技術水準に圧倒的な差があるから……」


 ツバサの答えに、わたしはがっくりと肩を落とし、カンは大きくため息を吐いて首を振った。せっかく方法が見つかると思ったのに、ふりだしに戻っちゃったみたいだ。


「……あ。ミライさんが持っていた石は? あれ、どう考えたって超越者の遺産だろう? その男の持ち物だった、って可能性は? そういえば、破壊神への道を示す、って言ってなかったか?」


 少しして何かに気づいたらしく、カンがぱっと顔を輝かせて矢継ぎ早に質問を浴びせた。


「幸福な未来が持っていた石……?」


 ツバサは怪訝な顔でミライを見た。ミライはぎゅっと、胸元を押さえている。


「見せてくれないか?」


 ツバサがミライに近づきながら尋ねた。


「ミライ、お願い!」


 わたしも彼女に頼み込む。彼女は渋々、といった顔で首から下げたコンパスのようなペンダントを引っ張り出し、ツバサに差し出した。それを見たツバサの顔色がさっと変わった。ミライとツバサの様子からすると、二人にとって何か特別なものみたいだけど……。


 いったい、このペンダントに何があるんだろう?

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