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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十章: ゆるゆる休息時間!

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010_03_二人の間のすれ違い#1

「鳥は外で捌いてくれる? 足の肉を骨ごとぶつ切りにしてくれるかしら。他の部分は骨を外しておいて。別の時に使うから」


 ミライはカンにそう指示すると、小屋の一つ、やや大きな四角い建物に入っていった。ミライに続いて中に入ると、かまどと作業台がおかれていた。この建物は台所らしい。ここにはいくつか小屋があるけど、それはどうやら機能ごとに独立した建物になってるからで、何軒も家があるってわけじゃないみたい。竜人の家ってわたし達とは違うんだな。不思議な感じ。


「食材はここに置いて。ふふっ。沢山とれたわね。早速作りましょ。

 じゃ、貴女は香辛料を潰してくれるかしら?」


 ミライは珍しくごきげんな様子だった。彼女は火打石を取り出し、カチカチと石を打ち付ける。何度か火花が飛んだ後、息を吹きかけると、そこから煙が上がった。そして何かふわふわしたものを取り出し、また息を吹きかけているなあ、と思っていたらいつの間にか火がついていた。


「何、ぼーっと見ているのよ」


「あ、ゴメン。火打石で火をつけるところ、初めて見たからつい。すごいねー。っていうかカチカチすればいいだけだと思ってた!」


「何を馬鹿な事を言っているのかしら。早く働きなさい」


 ミライは呆れた顔で言うと、火の上に水の入った鍋を乗せた。ゴメン、すぐやります。香辛料を潰すんだったね。


 台の上に、香辛料らしき粒が乗せられた石の皿とローラーのようなものがあった。これをゴロゴロして潰せばいいってことか。お、潰れた。けど、香りはさっぱり分からない。香辛料なのに、へんなの。


「そうそう、そんな感じでいいわ」


 トマトに似た大きな赤い実をざく切りにしていたミライがすんすん、と鼻で息を吸うと満足そうに言った。あれ、わたし達には感じられない匂いなのかな。


「ミライさん、肉、これでいい?」


 カンがぶつ切りにされたスイフトフェザー肉を大きな板の上に乗せて運んできた。うーん、ちょっと固そうだけど、鶏肉に見えなくもないかも。でもおいしいのかなあ? トライホーンドラゴン退治のときに死骸を漁ってた印象が強くて、あんまり食べる気にならないんだけど。


「いいわ。有難う。そこの鍋に入れてくれるかしら」


 ミライはちらりと見てうなずいた。そしてすぐにちょっと毒々しい紫色の固そうな長い茎に緑の葉っぱの謎植物を細かく刻み始めた。


 カンが肉を放り込んだ後、再び湯気を上げ始めた鍋に、ミライはさっき切った野菜、わたしが潰した香辛料、豆と塩――のように見えるけど違うかも――を入れて煮込み始めた。


 鍋をかき混ぜるミライの後ろからこっそり覗き込むと、トマトベースのスパイシーな肉と豆の煮込みって感じの料理がぐつぐついっていた。見た目はとっても美味しそう。


「後は私がやるからもういいわ。出来上がったら呼ぶから、どこにでも行ってくるといいわ」


 ミライは鍋から目を離さずにそう言った。よし、ちょうどお許しも出たことだし、主賓を探しに行こうっと。


「うん、わかった。じゃあ、また後で。料理、楽しみにしてるね。

 あ、そうだ、ミライはツバサがどこにいるか、心当たりはある? ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」


 ツバサの話は地雷かなあと思いつつも、わたしはミライに尋ねた。すると彼女はきっ、とこちらを振り向いた。案の定、ものすごく強張った顔をしている。


「黎明の翼? それならきっとまたあの女と中庭にいるんじゃないかしらね! 全く、ろくに食べてもいないのに何をしているのかしら! まだ本調子じゃないはずなのに!

 あの女もあの女だわ! あいつに求められるまま応じるなんて……! 応じられるなんて……! どうして黒雲は……でも……負け……」


 ミライが悔しさと苛立ちと、“あの女”に対する敵意を滲ませて言った。最後の方は言葉にならないようだった。わたしが詳しく尋ねる前に、彼女はぷい、とまた鍋の方に戻った。かき混ぜる手に心なしか力がこもっているような。


 よく分からないけど修羅場の雰囲気しかしないなあ。これ以上、ミライには聞けなそうな感じだ。とりあえずツバサは中庭にいそうだ、って事は分かったから、そっちに行ってみよう。わたしはしれっと立ち去ろうとしていたカンの襟首を引っ掴んで、一緒にツバサを探しに向かう。


「けどあの女って、誰のことかな? ツバサ、一体何をしているのかな? 何かその……まさかお昼の奥様ドラマ的な展開じゃないよね?

 ……まあツバサがそういうことするとは思えないけどさ。だいたい病み上がりだし……。いやでもせっかくあの皇女様から解放されたわけだし……でもミライはあんな感じだから……とかそんな……。うーん、どうなんだろう……? あ、カンはどう思う?」


 ミライの言っていたことが気になって仕方ないんだけど、どうにもよく分からないのでわたしはカンにも意見を求めてみたんだけど。


「何で俺に聞くかな……」


 彼はうんざりした顔で思いっきりため息をついた。取り合う気は全くなさそう。この前の話でちょっとは人にも興味を持つようになってくれるかな、と思ったけどそんな事はなかった。がんこ者め!


「男性のことは男性の方が分かるかな、と思って。でも、そうだね。人生ソロプレイの人に聞くことじゃなかったかも」


 彼は暗に聞くな、と言ったんだろうけど、そこは敢えて無視して笑顔で答える。ついでにちょっと刺しておく。


「人生って……いや別にソロプレイではない期間もそれなりにあるにはあって……いや別に見栄を張ってるわけでは……いや、いいよ、もう。どうせ俺なんてそんなものさ、そう思われるのも仕方のないことだよ。そう、仕方ないんだ……」


 思わぬ彼の答えに、わたしは思わずものっすごい怪訝な顔をしてしまった。それを疑いと軽蔑の眼差しと受け取ったらしい彼は、何やら勝手に色々言い訳をしたあげく、なんだか諦めたように俯いて乾いた薄い笑いを浮かべていた。そんなつもりはなくて、単に驚いただけだったんだけどな。ちょっとヒドいことしちゃったかな? 


「ええと、それで……将軍閣下が回復したら真っ先にやりそうで、かつミライさんが絶対に応じられない事、か……」


 流れる空気に耐えられなくなったのか。彼はちょっと気まずそうに、質問とも独り言ともつかない感じに呟いた。わたしはそれにこくこくと大きくうなずいた。彼は少し考えていたけれど、突然何かひらめいたらしく拳で手を打った。


「あ! ……いや、でもあの“女”って言ってたよな。どういう事なんだろうね? どうして、女なんだ……?」


 でもどうやら完璧な答えじゃなかったらしく、彼はすぐさま疑問を継いだ。ええ? そっちこそどういうこと? わたしはおもいっきり眉間にしわをよせて、彼に問いかける。


「いやいやいや、どうしてって、男だったら問題じゃない??」


「えっ……!? ちょっと、何言って……いや、詳細は聞きたくない。妄想の内容を知りたいわけじゃない。いい加減そういう方向から離れ……ああ、止そう、この話はもう止そう。行ってみればきっと分かるさ。そうだ、実際に確かめてみた方がいい、あれこれ妄想するよりも。ああ、そうに決まってる」


 彼は思いっきり混乱した様子でチラチラとわたしを見つつ、ふるふると首を振って、いつも以上に大股で速足に中庭を目指した。まあちょっと態度は気に入らないけど、言ってることは確かにそうだね。行ってみれば分かるか。


 よし、真相を探しに急ごう!

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