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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第九章: どきどき帝国潜入!

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009_19_ちょっと分かった君のこと

「ああ、リンさん、良かった、戻って……それで、あの二人は?」


 カンはわたしに気づくと何だか慌てた様子で尋ねた。


「幸い命に別状はなくて、今は研究所で治療してもらってるよ。会えるようになったら研究所の人が連絡してくれるって」


「そう……」


 わたしの答えに、彼は目を伏せて小さく呟いただけだった。そんな彼を見ていて、ふと気づいたことが。


「あれ? チョーカー、なくなってるけど、ひょっとして緊急帰還? やっぱり、あの兵士達の相手、大変だった? その……ゴメン、カンにだけ負担を押し付けて」


 ミライがわたし達を見分けるために作ってくれたチョーカーはVRの画像じゃなくて本物だから、緊急帰還すると武器とかと同じ扱いでなくなっちゃうはずだ。そこまで追い込まれちゃったとしたら、そりゃ不機嫌にもなるかな、と思って聞いてみる。


「いや、あの後はそのまま逃げて、スターリングまで船で、そこからゲート。武器とチョーカーは輸送中。失くしたわけじゃない。兵士の相手は俺の方がベターだったからそうしただけで、リンさんが謝ることでもない」


 わたしの予想は違ったみたい。彼はそっけなく答えるとマドカさんの方を見た。


「やっぱりスターリングは陥落したんですね。リスクオンと金騎士団(ゴールドナイツ)が街の至る所で仲良く凱歌を上げてましたよ」


「そうなのよね。負けたのよ。

 でもアマネやカレンを始め、銀騎士団(シルバーナイツ)の大半はまだゲームオーバーってわけじゃないわ。あのコ達、リスクオンや金騎士団、強硬派と戦おうって再起を図るみたいだから、是非是非頑張ってもらいましょ」


 苦笑交じりに言うカンに、マドカさんはにっこり笑って答えた。思い返してみるとアマネさん達をそういう風に仕向けたのはマドカさんだったわけだよね。うーん、何ていうか、意外としたたかな感じ? でも、利用しようとしているだけとか、そういう事じゃなくて、立ち直ってほしいって気持ちもホントだったと思う。


「そうですね、出来れば相手にしたくありませんから……」


 彼は短く答えると、さっきのわたしの話を元にマドカさんが書き加えたホワイトボードに、凄い速さで目を走らせた。


「金騎士団が裏切ったってこと、驚かないんだね」


 リスクオンと金騎士団が一緒にいることを平然と受け入れているカンに、わたしはちょっと違和感を覚えた。


「まあ、そういう事もありそうな感じだったから。確証は持てなかったし、俺が言ったところでなんら好転はしないだろうから言わなかったけど」


 彼はホワイトボードの皇女の横に強硬派――金騎士団もその中に入っていた――を足して、同盟、と矢印で結びながら、さらりと答えた。ああそっか、そう疑っていたからスターリングの防衛戦を諦めて帝国に行こうって推してたのか。


「強硬派の実行部隊たるリスクオンと金騎士団が、姉弟の皇位継承戦に便乗して帝都攻略に乗り出すわけですか。

 まあ、どこのギルドにも連戦連勝で飽き飽きしてる彼らにしてみれば、帝都攻略は魅力的なゲーム、ってところですかね?」


 ホワイトボードを一通り修正し終えた彼は椅子に座ると、頬杖をついて、皮肉っぽく笑った。呆れ交じりに、でもさらりと言った彼の言葉は、わたしにとって耳を疑うものだった。


「魅力的なゲーム? リスクオンはともかく、金騎士団はここが異世界だって分かってるんでしょ? むしろ異世界を保護する側なのに、こっちの世界の人達の国に攻め入って、彼らの命を奪うってこと? ゲームじゃないのに!」


 わたしはつい声を荒げてしまった。彼は少し驚いた様子でわたしの方に目を向け、短くため息を吐いた。


「ゲームだろ? 現実では経験できないスリルを絶対安全なところから楽しめるんだから。別に罪に問われるわけでもないんだし。そんなとこ――」


「……っ! ヒドイ、そんな風に考えてたなんて! 何で!? ミライ達がどうなってもいいって言うの!?」


 さも当然、といった様子で淡々と答えた彼が許せずに、わたしは詰め寄った。彼は眉間に思いっきりしわを寄せ、さっきよりも深くため息をついた。


「どうしてそうなる? 俺はただ、彼らがそう考えてるんじゃないかって言っただけだろ。

 ……ああ、そうか。そういう発想になるのは、自分がそう考えているから、ってことなのか。なるほど」


 彼はなぜだかどこか感心したように、薄い笑みを浮かべて小さくうなずいた。彼のあんまりな態度に、ぷちっ、とどこかで何かが切れる音が聞こえた気がした。


「はぐらかさないでよ! 今はそんなこと言って――」


「ストップ。二人とも落ち着いて。帝国潜入、思い通りに行かないところもあって大変だったでしょうし、疲れてると思うのよ。だけど、今はイライラしないで一旦リラックス。

 リンはそんなにヒートアップしない。カンは素直に聞かれたことに答える。いいわね?

 仲良く、とは言わないけれど、同じ白騎士団員(ホワイトナイツ)なんだから、協力してほしいのよね。そうじゃなきゃ、侵略を防ぐなんて無理だわよ」


 マドカさんが静かに、だけど強い調子で割って入ったので、わたしはぐっと言葉を飲み込んだ。ああ、確かにマドカさんの言う通り、そんな事で仲間割れしててもダメだ。一度落ち着こう。とりあえず、深呼吸。


「わかりました。ごめんなさい、色々あったし、どうしてもイライラしちゃって」


 わたしは一旦冷静になるべく、そう言って謝った。カンは、というと額に手を当ててうつむいていたけれど、


「すみません。それで……質問に答えろ、でしたね」


 少ししてあまり感情のこもらない声でそう言うと、顔を上げた。そして、


「侵略しようとは思っていないよ、そんな事には興味ないから。大体、俺はこの世界に関わる気は無いんだ。異世界には興味があるから、調べはするけど。

 そもそもこのゲームのスタンスって元はそんな感じだったろ? 運営は俺たちに異世界(フォルトゥナ)の探検をさせて、ここの()()を主に集めてた。報酬を出してまで。そのために必要な野生生物の駆除や捕獲、植物や鉱物の採集にしたって、資源が枯渇しないようにバランスを考慮した上で実施してた。

 他人の世界を変えるべきではないから、それでいいと思っていた」


 と、さらっと早口に語った。よく分からないけど、とにかくカンは強硬派みたいに壊してもいいって考えてるわけじゃないんだ。良かった! 疑っちゃって悪かったな。


 謝ろうと思ったら、彼は目を閉じて大きくため息を吐いた。そして、


「だけど、変わってしまった。運営もそうだけど、俺達も」


 残念そうに、低くそう呟いた。俺達も、ってどういう事だろう? 変わったことって……あ、そうか。


「ミライやツバサ達のこと? カンがミライ達を避けてたのは、こっちの人達の生活に影響を与えたくないから、ってこと?」


 わたしが聞くと、彼は小さく、こくこくとうなずいた。


「そうだね。向こうとこっちは随分違うから。俺達にとって良い事だとしても、彼らにもそうだとは限らない。

 ……まあ、単に俺がコミュニケーション苦手なのが大きいけど」


 真面目に話したことへの照れ隠しなのか、彼は最後に冗談ぽくちょっと笑って肩をすくめた。ううん……影響を与えたくない、っていうのは、侵略とか環境破壊とかだけじゃないんだ。彼らの事を助けるとか、そういうのも含めてって事なんだね。


 彼らを嫌っているわけでも、無関心てわけでもなかったんだ。ちょっと冷たいなって思わないでもないけど、カンの言う事も分かる気はする。そう言われると、なんだか難しいな……。


「でも――」


 しばらく考えて、わたしは切り出した。


「カンの言ってることは分かるけど、それでもやっぱり、わたしはミライ達の事、気になるな。破壊神を復活させるなんてミライにさせたくないし、二人の事、助けたいって思う」


 わたしはきっぱりと言いきる。ここからバトルになるかなとか思ったけどそんなことはなくて、


「それならそれでいいんじゃないか? 別にこれはあくまで俺の考えで、押し付ける気はないよ。

 それに……ここまで来たら仕方ないんだろうね。もう全く関わらない、なんてできやしない。影響の少ない、多少なりともマシな手を探すくらいしか」


 彼は少し諦めたように薄く笑っただけだった。バトルもやだけど、このどこか冷めたというか、どこかに壁を作ってる感じもなんだかなあ。どう接したらいいんだろう? わたしは戸惑ってしまって、次の言葉を続けられない。


「でも――」


 沈黙を破り、彼はそう切り出すとわたしの方を見た。何だろう? やっぱりバトル?


「寧ろリンさんがどうして彼らをそんなに気に掛けるのかの方が俺には分からない」


 彼は眉根を寄せて首をかしげた。ホントに分からないって顔だ。ええ? そんなことを疑問に思われると、わたしも困るんだけどな。


「え、何で、って。何でだろう? そういうもんでしょ? せっかく一緒にいるなら、もっとその人のこと知りたいと思うものじゃないかなあ。

 うーん、異世界の人だから気になるっていうのもあるけど、それよりも多分、わたしミライ達のこと、好きになったからだと思うな。一緒にいた時間なんてまだ、ほんの少しだから好きっていうのも変だし、何で好きかって言われても困るんだけど……」


 身近にいる人に興味を持つって、そんなの当然だと思ってたから、考えたことなんてなかったな。ずいぶん、たどたどしい答えになっちゃった。


「好きだから、か……。でも、どうせ……」


「どうせ? 何?」


 俯き加減に言いかけた言葉の先が気になって、わたしは眉根を寄せて彼を見る。戸惑いながらも彼が口を開いたのは、わたしがそんな顔をしたから、というよりはマドカさんに睨まれたからだと思う。ちぇ。


「……ゲートを閉じることが出来たとしたら、それまでなのに」


 短くぽつりとつぶやかれた言葉は、相変わらず何だか分かりづらい。


 ええと……この世界に対する侵略を止めるためにゲートを閉じようとしてて、それはこっちの世界と現実を繋ぐ道をふさぐってことだから……ミライ達とは、もう会えなくなるわけだよね。ってことは……


「そっか、それってつまりカンは意外と寂しがり屋だ、ってことだ!」


 やっとつながった答えに、わたしは思わずポン、と手を打った。でも、彼はその答えが気に入らなかったみたい。思いっきり深く眉間にしわを寄せている。


「どうしてそうなる!? 寂しがり屋? 俺が? 何で? どっから出てくるんだその結論!?

 終わりの見えてる関係だろ? 俺はただ、ずっと持ち続けられないものに(かかずら)うのは無駄だって言ってるだけで……!」



 いつになくムキになってるなあ。必死に言い訳(?)をする彼は何だか微笑ましかった。だから、


「えー、何それ。中二感あふれる気取った言い回しにしちゃってさ。

 なんだかんだ言って、別れる時に寂しくなるから、そうならないように避けてるって事でしょ? 寂しいって思わない人なら、そうは考えないと思うな」


 と、ニヤニヤしながら追い打ちをかける。日頃の仕返し、ってわけじゃないよ。


 素直じゃない彼はやっぱり認めずに反論しようとしていたけれど、わたしはそれより先に言葉を継ぐ。


「でもさ、わたしはそっちの方が寂しい気がする。それだと楽しい事もなくなっちゃうでしょ? 持ち続けられないって言うけどさ、一緒に過ごした楽しい時間とか、思い出は一生残せるよ」


「……何だよ、そのいかにも青春真っただ中な臭い科白。そうじゃないって言ってるのに。聞いてたのか、人の話。

 それに大体、楽しいか? 彼らと一緒に過ごすことに、正直俺は困難を感じているわけだが。そこまでコストを払う価値があるか?」


 彼ははっと短く息を吐くと、ぷい、とそっぽを向いて早口に言った。うわあ、めんどくさっ! 素直じゃないにも程がある!! どうしてくれようかと更生させる作戦を考えていたら、


「はいはい。二人ともそこまでよ」


 と、ちょっと呆れたような笑顔でパンパン、と大きな手を打ちながらマドカさんがすっと割り込んだ。


「カン、アタシはコストを払う価値ならあると思うわよ。アンタの好きな遺跡やら伝説やら、それにゲートの事も、知っているのは彼らなんだもの。

 そうね……アンタが情報を入手できずにいる間に、アンタの探し物、リンが彼らと協力して見つけちゃうかもね。リン、期待してるわよ」


 思いっきり不機嫌なカンの視線をさらっと受け流すと、マドカさんはわたしにパチンとウィンクした。カンは苦い顔をして、言葉を詰まらせていた。すごいな、めんどくさい男をあっさり片付けるこの鮮やかさ、わたしも見習わなくちゃ。


「はい。話してくれるか分からないけど、ミライ達が元気になったら、色々聞いてみます。ミライに破壊神の復活なんてやめてもらわうためにはきっと、二人の事、もっと知らないといけないと思うんです。ついでにゲートのことや宝剣のことも何か分かるといいな」


「ついで、って……そっちが主目的だろ。全く、リンさんに任せておいたら探検そっちのけで恋愛一色になりそうだ。それは困る。大いに」


 笑顔で答えるわたしを横目で見ながら、カンがため息を吐いた。うわあ、なんかムカつく!!


「だったら、カンも頑張ってみたら? 負ける気、しないけど」


 わたしはちょっと胸をそらして、フフンと不敵に笑う。カンはやっぱり苦笑いだったけれど、でも少しだけ前向きに考えているようにも見えた。


 今までも、これからも、きっと大変な事はいっぱいあると思うけど。でもやっぱり、みんなの事も、フォルトゥナの事も、もっともっと知りたいな!!

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