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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第九章: どきどき帝国潜入!

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009_09_ミライの過去とカタコーム

「ついてきなさい。こっちよ」


 霧を抜け、湖から見えた高い壁――多分そこが【第二の都】――から少し離れた岸辺にたどり着いた。船から降りると、ミライはその街とは反対方向にずんずん歩いていった。一体どこに行くんだろう?

 

 何も言おうとしないミライに黙ってついていくと、切り立った崖に突き当たった。ミライが崖の下に生えている背の高い草を掻き分けると、そこにぽっかり穴が開いていた。


「ここから神殿に行けるわ。で神殿と宮殿は通路で繋がっているの。見張りもまず、いないはずよ」


 うーん、また穴か、と少しうんざりしながらその洞窟に入る。洞窟の中は真っ暗だった。普段使う場所ではないらしくて、灯りは全くなかった。カンが懐中電灯で照らすと、洞窟の壁に浮かび上がったのは――


「わっ、ちょっ、これ骨? どくろ!? しかも何でこんなにいっぱい!! 何かの呪い? 黒魔術??」


 思わずわたしはミライをぎゅっと抱き寄せてしまった。何これ怖い。壁一面にびっしりあるこれ、人の骨だよね。


「カタコーム……?」


 壁を照らして観察しながらカンが呟いた。よくそんなにじっと見てられるなあ。


「そう。地下墓地よ。この辺りは元々あった洞窟を使っている、昔の部族のものらしいわ。そこに神殿の地下にある、生贄の骸を捨てる穴がつながったみたいね」


 ミライが何か怖い話を付け足した。そして、


「ねえ、貴女いつまでそうしているつもりかしら? 破壊神の僕、死を振り撒く存在のくせに、骸が怖いなんて、変な話ね」


 見下した笑みを浮かべてわたしの顔を見上げた。う……いきなり大量の人骨あったら驚くよ。だってただの一般人だもの。


「ごめん。でもわたしは破壊神の僕なんかじゃないから、普通に怖いよ。だいたい、怪談とかもホント苦手だし……」


 ミライはそれを聞くと吹き出した。そして自分でなんとかしなさい、とちょっぴり意地悪く笑って、わたしの手を振りほどいた。


 うう……ヒドイ。わたしはなるべく二人から離れないように、壁の方を見ないようにしておっかなびっくり進んでいく。


「カンはよく平気だよね……」


「ここがゲームの世界でない以上、突如骨が襲ってくる、なんてよくあるイベントも起きないだろうから」


 スタスタといつもの速足で進む彼に問いかけてみると、彼は軽く笑って答えた。笑えないけど、冗談なのかな。


「そうかなあ……破壊神なんてものがいる異世界なんだから、そういうのだって起きそうなものだけど」


 わたしが言うと、彼は怪訝な顔をした。何でそんな顔するかな? 異世界なんだし、そういう魔法とかありそうなのに。まあ、今まで魔法って出てきてないけど。


「え? そうか。知らな……話して無かったっけ。悪いけど翻訳切ってくれる? 彼女には知らせない方がいいから。

 この辺て、火山帯なんだよ。島の中心に聳えてる山、あるだろ? あれもその一つ。恐らく破壊神、というのは大規模な噴火のことを指してるってのが今のところの見解。要するに、自然現象。まあ現段階では仮説だけれど」


 カンはさらりと言った。確かにミライに聞かせることじゃなさそうだ。


「え? そうなの? じゃあ、破壊神を復活させる儀式って一体何? 自然現象なら、そんなの引き起こせるものじゃないよね? でもミライは信じてて、彼女が何かの儀式をしたことで、ゲートが広がるって現象が起きてて……。ええ? どういうこと?? やっぱり魔法?」


 わたしはすっかり混乱してしまった。


「まだよく分からないけど、伝説が語るところを無理矢理解釈するなら、【超越者】達は火山を制御する術を手にしていたんじゃないか、ってこと」


 遺跡が超越者達が作った火山の制御装置、なのかな? よくわからないけど、今これ以上考えても、わたしの頭から煙が出るだけだからやめとこう。


「俺達にはまだ、それは分からない技術だから……まあ魔法みたいなものか。そうすると、死者を操る術もあったりするかもね……?」


 ふふっ、とカンが脅かすように、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべた。背筋に冷たい物が走る。


「え、ちょっとやめてそういうの……。ホント苦手だから……」


「……全く、何を二人で話しているのかしら。暢気なものね」


 わたし達の会話の内容は聞きとれないミライが、うんざりしたようにため息をついた。彼女にだけ聞こえない話を続けるのも良くないな。


「ところで、ミライはよくこんな不気味な通路のこと知ってたよね。【第二の都】がミライの故郷だとしても、神殿の……あ!」


 話しながら、ミライがさっき言っていたことや、前にツバサとミライが言い争っていた内容がふっと頭に浮かんだ。そこから浮かんだ仮説を言うかどうか迷って、わたしは言葉をのんだ。


 でも、ここで遠慮して言葉を濁すのも逆に不自然かな。答えたくなければ、答えてくれなくていいし、気を悪くしたら全力で謝ろう。うん、とにかく聞いてみよう。


「神殿の、イケニエの遺体を捨てる穴……。前にツバサが、逃げ出した、って言ってたけど、もしかしてミライは、イケニエにされるところだったの?」


「ええそうよ。帝国との戦争の戦勝祈願のための生贄だったわ。捧げられるまでの神殿での暮らしの間、たまたま神官が入っていくのを見かけて、追いかけて調べてみたら外に出られる通路を見つけたのよ。だからそれを使って、私は逃げだした」


 わたしの質問にミライはこともなげに答えた。


「無事に逃げられてよかったね。イケニエなんて、そんなのヒドイ。無理矢理、殺されちゃうところだったってことでしょ?」


「良かった……?」


 ミライがわたしを、驚きと困惑の混じった目で見つめている。何か変な事言ったんだろうか。あ、でもあれだけツバサが非難してたわけだし……。そっか、大切な儀式を勝手に中断するのは良くないって事、なのかな。でも、どうしても納得いかない。


「一応補足しておくと、この辺では名誉な事なんだよ、生贄に選出されるの。

 それに現実的な意味もあったのかもしれない。帝国との戦力差が絶望的なものだったなら、生贄として名誉ある死、というのも悪くはないんじゃないか? 殺されるか、捕まって奴隷にされて悲惨な待遇か、ぐらいしか未来がないのだとすれば。

 ……ま、何にせよ俺達とは違うんだ。こっちの感覚でとやかく言うことじゃなかったね」


 カンがそう言って、ちょっと肩をすくめた。ミライはしばらく、目をぱちぱちさせながらわたし達を見比べていたけれど、やがてふっとため息をついた。


「そう。名誉なことなのよ。勇敢に戦い神の戦士に取り立てられるのと同じように。

 ……あの男が望んでいたのはそれだった」


 ミライが少し俯いてごく小さな声で呟いた。最後の方はよく聞こえなかったけれど、ツバサのことを言っているのだと思う。


「ミライは――」


「さ、おしゃべりはここまでよ。そこから外に出られるわ。人はいないと思うけれど、用心した方が良いわ」


 もう少し聞きたかったけれど、ミライも話したくなさそうだし、そんな時間も無かった。気になるけど、いまは置いておこう。


 ミライが指した先には長い階段があった。ここから出たら、【第二の都】の神殿の中ってことか。


 見つからないように、気を引き締めていかなくちゃ!

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