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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第九章: どきどき帝国潜入!

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009_07_スターリングをスルーする

「へー、良く似合うね、っていうか人気出そうだねぇ……。白騎士団(ホワイトナイツ)に謎の美少女加入、って感じかなぁ?」


 レイさんが白騎士団の制服姿――足を守るためと髪を隠すために、カンと同じパンツスタイルにベレー帽――のミライを見て、冗談めかして笑った。レイさんがミライの防御対策、ということで持ってきたのがこの、研究所特製の特殊素材で作られた本物の白騎士団の制服だった。中二病にしか見えなかった制服も美少女が着るとこんなにかわいく見えるのかと、カンとミライを見比べてわたしもびっくりだ。


「変な服! それに体にまとわりついて窮屈だわ! 息が詰まりそう!」


 でも当のミライは文句たらたらだった。服を引っ張ったり脱ごうとしてみたりするのだけど、ベルトとボタンが外せずにイライラしている。


 着方分からないって言うからわたしが手伝ったんだけど、そのときから大変だったんだよね。腕の羽根をコートの袖に押し込まなきゃだし、ブーツはきついって怒るし。まあ、彼女が来ているルーズフィットな貫頭衣とサンダルから比べたらそうだろうけど。


「我慢してよ。それ、ミライの身を守るために必要なんだよ!

 後、見えないだろうけどわたし達と同じ格好だから、これで他の黒雲から不審がられることもないと思うし」


 わたしの説得に、彼女は諦めたように大きくため息を吐いた。


「よしよし、これで準備完了だね。船は使えるようにしておいたから。赤い二重線が入ったやつね。あとこれ、頼まれてた非致死性の武器だよ。ま、出来るだけ使わないで欲しいけどね。後、使う時以外はそのカバンから絶対に出さないで。カバンに入ってる限り向こうからは中身見えないし、回収できないはずだから」


「分かりました! レイさん、協力ありがとうございます! ツバサ、絶対助け出しますから」


 わたしは受け取ったカバンを腰につけながら、元気よくレイさんに答えた。


「いい返事だね。期待しているよ。

 あ、後はこれ。宝物のレプリカ。バレないように上手くすり替えるとか、そんな感じで使って。カン君に渡しておくね」


 レイさんはそう言うと、カンにはもう一つ袋を手渡した。偽物と本物をこっそりすり替えておけば、それほど騒ぎにもならないかも、ってことか。


「ああ。できたんですね。有難うございます」


 カンは受け取ると、袋の中を覗き込みながら答えた。


「後は……カン君分かってると思うけど、監視装置は逆に目立っちゃうから使えないよ。索敵能力ガタ落ちだから気を付けてね」


 カンがこくこくうなずいた。遠くを調べるってこと、出来なくなっちゃうのか。


「まあ……そのくらいかな。じゃ、頼んだよ。くれぐれも、幸福な未来ちゃんをよろしくね」


 レイさんはひらひらと手を振って、スターリングへと向かうわたし達を送り出してくれた。


---


「さ、じゃあ行くわよ」


 スターリングシティ近くの草原で、マドカさんがわたし達を見回しながら言った。十数メートル先の城壁をちらりと見ながら、わたしは大きく頷く。


 マドカさんが屈みこみ、足元の地面にあるカモフラージュ用の草をどけ、その下にある板を外すと、ぽっかり穴が開いていた。ミライを連れて市内に安全に入るため、こっそりみんなでスターリングの城壁をくぐるトンネルを突貫工事したんだ。なんか最近穴を掘ってばっかりな気がする。


 それにしてもこんな方法が使えるなんて……ゲームとしてはどうなんだろう? 今回は助かったんだから、まあいいか。


 マドカさんを先頭に、わたし、ミライ、最後にカンの順にトンネルに入る。狭いトンネルを暫く進む。突き当たりでマドカさんが立ち止まり、手にしたスコップで出口を堀り抜くと、外に出た。


「大丈夫よ。さ、捕まって」


 マドカさんがわたしを引っ張り上げた。出た先はスターリングの城門からはだいぶ離れた、城壁のそばの寂しい草地だった。


「アタシが見張ってるから、ミライを引っ張り上げて頂戴」


「分かりました。さ、ミライ、つかまって!」


 彼女の手を取り、引っぱる。小柄な彼女はわたしでもカンタンに引き上げられた。


「侵入成功、と。幸い誰もいないようだけど」


 穴から這い出たカンが辺りを見回して言った。


「とはいえ港に行くには通りに出ないといけないのよね。そこには敵が配置されているかもしれないわ。気をつけて行きましょ」


 マドカさんの言葉にうなずくと、わたしたちはマドカさんを先頭に、ミライを囲むようにして港を目指す。ミライのことは絶対に守らなきゃ。


「なっ!? 白騎士団!? 一体ど――」


 通りに出たところで、マドカさんの予想通りリスクオンに出くわした。その瞬間にマドカさんがひゅっと距離を詰めた。さくり、と音がして、彼は全く反撃する間もなく、あっという間に黒い粒に変わっていた。一体何をしたんだろう? さっぱり見えなかった。


「おい! どうした!? 何があった?」


 わらわらと、リスクオンのマントを着た男達が近づいてくるのが見えた。その中に知った顔がなかったのは、ちょっとよかったかも。やっぱりあんまり知り合いと戦いたくない。そんなこと言ってちゃ、ダメなんだけど。


「ちっ……気づかれたわね。ここはアタシに任せて早く行きなさい!」


 マドカさんがそう言い、リスクオンに向けてスコップを構える。あれ? っていうかスコップって武器なの? さっきの人を倒したのもひょっとしてスコップ? もしかしてすごく強い隠しアイテム的なやつ?


 って、余計な事考えてる場合じゃない。マドカさんが引き受けてくれるなら、わたし達は早く港を目指さなきゃ。


「はい! ありがとうございます! さ、急ごう!」


 頼もしい背中にお礼を言い、わたし達はミライを連れて走りだす。


「古の大戦で多くの(つわもの)に愛され、近接戦最強と伝説に謳われた武器の恐ろしさ、とくと味わうがいいわ!」


 そんな高らかなマドカさんの声と、怯えるリスクオンの悲鳴を背に、わたしたちは港へと急いだ。


「元々港はノーマークだろうし、マドカさんに任せておけば彼らがこっちに来ることはない……と信じよう」


 カンの言った通り、それ以降は襲われることなく、なんとか港にたどり着いた。走ったから少し疲れたような気がする……って、しまった。


「ミライ、大丈夫?」


 彼女はわたし達と違って、実際に結構なスピードで走ったんだ、大丈夫かな?


「……ええ、どうってことないわ。それより先を急ぎましょう」


 彼女は息をつき、汗を拭いながらも、そんな強気な返事を返してきた。気づかなくてゴメン。でも船に乗ってしまえば、追いかけることもできないだろうから、若干無理しても早くここを去った方がいいか。後少しだ。


 わたし達は傾きかけた日が照らす桟橋へと急いだ。

いつもお読み頂きありがとうございます。

もし宜しければ、どんなことでも結構ですのでご意見お聞かせ頂けますと幸いです。

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