009_06_帝国行きはどうなるの#3
「え? ミライも一緒に行くつもりなの? 危険だし、第一ミライにとってその……行きたくない場所なんじゃないの?」
一緒に行く、というミライに、わたしは思わず眉をひそめた。彼女は必死で帝国から逃げてきたはずなんだ。そんなところにまた戻ろうなんて。
それにまず激しい戦闘が起きるスターリングを抜けなきゃいけないし、帝国にはこっそり忍び込むとはいえ見つかる可能性もあるわけだし、彼女には危険すぎる。そう思って、止めたつもりだったんだけど。
「そうよ。でも行かなくちゃ。だって貴女達、信用できないわ。ちゃんと宝剣を奪い返せるのかしら。特に貴女は宝剣よりもあの男に興味があるみたいだもの。
それに奪い返したとしても、またあいつらに取り上げられて、お預けなんて御免だわ」
ミライはわたし、カン、それとレイさんを順番に見ながら言った。確かにわたしは宝剣を取り戻すっていうよりは、ツバサに話を聞きたい方がメインだ。レイさん達だって、色々調査があるからすぐにはミライに渡したりしないだろう。っていうか、ゲートを閉じるのが目的だから、開ける側だろう破壊神の復活をミライにさせたりしないか。
「大体、あの男のいる【第二の都】にどうやって入る気なのよ? 街の中や皇女の館のことだって分からないでしょう?
私なら、抜け道を知っているわ」
彼女は得意げに笑った。
「なら事前に情報を教えてくれておいたらいい。帝国のことなら地図データは取っているはずだし、それと合わせれば何とかなるはずだ。
君を連れてはいけない。リンさんも言ったけど危険だ。俺達と違って、攻撃を受けたら終わりなんだから。
ただでさえ危険なのに、足手まといを連れていけと?」
連れていけ、と主張するミライだったけど、カンがそれをきつい調子で拒否した。
「連れて行ったら?」
そんな険悪な雰囲気の中で、意外にもそう言ったのはレイさんだった。わたしとカンが同時に、レイさんを睨みつける。レイさんはその剣幕にちょっと驚いたように体の前で両手を小さく振った。
「や、ごめんね。でも君が期待してるほどデータは無いんだよ。特に建物内になるとからっきし。だから中の事が分かる人がいるならその方がいいさ。
それに竜人に遭遇した時とかさ、彼女がいると助かることもあるかもよ」
「彼女、帝国から逃亡してきたんですよ? 竜人に遭遇したら余計問題ですよ」
レイさんの弁解に、カンが冷たく突っ込む。
「でも、それなりにリアクションが得られるから、情報収集になるでしょ?
危険だってのはそうだけど、君達が守ってあげればいいんだし、その辺のリスク低減策は一応あるよ」
「ですが――」
「それにさぁ、彼女、行きたいって言ってるんでしょ? ねぇ、何か理由があると思わない?」
なおも抗議するカンは無視して、レイさんはわたしの方をじっと見た。っていうか顔、近い近い。美形に近寄られるとドキドキして困る。
ええと……理由? あ、もしかしてミライ、何だかんだ言ってツバサが気になるんじゃないのかな? だとしたら……やっぱり直接会った方がいいのかも。それに、ツバサもわたし達だけより、心を開いてくれるかもしれない。
「リスク低減策、って何ですか? ミライが傷つけられない方法、何かあるんですか?」
ミライを連れていった方がいいけど、危険な事は避けたいから、わたしはレイさんに尋ねた。
「リンさん!? 仮に性能の良い防具とかがあったところで、囲まれれば終わりだ! 俺達に彼らを倒さず彼女を守れる技量はない。いざとなれば緊急帰還できる俺達と違って、彼女は逃げられないんだよ!」
「そう来なくっちゃ。まあリスク低減策ってカン君の予想通りなんだけどね。危険な部分も仰る通りさ。
でも防具は警備の兵士が持ってるマカナのような武器なら防げるし、それに彼女だって帝国から逃げきってるくらいだからさ、自分の身くらい守れるんじゃないの? ねえ、幸福な未来ちゃん? 違う?」
さらに抗議するカンを無視して、レイさんはそう言うとミライの方を見た。
「当然だわ。危険は承知の上よ。でも私はこの世界を滅ぼすのだもの。そのためなら何だってするわ。
誰にも、邪魔はさせない」
ミライはきっぱりと答えた。彼女の意思は固かった。
「三対一かなー。さっきと違って君が少数派だ。どうするの、カン君?」
ニヤニヤと笑いながら、レイさんはカンの方を見た。
「多数決ってルールでしたか? とにかく俺は反対です。守り切れない」
投げやりな感じでカンがため息を吐いた。ミライに何かあったらって不安はもちろんあるから、悩むのは分かるんだけど……。
「カンはいっつもネガティブだよね。確かに言う通りかもしれないけど。でもせっかくわたしなんかよりずっと頭いいんだから、何でできないかじゃなくて、どうしたらできるかを考えようよ。
あ、そういえばカン、麻酔弾とか持ってなかった? そういう武器を持っていったら、何とかならないかな?」
「帝国は武器の持ち込み禁止。こっちのものが不用意に伝わるとまずいから」
相手を倒さないタイプのを護身用に使ったらいいんじゃないかな、と思ったんだけど、カンに0.1秒で否定されてしまった。それにしてもわたしの話、聞いてなかったのかコノヤロウ!
でも、そんなことに腹を立ててる場合じゃない。考えなくちゃ。悔しいけどわたしだけじゃ無理なんだから、カンにも協力してもらわなきゃ。
「レイさん、だったらそのルール、何とかならないですか? ミライを守るためには相手を動けなくするような武器が必要だと思うんですけど」
「そうだねぇ……。でも、カン君の言ってたような問題もあるしねぇ」
レイさんは首をかしげ、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて答えた。緊急帰還とかする事になったら、武器置いて来ちゃうからまずい、ってことだっけ。
「じゃあ絶対みんなで帰ってきますから!」
わたしが元気よく宣言すると、カンは短く息を吐いた。そして、
「……帰還できなけばそもそも失敗です。武器があれば、全員帰還できる可能性が高まります。この場合、持っていかない方がリスクです」
と、早口にぶっきらぼうに言った。 あれ? ちょっと態度はアレだけど、少しはやる気になってくれたのかな?
「そうだねえ。いいよ。なんとかしてみる。それと非殺傷性の武器とか他のお役立ちアイテムとか、用意しておくよ。彼女の防具と合わせてね」
そんなわたし達に、レイさんが爽やかな笑顔で請け負ってくれた。
「ありがとうございます!!」
「……ありがとうございます」
カンはちょっとうつむいて、ちょっとふてぶてしくレイさんに言うと、わたしの方を見た。
「じゃ、それはリンさんにも使ってもらうから、【危険物】の取り扱い【免許】を取得しておいて。持ってないよね?
ああ大丈夫、試験はさして難しくない。一通り対策問題やっておけば大丈夫だから。問題集とテキストはアプリ(有料)にあるから、DL宜しく」
「へっ? 試験?」
突然告げられたイヤ~な単語に、わたしは思わず眉根を寄せた。カンがコクコクうなずいている。アイテムを使うためには【免許】がないとダメみたい。そこも何とかしてくれたらいいのにな。まあ、そんなズルするのも良くないか。
「う……わかった。ミライを守るためだもんね。勉強はホントは苦手だけど、免許は取れるようにする!」
「いいわね、リン。その意気よ! そうだ、カン、アンタが教えたら? 試験合格してるんだし、バイトで塾講師やってるんだったわよね。教えるの、慣れてるでしょ?
それから……後はそうね、スターリングに出来るだけ安全に入る方法よね。それはちょっとアイデアがあるの。でも人手がいるのよね。だからアンタ達、協力なさい」
マドカさんが満面の笑みでわたし達に呼びかけた。もちろん、とわたしも笑顔で答える。
よし、まずは帝国行きに向けて、しっかり準備するぞ!
追伸:
カン先生に何の説明もなくいきなり過去問をやらされた。何で何にもわかんないのにいきなり過去問なんだ! ボロボロで泣きそうだったよ! まあその後解説してくれて、それは論理的でわかりやすかったけど。でもその後も雑談も笑顔も誉め言葉もいっさいなく、ひたすら演習なのはやっぱりツラかった。
塾講師のバイトしてるらしいけど、生徒さんは大丈夫かな!?
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