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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第八章: いやいや対人戦闘!

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008_07_デッドクロスの去った後

「あいつらの事片付けられたみたいね。お疲れ様。これで暫くは安泰だわ」


 いつの間にか庭にやって来たマドカさんが、トン、とわたしの肩に手を置いた。


「あ、はい。えっと……ありがとうございました。マドカさん達が協力してくれたおかげで、何とか。

 っていうか、すみません。わたし結局、助けてもらってばっかりで……」


 わたしが言うと、マドカさんは首を振った。


「良いのよそんなこと気にしなくて。あの状況でアンタが完璧にやれるなんて思って無いの。でもきっちり決着を付けたんだもの、寧ろよくやったわ。

 それにアタシ達は仲間なのよ、足りない部分はカバーし合うのが当然だわ」


 マドカさんはニコリと笑った。そう言ってもらえるのは嬉しい。


 でも、そんないい雰囲気も束の間。マドカさんはひょいっとわたしの肩に手を掛けると、さっきまでの優し気な笑顔はどこへやら、ニヤリと含みのある笑顔を浮かべている。嫌な予感がする。


「そーね、落ち着いたら次、行きましょ。フォルトゥナで探すのもいいと思うわよ?

 ここにいるコ達って大体身元のしっかりした、それなりに裕福で優秀なのが多いから」


 何を言っているのかちょっと意味が分からない。眉根を寄せてマドカさんの方を見ると、


「参加費、とりっぱぐれたくないじゃない? それにしっかり探検してもらわなきゃいけないから、できるだけ能力の高いコを選びたいのよ。申し込みの時点で審査しているはずよ。

 あのコもどっか割と有名な大学に通ってるんじゃなかったかしらね。別にそういうのが全てだとは思わないけど、まあ普通に探すより、一般的に良い、と思われる人が見つかりやすいんじゃないかしら。あくまで確率の問題だけれど」


 マドカさんはちらりと、いつの間にか建物の方に行っていたカンの方を見た。


 そういう事を聞いたわけじゃないんだけどな。でも言われてみれば確かに、ゲームの仕組みを考えたら、マドカさんの言ったような人を集めたくなるのかな。ユキだって、そうだもんね。おっと、ユキの事は考えない、考えない。


「ま、それは冗談にしても、よ。何にせよ、何か別の事に打ち込んで早く忘れることよ。

 ちょっと運と見る目がなかっただけ。大丈夫、失敗を受け止めて、前を向いて進んでいけば、そんなのこれからいくらでも良くなるわよ」


 わたしの気持ちを察してか、マドカさんは再びバシッとわたしの背中を叩いてさらりと言った。慰めになってないような気もするけど、気遣ってくれているのは分かった。


「マドカさん! レイさんから連絡が来てましたよ。例の――何て言ったっけ――とにかくあの保護した竜人から、話が聞けるようになったって」


 カンが声を掛けた。竜人て……ミライに話が聞けるようになったってこと?


「あら。じゃあアンタ達レイのところに行って、話聞いてきなさい。

 拠点の片付けとかデッドクロスの財産接収とかはアタシがやっておくわ」


「あ、はい。じゃあ行ってきます」


「マドカさん一人にこの惨状を押し付けてすみませんが、後の事は宜しくお願いします」


 わたしとカンはマドカさんに頭を下げ、研究所に向かった。



「わたし、そんなにつまらないかなぁ……」


 研究所までの道中、カンとわたしはさっきの戦いの話も、ただの世間話もすることなく、ひたすら速足に進んでいた。気を紛らわすものも無くて、ぼんやり考えているうちについうっかり、さっき言われて気になってた言葉が口をついて出た。しまった……。


「まあ面白くはないだろうな、あの騎士様からしたら。

 護ってる気分に浸らせてくれる、弱いお姫様が必要なのであって、自分を脅かす騎士なんぞ要ら――」


 先を歩いていたカンが、さらりと言いながらこちらを振り返ると、はっと息をのみ気まずそうに目を逸らした。


「――ああ、ごめん、悪かった。忘れて。また余計な事をペラペラと……。

 空気読まずに思ったことを延々語るのは良くないって、よく注意されるんだけど……」


 額に手を当てため息をつくと、それきり彼はまた黙ってまたスタスタと歩いていった。


 カンから見てもやっぱりつまらないんだ、と思いながらも、わたしはそれ以上聞く気になれなかった。誰かに話を聞いてもらいたい、という気はするけど、こういうのは女友達の方がいいな。セイにカフェでがーっと話して、美味しいもの食べて、それで終わりにできたらいいけど……今は無視、されちゃってるしなあ。


 おっと。余計に暗くなっちゃった。忘れよう。余計なこと――何ともならないこと――を、いつまでもウジウジ考えたって仕方ない、仕方ないよね……。


---


「デッドクロス戦、お疲れ様。中々面白い内容だったよねぇ。

 や、でも勝ってくれて良かったよ。白騎士団がいなくなったら僕の手駒、無くなっちゃうからねぇ」


 研究所の一室で、レイさんがそんな一言とともにわたし達を迎え入れた。手駒、かあ。相変わらずやな感じ。でも言い返す気力は湧かなかった。


「さ、座って。彼女はもうすぐ、来ると思うから」


 勧められるままソファに座る。座ると何だか、どっと疲れが襲ってきた。今からミライと話せる貴重な機会だって言うのに。


 少しして、いかにも研究員って感じの白衣を着た女性がミライを連れてやって来た。レイさんが目くばせすると、


「なるべく手短にお願いしますね」


 彼女はそれだけ言い、ミライを残して去っていった。


 ミライはというと、少しふっくらして、頬にも赤みが差していた。ツバサにバッサリ切られた髪もショートボブくらいに整えられていた。腕の羽根も綺麗に洗われて白さを取り戻し、空気を含んでふんわりと軽やかだ。ただ、目だけは前と同じで、なんていうか暗くて、憎しみにあふれてる感じだった。


 それさえなければ美少女だし、白い羽根と相まってホントに天使に見えると思うんだけどなあ。


「やあ、久しぶり。まあ、座ってよ」


 レイさんはニコニコと、ミライに席を勧めた。


「その声! あの時の黒雲!! いつまで私をこんなところに閉じ込める気なの!

 いつになったら宝剣を取り戻すのよ!!」


 ミライは怒り心頭でレイさんに詰め寄った。あいかわらず怒りっぽいなあ。でも、黒い雲みたいな謎のやつらに連れ去られて自由もなかったら、仕方ないかも。


「君の協力次第、かな。聞きたいことがあるんだよ。

 君は破壊神を復活させるって言ってるけど、それはどうやって? その方法をどこで知ったのさ?

 ……ああ、大丈夫。情報を話したら用済み、なんて事はないから。まだまだ君の手を借りなきゃいけない事もあるだろうからね。

 お互い協力しよう、って話さ。で、どうなの?」


 そんなミライに、レイさんは一方的に訊いた。ホント、強引だなあ。ミライは大きくため息を吐くと、諦めたように話し始めた。

お読みいただきありがとうございます。

皆様の忌憚のないご意見を頂けますと、泣いて喜びます。

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