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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第八章: いやいや対人戦闘!

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008_06_デッドクロスに死の罰を#5

「へっ?」


 ユキは、わたしの体当たりという予想外の攻撃に間抜けな声を上げ、バランスを崩し、たたらを踏んで……そのまますぐ後ろにあった落とし穴の上を踏み抜いた。情けない悲鳴があたりに響き、それからドン、と重い物がぶつかる音がした。


 はっはっは、作戦成功だ! 転落なんて悪い男にふさわしい最期じゃないか!


「くっ……イテテ……くそ、落とし穴、まだあったとは!」


 と思ったけどまだ生きてた。このくらいの落下ダメージじゃ足りないみたい。


「だが残念だったな! 何も仕掛けられていないただの穴、この程度のダメージなら、出ればいいだけ!」


 ユキはそう強がって、出ようと手を伸ばしたり飛び跳ねたりしているけど、ムダな努力だった。


 残念だったな! わたしが作った特製落とし穴、そう簡単には出られないことは身をもって確認済みだ! ……うん、言っててちょっとだけ悲しい。ちょっとだけ。


「くそ! ネネ、こっちに来て引き上げろ!」


 ユキがイライラした様子でネネを呼ぶ。


「リンさん、ご存じの通りあの穴なら出て来られないから、ひとまずこっちを助けてくれると嬉しいのだけど」


「ちょっと待ってて。すぐ行くから!」


 わたしは剣を拾うと、カンとネネの方に向かう。ネネに引き上げられたら困るし。


「え……ユキ!? 引き上げる? どーゆーこと? てかユキ、どこにいるの!?」


 混乱した様子のネネの背に、勢いよく剣を振るう。


「あうぅ……うしろからとかひきょーもの!!」


 膝をつくネネを例によってユニコーンが回復した。でもその後、ユニコーンはパン、と弾けて消えた。


「スウィスウィ!? うそ、しんぢゃった??

 でもネネゎまけないから! ユキがひつよーなのはネネだもん。ユキゎリンなんてつまらない女ってゆってたし。そんなやつにじゃまさせない!」


「つまらない女……?」


 戸惑うわたしの横をネネは立ち上がりざまにさっと抜け、わたしと位置を入れ替え、そして剣を振り下ろす。ネネが振り下ろした剣をとっさに盾で受け止めはしたものの、すぐに彼女は別方向から攻撃してきた。


「とっくにあきられてるってゆーかウザがられてるのにいつまでもつきまとってるの、めーわくだし。

 ネネとユキがいっしょにFXしてるのゆるせないからって、イベントりよーしてネネたちのことざまぁしたいとか、ちょーヤな女じゃん!」


「くっ……」


 ネネはここぞとばかりにガンガン攻撃を叩き込んでくる。わたしは受けるので精一杯だった。でもユキの言うとおり、両手で持ったほうが力が強いのか、ネネに押し込まれている。


「ってかいっつもたいしたことナイくせにえらそーだし、ナマイキ!

 いまだって、しょっぼい騎士団にうまくとりいったくらいでちょーしのってさ!

 ユキもリンは上からでうざいって……っ!?」


 ネネの攻撃が止まった。わたしは急いで体勢を立て直す。


「弱小ギルドのボスに上手く取り入って構成員になってるってだけで調子に乗るなよ。自力で騎士団の入団条件を満たした彼女より上だとでも? そう思えるとは何という幸せ回路の持ち主だろうね?

 ああ、だからそのしょぼい騎士団に追い詰められていることすら忘れられるのか」


「はぁ!? うっせーんだよ陰キャのクズのクセして!! 死ねよ!!!」


 ネネが殺意に満ちた目で、彼女を嘲るカンを睨んだ。ネネの注意がわたしから逸れ、彼に注がれる。せっかくチャンスを作ってくれたんだから、ここはきっちり倒さなきゃ。わたしはネネを後ろから突き刺す。


「あ、しまっ……そん……な……。ネネが、リン、なんかに……」


 ネネの体が崩れていく。やっと倒せたけど、わたし、いいとこなかったなあ。


「あの、カン、ありがとう。おかげで、ネネのこと倒せた」


「いや、別に。気にしないで。

 さて、それで穴の中の男はどうする? やっぱり妥当なのは石打ちかね? 二度とこんな事が出来ないようにしておきたいし、コストは掛けたくないし、ああ、穴を埋めるのにもいいか。うん、一石三鳥だ。

 あのユニコーンの回復が面倒だがそのうちホーラも尽きるだろ」


 カンが淡々と言いながらその辺に落ちていた石を拾うと、ユキのいる特製落とし穴の方に近づき、投げた。


「うわっ!?」


「ち、外した……」


 石はユキの顔の横をけっこう逸れて飛んでいった。わざと……じゃなくて多分ホントにノーコンなんじゃないかな。キャッチボールとか苦手そうな感じだし。まあ、なんとなくだけど。


 わたしもその辺に落ちていた丸い石を拾い、投げつけた。石はとっさに頭をガードしたユキの腕にめり込んだ。ユキの顔が痛みと恐怖に歪む。


「……あ、あー、リン、悪かったよ。ほんの出来心だ! その……最近リンも忙しかったし、何かオレの事蔑ろにしてる感じがして! それで! つい!! ネネに誘惑されて!!

 しかもここで会ってみたら、冴えない男連れてエンジョイしてるしさ! それでちょっと、腹が立って余計な事を……。ホントにゴメン。悪かった。許してくれ!」


 ユキは縋るような目でこちらを見上げた。何だかなあ。そうやって謝ればわたしを丸め込めると思ってるのかな。


 ……ううん、いつも丸め込まれてたのか。でも、もうそれも終わり。もうそうやって馬鹿にされたりしない。わたしは石を投げ続けた。


「なあ……リン、ゴメン。そうだ、もう一度やり直そう。もっとちゃんと話し合おう。だから助け――」


 石つぶてが降り注ぐ中、ユキは慌てた様子でひたすらそんな上っ面だけの言葉を繰り返した。なんだかなあ。謝らせたら、やっつけたら、気持ちもスッキリするのかな、って思ってたんだけど。


「もう、謝らなくていいよ」


「じゃあ――」


 ユキの顔に、勝った、とでも言うような笑みが浮かんだ。


「悪いと思ってないこと、その場しのぎで謝らなくていいよ。

 わたしはつまらない女、なんでしょ? そんな風に思ってた人とやり直せると思えないし、やり直したいわけでもないし。それにネネと別れてほしいわけでもないし。

 ……ううん、何でこんな人と一緒にいたんだろう、って今は思ってるぐらい。正直もう関わりたくない。っていうか石投げるのも気分悪い」


 わたしが静かにそう言うと、ユキの顔がさっとこわばった。わたしを丸め込むのは無理だとようやく分かったようだった。彼は諦めたようにため息をつき、


「……降伏する(サレンダー)


 ただ一言、そう悔しそうに呟いた。


 がっくりとしたユキがすっと消え、その瞬間耳元でファンファーレが響いた。


「おめでとうございます! 白騎士団の勝利です!」


 勝ったんだ。気持ちは晴れないけど、白騎士団の勝利だってことだけはよかった。


いつもお読み頂きありがとうございます。

対人戦もこれにて終了です。お楽しみ頂けたでしょうか。

宜しければ評価・感想・ブックマーク等いただけますと今後の参考になります。


どうでもいいですが、幸せ回路という単語が気に入っているので、皆様も使って頂けましたら幸いです。

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