008_05_デッドクロスに死の罰を#4
「あはは、ユキのゆったとおりだ! もううてないでしょ。ネネがブッころしてあげ……え?」
弾切れらしく足を止めてポーチに手を伸ばす隙だらけのカンに、ネネが思いっきり剣を振り下ろす。でもそれはカンに届くことなく、甲高い音を立てて、空中で止められていた。カンの手には、銃ではなく黒い棒が握られていて、それでネネの攻撃を受けていた。
「なんで? ちかずいたら、なにもで……ごふぅっ!?」
両手で剣を振り上げているためにがら空きになった彼女のボディを、カンが思いっきり蹴飛ばし、彼女はうめき声とともにハデに吹っ飛んだ。いくらなんでも女の子のお腹を蹴るのはどうだろう……なんて気にしてる場合じゃない。敵だからしょうがない。
「ネネ!? うわっ!?」
偶然なのか狙ったのか、ちょうどやって来たユキに蹴られたネネがぶつかって、二人まとめて倒れた。
「いや……距離詰められたら為す術が無いって、俺は大昔のSRPGの弓兵じゃないんだから。そんな接待プレイを期待されても困るんだが。
大体チュートリアルで運営に教えられてるはずなのに、何だって遠距離武器メインの奴がそれしか持ってないって思うんだ?」
カンは大きくため息をつきながらさっと弾を込め、倒れた二人を撃った。わたしも彼らのところに走り、ちょっと卑怯かなと思いつつも、起き上がろうとする二人に剣を突き刺す。もう少し、もう少しなんだ。
「あっ、いやっ!!」
わたしの剣は近くにいたネネがとっさに出した手を貫いた。ちっ、チャンスだったのに!
もう一回、攻撃しなきゃ。急いで剣を引き抜き、もう一度振りかぶる。
「くそっ、卑怯者! ネネ、どけ!!」
ユキがネネをさっと突き飛ばし、わたしの二撃目を受けつつ立ち上がる。
「ネネ、先にリンを倒すぞ! リンに近づいていればあいつも撃てないだろ!
いくらクズでも流石にフレンドリーファイアは避けるはずだ! ぴったり接近して攻撃するんだ!」
ユキはそう言いながらわたしに斬り掛かってきたけれど、それは受け止めた。けどしまった、ネネがすぐ横から迫ってくる。
どうかな、カンならわたしに当たるのなんて気にせず撃つかもしれない……と思ったけど銃弾は飛んでこなかった。わたしは何とかネネの方に盾を向け、こっちも受け止める。だけど……。
「痛っ……!」
二人からの攻撃を受け続けるなんて無理だ! ユキの振り下ろした剣を受けきれずに、わたしの腕に痛みが走る。あとちょっとなのに……!
どうしよう。とても二人の相手をしながら位置の調整なんてできない。まずは攻撃を防いで……でもやっぱり全部は無理だ。結構ダメージ受けちゃったかも。腕が重い。傷薬使いたいけど、そんなヒマ……あれ? 少し余裕ができた?
「あぅっ……!」
見るとネネが腕を押さえ、がくりと膝をついていた。すぐ近くに棒を振り下ろすカンがいた。
「悪いね、リンさん。二対一なんて」
「ううん、助かった。ありがとう。で……ごめん、もう一つお願い。
ネネの事、ちょっとの間抑えてて。まずユキ、片付けるから」
「Aye, Ma'am」
ネネはとりあえずカンに任せておいて大丈夫だろう。わたしはとっととユキを倒そう。
そう決めて、急いで傷薬を使い腕を回復させると、もう一度彼に向けて剣を振り下ろす。後少し……後数歩、下がってくれればいいのに!
何度攻撃しても、彼をその場から動かすことができない。どころか、向こうの攻撃でわたしが下がらされることもあって、中々狙い通りにいかない。なんだかんだ言っても、伊達にギルドのトップをやってるわけじゃないんだな。強い。
でも、絶対負けない。
「意外にやるな! でもオレには勝てない!
それなりの武器は持ってるみたいだが、盾を持ったのは悪手だな。大して防御力が上がらない割に攻撃力が落ちるってハズレ防具だ! 剣使うなら両手持ちすんのが常識だろ!
しかしそんなことも教えてもらえんとは、白騎士団も薄情だな! おっと、それとも情弱か!?」
ユキの振るった剣が、わたしの剣を跳ね上げた。剣はわたしの手を離れ、くるくると宙を飛んでいった。しまった!
「これで終わりだ!」
振られた二撃目を、何とか盾で受ける。諦めるもんか。だけど、剣を拾う隙なんて与えて貰えない。攻撃を防ぐだけじゃ何ともならない。何とか隙を作らなきゃ。
「はっ……ムダな事を! 盾で防いだところで、武器がなけりゃ攻撃できない。それで勝てるとでも!?
あのクズが助けに来るのを待つか? それこそムダだ。さっきは不意打ちくらったが、あれじゃ攻撃力不足だ。ネネを倒せやしない!」
必死に攻撃を受けるわたしをユキは見下したように笑うと、次の攻撃に移るためか一旦剣を引いた。
ユキの言う通りだ。武器がなくちゃ攻撃できな――あれ? ホントにそうだっけ?
そういえばマドカさんは椅子で攻撃してた。
カンはネネに蹴りを入れてた。
そもそもわたしだって開始直後使ってたのは石だった。
装備した武器だけでしか攻撃できないわけじゃないし、モノの使い方も自由だ。それに、別にユキを攻撃して倒す必要はなくって、後数歩、後ろに下がらせればいいだけなんだ。だったら……。
「ムダだって分かったろ? さあ、終わりにしよう」
勝ち誇ったように笑って、余裕たっぷりに剣を振り上げるユキに、
「ていっ!!!」
わたしは盾をぎゅっと握りしめて思いっきり体当たりした。
いつもお読み頂きありがとうございます。
バトル展開ですが、いかがでしょうか。お楽しみ頂けていれば嬉しいのですが。
次で対デッドクロスも決着します。
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