008_02_デッドクロスに死の罰を#1
「さーて、後は時間になったら敵を迎え撃つだけね。
リンはそっちのバルコニーから敵を攻撃。カンは監視とリンのサポート。アタシは玄関側を担当するわ。建物内に入られる前に削るわよ。
開始までは目立たないように隠れているのよ。で、始まったらすぐに攻撃。いいわね」
いよいよデッドクロスとの対戦当日、二階の執務室に集まったわたし達に、マドカさんはてきぱきと指示を出した。執務室の机の陰に、大きなクリスタルが置かれていた。
「Aye, S……Ma'am! 」
「了解!」
カンとわたしは元気よく答えて、執務室の窓から繋がる半円形のバルコニーに出た。開始までは目立たないように、と言われたのでバルコニーの柱の陰に隠れる。見つからないようにそっと庭の方をのぞいてみたけど、人影は見えなかった。
「向こうも隠れてますね。テラス側の植え込みの陰に8人、門の陰に5人。
お、幸い勇者系近接装備が殆どですね。一応弓が一人ずつか。それでどうやって攻撃するつもりなんでしょうね?
しかしまあ、あの髑髏と十字架のエンブレムをあんなファー付きロングコートの背中に入れるとか、厨二感迸らせすぎだろ……。色々、面白い人達ですね」
反対側の柱の陰でカンが弾を込めながら笑いを堪えていた。庭の方なんて少しも見ていないのに、どういうわけか彼には何かが見えてるみたい。だけど、そんな事言う辺り彼は結構中二病って言われたことを気にしてるのかもしれないな。
「馬鹿な事言ってないで集中しなさい」
早速マドカさんからお叱りの通信が入った。そうだった。わたしも集中しなくちゃ。とにかく、その辺から人が出てくるから、見つけたら即、この石を投げればいいってことだよね。
わたしは手に握った丸い石を見つめる。何で石かと言うと、最初は遠距離武器で攻撃することになったんだけど、弓もクロスボウも銃も使えないわたしはどうしよう、と困っていたら、投石を勧められたからだ。結構強いらしくて、マドカさんはこれでスパイニードラゴン――セイ達が強かったって言ってた――を倒したらしいけど、ホントかなあ?
ともかく、投げて投げて投げるしかないよね!
「配置にはついたわね? そろそろ時間よ。各自、義務を尽くすことを期待しているわ」
イヤホン越しに聞こえるマドカさんの声に大きく頷いた直後、
「それでは、デッドクロス vs 白騎士団、対戦開始です!!」
そんな気合の入ったアナウンスが響いた。と同時に植え込みの陰からさっと黒い人影が現れる。わたしは柱の陰から出て、その人影めがけて思いっきり石を投げる。
「ぐあっ!? くそ、隠れていたのか!! テラスから撃ってくるぞ! 気を付けろ!!」
当たったみたいだけど、ダメージは少なかったのか、彼は再び向かってきた。盾を装備している人はそれを掲げる。カンはそんなのお構いなしに撃っていたけど、わたしはなるべく盾を持っていない人を狙った。
時おり敵が射ってくる矢をテラスに置かれたクリスタルの盾――という名前だけど、機動隊が持ってそうな透明なプラスチック製っぽい――で防ぎながら、とにかく全力で石を投げまくる。向こうも盾を持った人が前面を固めてるし、当たってもあまりダメージがないのか、彼らは数を減らすことなくこちらに向かって――
「うわぁあああっ!?」
急に悲鳴が上がり、その直後に黒い粒が舞った。え? ただ落とし穴に落ちただけでそんなにダメージ受けるもの? と思ったら落とし穴の底に何か槍的なものがびっしり生えていた。
あー、漫画とか映画とかで定番の、遺跡とかにある落ちると串刺しになる罠だ。いつの間にかそんなの仕掛けてたんだな。わたしがずっと深い穴を掘ってる間に、かな。
「なっ、落とし穴!? くそ、気をつけろ!」
「こっちばっかり気にするから、足元が疎かになるんだ。でもそうやって足元も気にしてくれると、撃ちやすくて良いけど」
罠を気にして少し移動スピードの落ちたデッドクロスに、カンが銃弾を浴びせていた。わたしも石をバシバシ投げる。デッドクロスのメンバーから悲鳴が上がった。
「すごいな、よく当たるもんだ」
カンがちらっとこちらを例の中二感溢れる片方だけ赤い眼で見て驚き混じりにつぶやいた。
「中学・高校とソフトボール部で、コントロールは割といい方だったんだー!
でも、カンもすごくない? 遠距離系、当たらないでしょ? それにリカみたいにペット連れてるわけじゃないのに」
弾を込め直している彼にそう言うと、
「似たような物を持ってるんだ。見えてないけど小型のドローンが四機、その辺飛んで監視してる。
後はアプリの補助だね。気象観測、測距、弾道計算、動作予測、etc.
だから俺が凄いわけじゃない。俺は魔眼に映る計算結果を見て引き金を引くだけ」
と、彼はちょっと肩をすくめた。そして再びデッドクロスに向けて引き金を引く。そっか、カンは色んなアプリを組み合わせて、ペットみたいな効果にして使ってるんだ。色々、工夫してるんだね。
「けど、あいつらなかなか減らないね。しぶといなあ……」
何人かは倒したとはいえ、撃たれても石をぶつけられても、傷薬で回復させながら進んでくるデッドクロスにわたしは苛立った。
「彼らも随分ホーラを溜め込んでるらしいね。ああ、そろそろ侵入されそうだ」
弾を込めながら、カンが軽く舌打ちした。
「はは……あと少しだ! 後少しで侵入できるぞ! みんな気……うわっ!?」
わたし達の攻撃を潜り抜け、もう少しで建物、というところに来て他のメンバーを励ましていた人が、ストン、と落とし穴にはまって黒い粒に姿を変えた。残念でした。
それにしても、さっきからわたしの作った特製落とし穴、はまってくれる人がいないんだよね。せっかく作ったんだから誰か落ちてほしいんだけどなあ。
って、そんなこと言ってる場合じゃない。もう建物のすぐそばだ! 何とか止めないと。
「くそっ! 扉に罠とか姑息な真似を!! こっちはダメだ! 庭側に廻るぞ!!」
遠くからそんな声が聞こえてきた気がした。この声……すごく聞き覚えがあるような?
「リン! そっちはカンに任せて、一階に降りてきてくれるかしら!」
声が気になっていたところに、マドカさんの声がイヤホンから聞こえてきた。もう侵入されちゃうから、一階で迎え撃つのかな。
「じゃ、カン、後よろしく!」
「Aye, Ma'am」
カンの適当な返事を背に、わたしは盾をひっつかみ、執務室を抜け、優雅な曲線を描く螺旋階段をあわただしく駆け降り一階に向かう。
一階に降りたところで、リビングの方からガシャーンと何か重い物が落ちたような凄い音と、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「くそっ! 何人やられた!? さっきから罠、罠、罠だ……! あいつら騎士団とか言っときながら卑怯な真似ばかりしやがって!!」
そんな怒声も聞こえてきた。この声……やっぱり聞き覚えがある。でも、こんなところにいるはずない。
「あら、リン、来たわね。カン、残りは何人?」
「六人です」
「そう。まあまあかしらね」
マドカさんの問いに答えるカンの声がイヤホンから聞こえてきた。ようやく半分ってとこだ。油断はできない。余計な事、考えてる場合じゃない。
「じゃあリン、行きましょ」
マドカさんはさらりと言うと、リビングの方へつかつかと速足で入っていった。向こうはまだわたし達の倍もいるのに、マドカさんは全然気にした様子はなかった。頼もしいといえばそうなんだけど、わたしはやっぱりちょっと緊張する。
「えっ……? あ、ちょっと、待って下さい!」
置いて行かれそうになって、わたしも慌てて後を追う。
いよいよ直接対決だ。頑張るぞ!
いつもお読み頂きありがとうございます。以前は斧だったり、今回は投石だったり、およそ女主人公らしからぬ武器で戦ってますが、楽しんで頂ければ幸いです。
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