008_01_白騎士団の初仕事
「こんにちは! 新メンバーのリンです。よろしくおねがいします!」
「団長のマドカよ。こちらこそ、宜しくお願いするわ。あら、制服、似合ってるわよ。カワイイわ。
でもリン、アンタ、何だか元気がないわね? 何かあったのかしら?」
ログインして前回言われた通りリビングにいってみると、遺跡で会った屈強なオネエ、マドカさんがすでにいたので、わたしは元気よく挨拶した。そのつもりだったんだけど、元気がないって言われたってことは、暗い顔してたのかなあ?
実はリスクオンを抜けて以来、セイと一切話せていなくてへこんでる。メッセージを送ってもスルーだし、授業後に声を掛けても無視だし。だけど今日は白騎士団での初仕事なんだから、そういうの見せちゃだめだよね。
「あ、いえ、別に何も。大丈夫です」
わたしは慌ててパタパタと手を振り否定する。
「……そう。なら、いいのだけど。
まあうちは、やっとこさ三人になったくらいの少人数でアットホームな騎士団だから、そう気負わず楽しくやりましょ」
マドカさんはにっこり笑って、落ち着いた声で言った。
「そうね、しばらくはカンと一緒に行動してもらおうかしらね。
分からないことがあったらガンガン聞くのよ。聞けば答えはするはずだから。
悪いけど、あのコには期待せずコミュニケーション力の高いリンが上手く合わせて頂戴。気が利かないってイライラするだけ損だわよ」
やっぱりカンのコミュニケーション力は残念みたいだ。でもマドカさんはっきり言うなあ。
「あら、来たわ。噂をすればなんとやらよ」
マドカさんは扉の方に視線を向けると軽くため息をついた。振り返ると、扉のところに死んだ魚のような目をした黒髪の青年が立っていた。カンだ。
「何です? 来たらまずかったんですか? 現実を優先して来ないって選択肢もありましたが」
カンはちょっと肩を竦め、首を傾げた。
「はっ、何よ? 人生ソロプレイなアンタの現実の何がそんなに忙しいのかしら。
実験レポートにテスト? 別にそんなのちゃっちゃと片付けられるでしょ。
アンタの場合はギリギリまでサボって時間がなくなってるだけよ。言い訳しないことね」
「うわ、耳が痛い……」
マドカさんのキツイ一言に彼は顔をしかめると、テーブルに着いた。うわあ、マドカさん、はっきり言うなあ。
「って、そんなことどうでもよかったわ。白騎士団の存亡の危機なのよ」
「存亡の危機?」
わたしとカンの声が重なる。そこにパサリ、とマドカさんがカードを投げこんだ。
「挑戦状? デッドクロス?
……あ、このマーク、通りで見た奴だ! 黒鳥亭があったところに掛かってた!」
カードの右下に刻印された、見覚えのある髑髏の絡む十字架に、わたしは思わず声を上げた。じゃあ黒鳥亭を乗っ取ったギルドが、わたし達に挑戦してきたってこと?
「そうそう、それよ。デッドクロスってギルドに戦いを挑まれたの。コイツら、最近クレーディトのギルドを次々と潰してたみたいね。リンの言う黒鳥亭もその一つだわ。
その勢いで白騎士団も倒して、クレーディトの【支配者】になる気なのね」
マドカさんはふっとため息をついた。そういえば、セイが前に、騎士団に勝てば街が手に入るんじゃないか、って言ってた。きっとそうなったんだ。
「クレーディトなんぞの支配者になったところで、大したメリットも無いでしょうに。
研究所に入れたとしても、彼らに役立つ情報が得られるわけでもありませんし。
まあ、他の二都市に比べたら遥かに難易度が低そうに見えますからね、都市の支配者、って称号の一番乗りになるには最適って判断ですかね?
全く、迷惑千万な話ですよ」
机に頬杖をつき、カンはさも面倒くさそうにため息を吐いた。やる気ゼロだ。まあ、彼がやる気に満ちてることなんてあったっけ、って感じだけど。でも、やる気ないのはわたしも一緒だ。
「今は対人戦とか支配者とかより、ミライ達の方が気になるのに。
その話、パスできないんですか?」
わたしが聞くと、マドカさんは残念そうに首を横に振った。
「現・支配者には無理かしらね。不戦敗になるわ。で、負けたら今の特権がなくなるの。
そんなのどうでもいいって顔ね。甘いわよ。運営から情報が入らなくなるとか、研究所に入れなくなるとか、兎に角公式には活動し辛くなるわ。そうなったら謎解きも出来なくなるわよ」
そっか、ミライは研究所にいるから、そこに行けなかったら話を聞くこともできなくなっちゃうんだ。
「じゃあ、そのデッドクロスには絶対勝たなきゃですね!」
元気よく言うわたしに、マドカさんが大きくうなずいた。
「で、どんな相手なんです? 戦うったって、ルールはどうなるんです?」
面倒くさそうに大きくため息を吐いて、カンが尋ねた。
「有害生物駆除で実績のあるギルドね。この間の開拓村のイベントでは駆除数トップよ。で、今回参加するメンバーは中心となる13人で確定よ。
対戦ルールは制限時間30分、対戦の場所はここで、全滅かこの石を破壊されたら負けよ。相手を全滅させるか、降伏させるか、30分耐えられれば勝ち」
マドカさんが床に置かれたキラキラ輝く大きなクリスタルのようなオブジェを指差して言った。デッドクロスは駆除数トップ……って事はリスクオンより強いってこと? あの時は作戦もあったし、タイラントに襲われたりしたから、リスクオンは本調子じゃなかった面もあると思う。それにしてもトップっていうのはすごい。でも、それよりも。
「ちょっと待って下さい、メンバーは13人? それって1人、4人以上倒さなきゃってことですよね!? そんなの不公平です! 同じ数でって条件、付けれないんですか?」
「そこは決定済みなのよね。それに数の優位を作り出すのも戦略の内だから、制限するのを認めてもらうのは難しいわ」
マドカさんは首を振った。うう……まあ、そうだよね。どんなに不利でも戦わなきゃいけないんだよね。
「できるか、分からないけど。でもやらなきゃですね!
少数で大軍を倒す話、結構聞いたことあるし。確か300対100万――あれ、200万だっけ?――とか! それに比べたらたいしたことないですよね!」
主に自分を鼓舞しようと、わたしは明るく、元気に言った。昔の映画で見たような気がするんだ。実際どうやって戦ったのかとかどんな話だったかってのは覚えてないんだけど。でも絶対解決策はあるはず! そう、きっと何とかなる! ……と、思ったんだけど。
「……全滅は御免だよ。それにあんなに勇猛でもなければ、練度も高くない」
カンに思いっきり鼻で笑われた。うわ、何この空気読まない態度。すっごい腹立つ。しかも何の話だ!
「アンタは、もう、どうしてそういうつまらないことを言うのかしら! 折角リンが頑張ろうって盛り上げてくれてるのに水を差すなんて! 万死に値するわ!!」
あっという間に――ホントに動くのが見えなかった――後ろに回り込むと、マドカさんはカンの首をキリキリと絞め上げる。
「ちょっ、痛い、放して下さい! 戦う前から戦力の3分の1を失うことは無いと思うんですけども!」
首に掛かったマドカさんの手を振り払おうともがくカンに、
「味方の士気を下げるだけの敗北主義者の末路、博識なアンタなら知っているわよね?」
首を締め上げながら冷たい目でマドカさんが問いかけた。怖い。怖すぎる。さっと彼の顔が青くなった。
「がっ、街灯に吊るすのは勘弁して下さ……あっ、ごめんなさいごめんなさい、ちょっと調子に乗りました。歴史なんぞロクに知りもしないのに。ゴメン、リンさん。別に馬鹿にしたかったわけじゃないんだ!
えーと……折角こっちに有利な拠点が使えるんだから、なるべくそれを有効活用する方向でってこと……かな? ほら、罠仕掛けて、なるべく時間を稼ぐ、とか」
慌てて謝り、わたしの方に縋るような目を向けながら、カンは必死に早口でまくし立てた。いやまあ、ホントに締め殺されそうな状況だけど。
「そうねえ……まあ、悪くないかしらね」
マドカさんはうなずいて、カンを解放した。彼はぐったりと机に突っ伏した。何だかちょっとかわいそうになってきた。
「罠かあ……。あ、落とし穴とか入り口の前とかに掘っておいたら落ちてくれるかな? それなら時間も稼げるし、ダメージも与えられていいかも!」
「あら、いいわねそれ。設置しましょ。折角だから入り口の前だけと言わず、庭に沢山仕掛けておきましょうよ。パンジステーク的なやつ」
わたしが言うとマドカさんはポンと手を叩き、ニコニコと賛成してくれた。何か知らない単語が出てきたけど、多分落とし穴のことなんだろう。詳しい事は聞かない方がいいと、わたしの直感が告げてる。
「そうですね……後は入り口自体にも何か仕掛けておきたいですね……。開けるとスパイク的なものが刺さるような奴。後は侵入した後、油断したところで何か仕掛けておきたいですね。庭からならこの部屋か……」
庭に繋がる掃き出し窓から、シャンデリアに視線を移しつつカンが呟いた。うわあ、何か性格の悪い罠だなあ。けど、こっちだって少ない人数で勝たなきゃいけないんだもん、仕方ないよね。
「そぉね……それでいきましょ。それじゃ、早速罠を設置しましょ」
わたし達は外に出て、ひたすら落とし穴やその他の罠を作った。
落とし穴を掘ってたら、深く掘りすぎて出られなくなって、二人に助けてもらったのはヒミツだ!
いつもお読み頂きありがとうございます。
新しい章スタートです。
なお、このオネエは誰だっけ、という方は三章をご参照下さい。
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