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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第七章: ここから探検再開!

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007_08_見つけた先にある未来#2

「あいたっ! もう、急に止まらないでよ」


 人通りのまばらなクレーディトの大通りをスタスタ早足で歩くカンを頑張って追いかけていたら、彼が急に足を止めたので追突した。何かあったのかと彼の視線の先を見る。


「カン? お前そのカッコ……クレーディト白騎士団(ホワイトナイツ)だよな? 何でお前が?」


「彼、リスクオンに入れなかった村人でしょ? うそ、それって騎士団員だったからなの?」


「ってか、なんでリンが一緒にいんの? あの竜騎士は?」


 ジョーとリカ、それにセイが口々に驚きと疑問の声を上げていた。


「え? 何でみんながこんな討伐系の仕事のなさそうな街にいるの?」


 カンが急に足を止めたはずだ。クレーディトにいるはずのない三人にわたしも驚いた。


「なんとかってギルドとのアライ……なんだっけ? の話だし!

 ってかリン、どーゆーこと? あいつは!?」


 セイの答えは全っ然内容がなかった。聞きたいけど、ジョーとリカが忌々しげにセイを睨んでいる。多分秘密にしておきたいことだったんだろうな。セイはあの時緊急帰還して、その後暇になったから、ホントは二人でここに来るはずだったジョー達について来ちゃっただけなのかも。これは聞き出せなそう。


「えっと……逃げられた」


 聞き出すのは諦めて、余計な事を言わないようにと、詰め寄って来たセイにそれだけ答える。彼女はちょっと悔しそうな、でもほっとしたような顔をした。その隣で何か考えこんでいる様子だったジョーが、ふいに顔を上げ、カンを見た。


「そういや、竜騎士は騎士団も追ってるって話だったな。お前も竜騎士追ってるうちに、セイが緊急帰還してピンチなリンを見つけたってとこか?

 で、何で一緒にいる? まさかリンを勧誘したのか?」


 ジョー、鋭い。大体合ってる。


「俺は、勧誘していないよ」


 カンが訂正した。確かに勧誘してたのはレイさんだからそうだけど、そういうことじゃない。ジョーがなんか青筋立ててる気がする。まずい、これ以上こじれる前にちゃんと話さなきゃ!


「ごめん、詳しくは言えないんだけど、わたし、白騎士団に入ることにしたんだ。

 みんな初心者のわたしに色々教えてくれたし、仕事も一緒にできて楽しかったし、すごく良くしてくれて嬉しかった。

 リスクオンが嫌とか、無理に勧誘されたとかじゃなくて、どうしてもやりたいこと――」


「は? なにゆってんの? やりたいこと? 一人じゃ魔物も狩れんくせに! つーかウチらのおかげでここまでこれたのに、裏切るとかありえんくね!?

 そんなんだったら、ウチもう友達やめるから!」


 セイは今にも斬りかかってきそうな勢いでわたしに詰め寄った。一方的にそんな事を言うなんてヒドイ! そう思ったけど、言い返せなかった。


「ほっとけよ、セイ。オレらはもっと上目指すんだ、ついて来れる奴だけでいいし。

 大体、もう未来のない弱小騎士団にわざわざ入ったって、後悔するだけだろ」


 ジョーはセイの肩をいつもの調子でポンポン、と叩いてなだめつつ、わたしを非難した。ジョーってこんな嫌な感じだったっけ? まあ今まで初心者のわたしの面倒を見てきたのに、それが突然やめる、とか言い出したら怒りたくもなるのかもしれないけど……。


「けど、お前さあ」


 と、怒りを押し殺すように、冷たい調子でジョーが声をかけたのは、わたしではなくカンだった。


「騎士団員のクセに初心者のフリしてたのかよ。

 全部知ってんのに、知らねえ顔で必死でギルド立ち上げようって頑張ってるオレらに紛れこんで、内心じゃ馬鹿にしてたわけか? 相変わらず最低だよな!

 で? 楽しかったか!?」


 まくし立てるジョーに、カンは少し困ったようにうつむいて視線を外すと、ふっと息を吐いた。


「ああ、楽しかったよ。それに、知らなかったことも知ることができた」


 彼は静かにそれだけ答えた。ジョーは彼にしては珍しく、怒りを抑えきれない感じだった。


「ね、ジョー、行こう。白騎士団なんかにあたし達が関わることないでしょ。まだまだ仕事、山積みだし」


 リカが恐る恐るジョーに声をかけると、ジョーもやや落ち着きを取り戻したようだった。三人は、わたし達からすっと視線を外すと探検家協会の方に去っていった。


「なんかすっごく感じ悪かったなあ。みんな、あんなだっけ?

 もっとフレンドリーだと思ってたのに……」


 彼らの姿が見えなくなったところで、わたしは思わずつぶやいた。あまりの豹変ぶりに、怒りを通り越して悲しくなった。


「……そう? 最初からあんなもんだった気がするけど。

 まあ、自分についてくる初心者か、運営直属の騎士団員か、では態度が変わるのかもね」


 カンはそう言って肩をすくめると、また早足で歩き始めた。おいてかれたら困るので、仕方なくわたしもついていく。


「カンは何で、騎士団てこと黙ってジョーのパーティに入ってたの? ホントにジョーの言ってた通りなの?」


 ジョーの言った通りだとしたら、凄く性格悪い。でもそうではない気がして――新しい仲間がそんな人じゃないと信じたいだけかもしれないけど――わたしは聞いた。


「前に答えなかったっけ? 丁度誘って貰ったし、ギルドって制度も気になったからって。黙ってたのは単にさっきみたいに色々訊かれるのが面倒だから」


 彼はさらりと答えた。確かに、前にそんな事言ってたっけ。でも、それじゃ分からない。


「ギルドが気になったって、どういうこと?」


「ギルド、なんて組織をプレイヤーに作らせるって話、ジョーに聞くまで知らなかった。今までずっと騎士団しか無かったのに。だから、その狙いは何かと思っただけ」


 気になったのはギルドそのものじゃなくて、ギルドを作った運営の狙い? そう言えばギルド設立の時にカンはショウさんに聞いてたっけ。その時は初心者の育成とか、色々言ってたような気がする。で、その答えに彼はあんまり納得してない感じだったかな。


「けど、それ以外にも最近はルールの変更が多すぎる。駆除対象の増加に駆除報酬の上昇、ギルド間の対人戦解禁。やってることが今までとは真逆なんだよ。

 これらの意味するところは何だろうね?」


 カンの考えだと、ルールを変えた、ってことは運営に何か狙いがあるんじゃないか、ってことみたいだけど。


「こういうゲームってすぐ飽きられるし、単に盛り上げるために新しい仕組みを入れてるだけじゃないの? 

 ルールが変わったからって、なんか陰謀的なものがあるわけじゃないんじゃない?」


 邪推しすぎじゃないのかな、と思って聞くと、彼は腕組みをして軽く息を吐いた。


「ルール――特に報酬の仕組み――さえ上手く作っておけば、後はジョーみたいな優秀な奴が上に行こうと勝手に動いてくれる。そうすれば運営は直接指示することなく多くの人間を自分の望む方向に動かせる。現にジョー、ギルド設立に向けて割の良い駆除ばかりやってたろ?

 FXの仕組みを考えれば、ルール変更はプレイヤーに特定の事をさせたいからだ、って考えるのはそう突飛なことでもない、と俺は思うけどね」


 そう言われてみれば、そうなのかもしれないけど……。じゃあ何をさせたいんだろう? 考えながら歩いていたら、通りの様子にふと違和感を覚えた。


「ここ……前来たときはこんな看板じゃなかった気がするんだけど」


 黒っぽい鉄の板に、銀で描かれた髑髏の絡む十字架を見上げてわたしはつぶやいた。なんだっけなあ……。


「あ、そうだ、黒鳥亭だ。思い出した」


 看板を描いた、と楽しそうに話してくれた女の子の顔を思い出す。あれからまだそんなに経っていないのに、もうなくなっているなんてあんまりだ。


「この看板のギルド、リスクオンみたいに戦って他のギルドをドンドン吸収しているのかな?」


「かもしれない。そういえば最近うちにやたら採集だの調査だのの仕事が回ってきてたな。こういうギルドが無くなった分なのかもね。

 しかしクレーディトの地味な、戦闘からは程遠いギルドを潰したって面白くないだろうに」


 カンがうんざりした様子で答えた。どうもあまり快く思ってないみたいだ。戦闘が得意じゃないギルドはどんどん潰されるだけなんて、そんなのおかしい。


「そういえば、さっき何か狙いがあるんじゃないかって言ってたよね? 戦闘が得意なギルドばっかりにして、やらせたいことってなんだろう?

 うーん……こっちの生物をガンガン倒させて……あ、象牙とか乱獲するみたいに、こっちの生物の角とかを集めてお金儲け、とか?」


 そういえばトライホーンドラゴンの時は、角が結構高い値段で引き取られてたよね。


「それもあるかもしれない。

 でも普通に考えれば、世界の探検なんて人手のいることをするなら、プレイヤー同士の潰し合いなんて無駄以外の何物でもないはず。

 プレイヤーを組織化して、特に対人戦に強いものを選抜する……。生き残った精鋭に、運営は何をさせる気だろうね」


 彼は何か含みのある感じで薄く笑った。カンは何か、思い当たるものがありそうな感じだし、どうもそれは彼としては面白くないことのようだ。でも彼はそれ以上は何も言わなかったし、わたしも何も聞けなかった。


 わたし達は無言のまま元・黒鳥亭を後にした。


読了ありがとうございます。

急展開のこの章も、次で終了です。色々な情報が混乱なく伝わるよう書けていると良いのですが。


皆様の忌憚のないご意見、お待ちしております。

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