007_07_見つけた先にある未来#1
「この子やさっきの人の事、もっと知りたいです。
でも、だからってレイさんの言う事に絶対服従なら、仲間にはなりません。わたしは彼らを傷つけたくないし、この世界を滅ぼしたくもないんです」
大きく息を吸い込み、わたしははっきりと答えた。
「うわ、何か君、僕の事盛大に誤解してない? 僕は別に、彼らを害する気もないし、この世界を滅ぼす気も無いよ。
後、運営の依頼は嫌なら断ってもいいよ。他に仕事が回るだけ。それに、君がさっき言ってたような状況だからね、僕らにも答えは無いんだよ。だから対応は各人の裁量に委ねる感じ。
要するに、君のギルドほど厳しくないよ」
レイさんは苦笑いだった。別に絶対服従ってわけじゃないみたい。なら、いいかな。
「そもそも別にレイさんの仲間ってわけじゃない。あくまで運営からの依頼で動いているだけ。
で、レイさんが勝手に出張ってきてるだけ」
カンが横目でレイさんをちらっと見ながらさらっと補足した。レイさんはさらに苦笑いだった。
そうだ、このうさんくさい二人に好き勝手させないためにも、仲間になっておこう。この子だって、どう利用されるかわかったもんじゃない。よし、中から変えるんだ!
「なら、仲間になります」
「おー、良い答えだねぇ。
じゃ、君は今から白騎士団の一員ってことで」
ぱちぱち、と手を叩きながらレイさんが嬉しそうに言った。
「白騎士団?」
聞いたことのない名前を聞き返すと、レイさんはコクコクとうなずいた。騎士団て、ソリドゥス金騎士団とかスターリング銀騎士団みたいな? っていうか何で白? 銅じゃないんだ。
「そうそう。クレーディト白騎士団。
いやー、ようやくメンバー増えたよ! あ、マドカさん絶対喜ぶよ。明るくて前向きでカワイイ女子が来たって。ねえ、カン君?」
「根暗で後ろ向きで不愛想な男しかいませんでしたからね」
「ええっ? 僕はそんな事言ってないのに。何、拗ねてるの?」
二人のやり取りはやっぱりよく分からないけど、まあいいや。
ところでマドカさんって、どっかで……あ、遺跡で会った屈強なオネエだ。そういえばカンの服、ボトムが普通のパンツに乗馬ブーツってとこが違うけど、マドカさんと大体同じだ。ってことは……。
「ええっと、じゃあカンと、マドカさんは白騎士団で、わたしはそこに加わるんですか?
でも、騎士団って何か入団条件があるんじゃなかったんですか?」
「その通り。でも君はもう条件を満たしてるから大丈夫さ。
え、条件が何かって? それは教えられないよ。変な噂が広がると困るしね。
あ、今日ここでの事も、他言無用でお願いね!」
気になることはいっさい教えてもらえなかった。とにかく、白騎士団の一員になるってことと、今日の事はしゃべるな、ってことは分かった。
けど、リスクオンを抜けることはちゃんと後でセイ達に話しておかなくちゃ。言えない事もあるから難しいけど、理解してもらえるように頑張ろう。
「う……ここは……黎明の翼は……?」
ふいに、何だかよく分からない事を呟く微かな声がした。声の主がゆっくりと目を開けた。
「あ、良かった! 気が付いたんだね! 気分はどう? ケガはないよね?」
わたしが話しかけると、彼女はプイとその紫色の目を背け、一言うるさい、とつぶやいた。そして立ち上がると、わたし達から距離を取った。そんな彼女に、
「場所は気絶する前と同じ。で、今から俺達の街に連れて行こうとしていたところ。
あの将軍閣下なら宝剣を刺したまま、帰っていったけど」
と、カンが事務的に答える。
「くっ……殺せなかった! しかも最後の鍵を奪われるなんて!」
ミライは悔しそうに叫んだ。
ん……? あ、黎明の翼ってあの人の名前なのか。何でそんな変な名前なんだろ。呼びにくいなあ。よし、ツバサでいいか。
「安心してよ、幸福な未来ちゃん! 僕らがきっと、取り戻してあげるから。
もちろん君が協力してくれれば、だけどねぇ」
レイさんがスイっと少女に近づき、肩を叩きながらうさんくさい笑顔で彼女の顔を覗き込んだ。
あ、ツバサが言ってたこれも名前だったんだ。二人とも何でこんな変な名前なのかな。また呼びにくい。うん、ミライでいいか。
って、じゃあツバサはわたしに彼女のことを頼む、って言ってたんだ。なら、なおさらわたしがしっかりしなきゃ! ……と、思ったさきからわたしを置いて話が進んでいく。
「取り戻す? みすみす奪われておいて?
協力しろ? あの男一人殺せない破壊神の尖兵に、そんな価値があるのかしら!?」
ミライはレイさんの手を勢いよく振り払った。
「そう、別にいいよ。君を帝国に引き渡したい黒雲とここの凶暴な野生生物を避けながら帝国に戻って、宝物を取り戻して、また最後の遺跡に行きたいっていうなら、止めやしないさ。
君は一回やってるものねぇ。もう一度繰り返すくらい、どうってことないのかもね」
レイさんは凍りつくような目をしたまま、口角を上げる。
「くっ……!!」
ミライは唇を噛み、レイさんを睨みつけた。レイさん、どこまでも性格悪い。
「ちょっとレイさん、そんな言い方しなくても! わたし達、ミライの協力が必要なんですよ。だったらもっと仲良くしないと!
ねえミライ、確かにわたし達、ツバサに勝てるほど強くないけど。でも一人でいるよりは、一緒にいた方が安全だと思うよ。少なくとも野生生物に襲われるのは避けれる。それに、ずいぶん疲れてるように見えるし。
一度休んで、それからどうするか考えようよ!」
二人のなんだか険悪な雰囲気に、わたしは思わず割って入る。それを見て、レイさんが軽く笑い、
「ま、協力してくれるならその間の衣食住は保証するよ。しかも、結構豪華に。皇帝ほどじゃないけどね」
と、提案した。ミライは渋い顔をしていたけれど、
「…………分かったわ。そこまで言うなら協力してあげなくもないわ」
結局、折れたようだった。良かった、なんとかまとまった!
「さぁて、それじゃ君達、早速彼女を研究所まで――」
満面の笑みのレイさんを遮り、大きな音とすごい砂ぼこりを立てて何かが近づいてきた。大きなトラックみたいだ。
「ちょっと、河……じゃない、レイさん! 実験機! 一体何であんなことに!!
もう! 自信作だったのに!!」
ツナギを着た男性が降りてきて、ものすごい剣幕でレイさんに詰め寄った。それに対して、レイさんは珍しく丁寧に事情を説明していた。
男性はドローンの開発者で、墜落の信号を受けて慌てて回収に来た、という話だった。回収ついでにわたし達もクレーディトまで乗せていってくれるみたい。よかった、わたし達は別にいいけど、ミライは疲れてそうだし、歩かなくていいならその方がいいよね。
---
「その子が噂の。随分やつれているね。十分な栄養と休息が必要だ。
回復して、話ができるようになったら連絡する。それまでは、悪いが待っていて貰えるかな。運営にも、そう伝えておくから」
研究所に着くと、白衣の研究員さん達が待ち構えていた。一番前にいたリーダーっぽい男性がそう言うと、有無を言わさず後ろにいた人達にミライを連れていかせた。
ミライは、というと、意外と大人しく連れていかれていた。何て言うか、目的のために割りきって黒雲を利用する、そんな感じがした。
「はい、宜しくお願いします。では、失礼します」
カンは頭を下げ、踵を返す。わたしも慌てて挨拶して、彼を追いかけた。
油断するとおいてかれそうな速足なんだけど、どこ行くの!?
いつもお読み頂きありがとうございます。
皆様の忌憚のないご意見、いつでもお待ちしております。
肯定的、否定的、どちらのご意見も歓迎致しますので、是非ともお願い致します。




