006_04_気になる謎に迫りたい
「ここにあるのは【霧の鏡の守り人達の国】の紹介ですよ」
レイさんに貰った研究所の入場パスを見せたら、学芸員ぽい人が展示コーナーに案内してくれた。そこには様々な格好をした人形や、水上に浮かぶ都市の模型が飾られていた。
それにしても、今なんて言ったんだろう? 何か随分変な名前だったけど、国の名前なんだよね?
「まあ、我々は便宜上単に【帝国】と呼んでいますけど。
その模型は彼らの帝都で、服は帝国の色々な階級の人のものですね」
わたしの疑問に気付いてか、学芸員さんがそう付け足してくれた。ぐるっと見回すと、この前わたし達が倒された竜人の男と同じような格好の人形もいた。他にもいろいろな衣装がある。でも、どの人形もあの少女や遺跡の像のように、腕に羽根が生えてはいなかった。
「そうなんですか。ところで、腕に羽根が生えた人って、いないんですか?」
「腕に羽根……。ああ、それは【超越者】ですね。遺跡は彼らが作った街の跡です。でも、彼らは【竜人】達に滅ぼされて、もういませんよ」
滅ぼされた? じゃああの少女はなんなんだろう? たった一人の生き残りとかそんな感じ? もしかして、すごく重要な人物なんじゃない? でも、黙ってろって言われてるし、ここで聞くことはできないよね。
「そうなんですか。じゃあ竜人って、何者なんですか?」
「我々より前からこの一帯に住んでいる種族です。
ただ彼らと我々とは協定により、お互い干渉しないことになっているので、我々の土地であるこの地域に来ることはありません。我々が彼らの土地に立ち入るのも禁止です。ですから会うことはありませんが。
でも、もし万一出会った場合は刺激しないようにしましょう。好戦的な種族です。攻撃されたとしても、絶対に戦ってはいけませんよ」
うわ、そういう設定だったんだ。あ、っていうかそう言う設定だから、今は会うはずないんだ。でもなんか理由があってそんな人達が来た、みたいなイベントが今後展開される予定だった、ってことなのかな。
それなのに、バグで早々と開拓村予定地とか遺跡とかに出現しちゃった。そしてわたしとセイは戦っちゃった、と。
その辺も話すなって言われてるから、黙っておこう。でも、彼らの情報はもっと欲しいな。なんか気になる、っていうか、なんか普通と違う、浮いた存在だし。それに今後のイベントに絡むんなら、知っておいても損はないよね。
「あのー、彼らの言葉とかって、研究されてたりしませんか?」
彼らの言葉を聞き取ることも、こっちの言葉を理解してもらうことも、できなかったんだよね。今後彼らがちゃんとイベントで登場したときに、話せたらいいなって思って聞いてみる。
「ええ、勿論研究していますよ。いい心がけですね。戦いを避けるためには言葉が必要ですからね。
自動翻訳するアプリも開発しています。5ホーラでインストールできますよ」
う……結構高い。やっと手に入れたホーラが半分なくなるのは痛い。でも彼らが何を言ってるのか知りたいし。
「はい、お願いします」
ということで、わたしは泣く泣く5ホーラを払った。
アプリはインストールしておけば、何とか帝国の人に話しかけられた場合は自動的に翻訳されるらしい。でも出力側は自分でオンオフを切り替える必要があるのでちょっと注意が必要だ。
ただそのおかげで聞かれたくないことは翻訳しないようにすることができる。後は翻訳をオンにした場合、翻訳アプリを持っていないプレイヤーには聴き取れなくなる点にも注意するように、と言われた。けっこう複雑だなあ。
「はい、インストール終了です。
でも、彼らに遭遇してしまったら、とにかく刺激しないように立ち去ってください」
刺激したらあっという間に返り討ちにされたもんなあ……。よし、今度あったら友好的に接しようっと。ともかく、これで彼らと話せるんだもんね。会えるようになるのがいつかは分からないし、無駄になるかもしれないけど、備えておいた方がいいと思う。
さてと、そろそろスターリングに帰ろうかな。セイはいないだろうけど、一応ギルドに顔を出しておこう。……宿代取られるのもヤダし。
あ、その前に武器を買っておかなくちゃ。
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「あ、これ良いな! すごくきれいだし」
スターリングに戻って、店の並ぶ大通りを武器を探して歩いていたら、素敵な剣を見つけた。形や柄の装飾はごくシンプルだけど、金色っぽい刀身に波紋のような模様が浮かびあがっていてとてもきれいだ。とにかく見た目はすごく好き。
「けど……剣は攻撃力、足りなかったんだよね」
ここ最近の戦いの事を思い出し、わたしは肩を落とした。するとそれに気づいた店員さんが、ニコリと営業スマイルですっ飛んで来た。
「こちら、切れ味も最高ですよ。この触れれば切れる素晴らしい切れ味で、大型ドラゴンの鱗も裂くことができますよ」
そう言って、店の人はハンカチを取り出し、ふわりと刃の上に落とした。刃に触れた瞬間に、スパッとハンカチは二枚になり、ひらひらと宙を舞った。おお、何か凄い!
「試し斬り、してみますか?」
「お願いします!」
前のめりに答えると、店の人が笑顔で奥の部屋へ連れて行ってくれた。試し斬り、って感じの藁の束が置かれている。彼はどうぞ、と剣を渡してくれた。
「やぁっ!!」
気合を入れて剣を振るい、藁の束を斬りつける。スパッと、それこそ何の抵抗もなく藁が斬れた。わー、いいなコレ。欲しいな。
「お気に召したようですね。お買い求めになりますか? お値段は70ホーラになりますが」
営業スマイルを崩さず店員さんが聞いてきた。は? 70ホーラ? 武器ってそんなに高いの?
「古代の技術を忠実に再現した逸品ですからね。通常の物よりも少々お高くなっております。
でも軽さと切れ味を両立した使い勝手の良い武器ですので、これから稼がれる方には丁度いいかと思いますよ。分割払いも承っております」
分割払い? いやいやだめでしょそんなの……って、そうだった。武器の無料券もらったんだった。
「あっ、買います。買うっていうか、これで」
わたしはレイさんにもらったクーポンを表示させる。
「おや、珍しい物をお持ちで。承りました。では、どうぞ」
よし、武器もゲットしたし、これでギルドに復帰できるぞ!
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