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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第六章: とにかく借金返済!

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006_03_事情聴取と口止め料

「うう……これ、遺跡の時と同じ……」


 どのくらい気を失っていたのか分からないけれど、前と同じようにしばらくして目を覚ますことができた。


 辺りを見回すと、部屋の雰囲気がガラリと変わっていた。なんだかよく分からないメーターのようなものとかが浮かんでいて、何かのコントロールルームみたいになっていた。


「そうだ、あの子!!」


 さっきの少女を慌てて探すけど見つからなかった。開いていたいはずの床の穴も塞がっている。気を失っている間に逃げられてしまったのかな。


 それにしても、一体なんだったんだろう?


「ふぅん、あの子って誰さ? それに今、遺跡の時と同じ、って言ったよね? どういうことだい?」


 トン、と肩に手が置かれ、わたしはびっくりして一瞬固まった。


 ゆっくりと振り返るといつの間にか目を覚ましたらしい、さっきの運営の男がわたしの顔をのぞきこんでいた。っていうか顔、近いなあ。


「えっと――」


「ああごめん、もう時間だ。

 ええと……君は次いつバイト入るの? え、決まってない? じゃ候補日伝えておくから、適当にそこから選んで。で、次も普通にアルバイトに入ってくれるかい? そしたら僕の所に来られるようにしておくから。

 じゃ、これで一旦終了ってことで。またね!」


「え? ちょっと、一体何――」


 抗議の声を上げる間も無く、わたしの意識は再び途絶えた。


---


「やあ、おはよう」


「うぉわぁっ!?」


 後日、再びログインして、目を覚ますと遺跡の美形さんがわたしの顔を覗き込んで微笑んでいた。わたしはびっくりして跳ね起きる。


 ホントのこと言うと、丸太の枕を叩いて起こされる、というイベントより驚いたよ。


「そんなに驚かなくたっていいのに」


 男が呆れた様子でクスリと笑った。いや、起きた瞬間、どこだかわからない場所で美形にのぞき込まれてたら普通驚くと思うんだけどな。


 けどこの人、いつから見てたのかな? 寝顔のぞきこまれるなんて最悪だよ。よだれとか垂らしてないといいんだけど。


「じゃ、さっそく話を聞きたいんだけど」


 笑顔でついっとこっちに近づいてくる。やめてほしい。


「ちょ……ちょっと待ってください、大体あなた誰なんですか?

 全然事情がわかりませんし、後、ベッドに寝た状態で事情聴取とか嫌なので、とりあえずどこか別の場所――会議室っぽいところとか――でお願いします!」


「……ふーん。あっそう。まあいいよ。じゃ、隣の部屋で」


 そう言うと彼はドアの方に向かって行った。わたしも急いで起きて、彼の後を追う。


 あれ? そういえば服が元の制服に戻ってる。寝てるうちに着替えさせられた、とかだったらどうしよう? ってゲームだからそんなことないか。アホなこと考えてないで早く行こう。


 隣の部屋は革張りのソファーとローテーブルが置かれた、応接室のような場所だった。勧められて座ると、彼も向かい側に座った。


 すらりと長い足を組んでゆったりとソファーに腰かけた男性は三十代前半くらいかな。さらりとした黒髪に、知的な感じのする切れ長の目。遺跡で見た時にも思ったけど、明るいところで改めて見るとすごく整った顔だ。冷たそうだし、なんでも見透かされそうな感じがするから、全く親しみを持てないけど。


「さて、あの場所で君が見たこと、気づいたことを全部、話してくれるかな?

 何であそこにいたのか、あの子って誰なのか、何と何が同じなのか、とかさ」


 彼は笑顔で、穏やかな口調ではあるけれど、どこか有無を言わせない感じだ。わたしとしては、まず状況を教えてほしいんだけど、早く話せという美形さんの冷たい視線に負けた。びしっと言ってやりたかったけど、何かダメだ。情けないなあ。


「ええと……まずアルバイトであの辺――どこかは分からないんですけど――の整地作業をしてたんです。

 作業に一区切りついて、ちょっと休憩しようって地面にスコップを突き立てたら急に地震が来て、わたしは地割れに飲み込まれて、地下の遺跡に落っこちました。

 戻れそうにないから、先に進んで出口を探そうって歩いてたら女の子に――」


「女の子、って言うのは? どんな? 見覚えは?」


 男は腕を組んだまま、わたしが話し終わる前に、彼女について詳しく話すよう促した。


「ええと……白い肌に白い髪で、やせ細って、腕に白い羽根が生えた女の子でした。

 ホントの事言うと、実はわたし、同じ子をソリドゥス南の遺跡でも見たんです。システムトラブルがあった日に。一緒にいたみんなは見てない、って言ってたんですけど……。」


 わたしが少女の事を話すと、彼は腕組みをして考え込んでいた。


「ソリドゥス南の遺跡のシステムトラブル……あれか。

 君はその時もその少女を見た、と。で、その時もさっきと同じような部屋の状況だった、と。それから? 他に気づいたことは? 彼女はソリドゥスやさっきの場所で何をしていたんだい?」


 そして、矢継ぎ早にわたしに尋ねた。


「えっと、ソリドゥス南の遺跡の時は、システムトラブルで落ちる直前に目が合っただけだから分からないんですけど、さっきは祭壇みたいなところで何かしてました。何してたかまでは分かりませんでしたけど。

 で、その後すぐ彼女は床の下にすうっと消えていったんです。何かエレベーターみたいになってたみたいで。

 追いかけようかと迷ってたらあなたが来て、その後ソリドゥスの時みたいに、いきなり目の前が真っ暗になって動けなくなって」


 じっとこちらを観察するような美形さんの視線に負けて、わたしはとにかく質問に答えた。


「へえ……」


 曖昧にうなずいたきり、彼はわたしを置いてまた思索に戻ってしまった。


「一体彼女、何なんですか? 新しいイベントですか? 二つの遺跡に関連して、何か重要な秘密を握ってる、とかですか? そういえば他のNPCとは雰囲気が違う感じだったし……。

 あ、雰囲気が違うと言えば、開拓村建設地の大規模イベントで最後に突然現れた青い髪の戦士――ええと……竜人(ディノサウロイド)とか呼ばれてたと思いますけど――もそうですよね。何か関連してるんですか?」


 何一つ教えてくれない美形さんに、二人の事を思い切って尋ねる。


「開拓村の? あー、金騎士団がブチ切れてきたやつね。あれ君も見たんだ。

 ってか君凄いね、バグ踏みまくりじゃない。

 あー、悪いけどその辺の事は秘密にしてね。今のところ出てくるはずじゃないやつだったんだよね。絶賛デバッグ中でさ」


 彼はわたしの質問にはほとんど答えてくれなかった。とりあえず竜人はもっと後で登場するはずだった種族だけど、バグのせいで出てきちゃったから、今のところ秘密にしろ、ってことは分かったけど。でも自分が興味あることだけ聞いて、わたしの質問には答えないなんてひどいなあ。


 もっと竜人について情報がほしくて、質問しようと口を開く前に、


「やー、助かったよ。情報ありがとうね。でもストーリー展開については教えられないからさ。正式リリースまで、とにかくこのことは黙って、大人しく待ってもらえないかなぁ?

 じゃ、今日はもういいよ。ここは研究都市クレーディトの探検家協会の一室で、その扉から外に出たら右に進んで階段を下りれば、協会のホールに出られるから」


 彼はとびっきりの笑顔で言うと、扉を手で示した。もう聞きたい事は聞いたから帰れ、そんな感じだ。美形が笑顔を見せれば女は何でも言う事聞く、なんて思うなよ!


「ちょ、ちょっと待って……下さい! 話はこれで終わりですか?

 っていうかこれ、何なんですか一体! いきなり誰だか知らない人に、事情も分からないまま質問だけされて、二回も立て続けにシステムトラブルに会ったのにバグだから黙ってろって言われるだけなんて、納得できませんよそんなの。

 それに午後のアルバイトだってキャンセルで、その分の報酬は!?」


 あんまりイライラしたから、わたしは彼に詰め寄った。彼はわたしの剣幕に目を丸くしていた。この対応で相手が怒らないとでも思ってるんだろうか。なんという自分本位な美形!


「ああ、ごめんね。

 僕は開発部の……そうだね、ここではレイって呼んでくれる? イベント作成その他を担当しているよ。で、この格好はイベントの確認や実行、それから修正でログインするとき用のものさ。因みに青い縁取りの制服は開発部員だよ!

 最近原因不明のシステムトラブルとか、まだ投入予定じゃないキャラクタやイベントが勝手に発生してたりしてね。その原因解明のために情報が必要だったのさ。で、君に頼んだってわけ。

 いや、ホント助かったよ。良い情報だった」


 うっかりしていた、という様子で彼は慌てて言った。開発部のレイさん、かあ。名前もわかったし、理由も話してくれたけど、これだけペラペラと淀みなく言われると、なんだか逆にうさんくさい感じがするんだよね。あんまり人を疑っちゃいけないとは思うけど、でもこの世知辛いFXの運営の人だもんなあ。


「そうそう、その貴重な情報のお礼をしないとね。借金はチャラにしといてあげるよ。後、今後も楽しくプレイできるように武器のクーポンもあげる。

 何と、お好きな武器がタダで貰えちゃうよ!!

 ……はい。どう? 端末確認してみて」


 確認すると10ホーラあった。おお! 借金返せた上にプラスなんて!! それに武器の引き換え券も入ってた。ゲームオーバーで武器はドロップしちゃったからちょうどいいじゃん!


 さっきまでの疑いはどこへやら、自然と頬が緩む。が、ふとレイさんの呆れたようなニヤニヤした顔が目に入り、慌てて顔を引き締めた。


「ま、お察しの通り口止め料さ。くれぐれも他言しないようにねー」


 レイさんは笑顔で軽く言ったけど、目は笑っていなかった。あ、これ絶対言ったらダメな奴だ。多分、これ以上聞いてものらりくらりと躱されるだけだろうな。くやしいけど、向こうの方が上手、って感じがする。今回はこの報酬で手を打った方が良さそうだ。ホントくやしいけど。


「じゃ、後は宿屋で普通にログアウトしてくれればいいから。

 あっと、君はどっかのギルドに入ってるんだっけ? ああ、その制服……見たことあるな、スターリングのリスクオンだっけ。追……じゃない、ショウ君お気に入りの奴か。じゃ、スターリングまでのゲートもつけてあげる」


 レイさんは手元の端末で何か操作しながら、軽い感じで言うと立ち上がった。


「じゃ、またね」


 レイさんは部屋の扉を開け、わたしに出ていくよう促した。分からないことだらけだけど、仕方ない。扉を出て、レイさんに会釈し、さっき聞いた通りに外に出ようとしたところで、


「あ、待って。竜人に興味があるんだったね? だったら研究所に行ってみるといいよ。入場パスもあげるよ」


 と、レイさんが声を掛けてきた。ギアを確認してみると、研究所の入場パスが表示された。


「ありがとうございます。行ってみます!」


 意外なプレゼントだ。ずっと疑問だった竜人について、何か分かるかも、って思うとこれは素直に嬉しい。


 よし、研究所に行ってみよう!

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