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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第六章: とにかく借金返済!

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006_01_ブラック風味のアルバイト

 突然頭にゴンゴンという音と振動が伝わってきて、びっくりして跳ね起きた。何事か、と振り返り、下を見る。わたしの頭の下にあったのは長い丸太だった。


 辺りを見回すと、丸太を枕に人がびっしり十人くらい並んでいた。向かい側にも同様に人が並んで寝ている。数人はわたしのように跳ね起き、大多数はうんざりした表情でゆっくりと起き上がっていた。みんな同じ生成りの粗末な服を着ている。自分の体を見ると、やはりその服だった。いつの間に着替えたんだろう?


 借金返済のためのアルバイトを受けてログインしたはずなんだけど、この格好といいこの部屋の感じといい、とっても不安になる。セイの言っていた強制労働って、ホントなのかな?


「その驚きっぷり。キミ、新入りだね? 最初はこの起こされ方にびっくりするけど、すぐに慣れるよ。ボクに何でも聞いて――」


 隣にいた小太りの男がわたしの様子をクスクスと笑いながら、上から目線で話しかけてきた。でも、わたしの顔をじっと見るとさっと顔色を変えた。


「って、お前、遺跡の……!

 ボクのこと通報したの、お前だろ!! ふざけんなよ!!!」


 そして唐突に横から凄い剣幕で掴みかかってきた。え? 何? 誰? ……遺跡……この顔、声……あ!


「ドッポ!? 何でこんなところに!

 っていうかそっちこそよくもわたし達を置いて逃げてくれたよね!!」


 男の手を振り払い、逆に詰め寄る。あの時のことを思い出すと、やっぱり今でもとても腹が立つから、思わず強く言ってしまった。けど、それが悪かったのか、


「何で、だって? いきなりトラップに掛かってゲームオーバー、レポートは新規性ナシで報酬ゼロ、その上運営からペナルティくらったんだよ!!

 あることないこと運営に吹き込んだのお前だろ!?」


 彼はさらに怒りを募らせ怒鳴ってくる。どうやらわたしが運営に言いつけて、それでペナルティを喰らったと思っているらしい。それって濡れ衣だ。


「わたしは通報なんてしてない!!

 だいたいペナルティってそんなの自業自得じゃん! 人をだまして盾に使うなんて、最悪だよ!!」


「じゃあもう一人の村人か! くそっ!!」


 ドッポは悔しそうに吐き捨て、拳でドン、と寝床を思いっきり叩いた。自分のしたことについて全く悪いとは思ってないみたいだ。なんて奴!


 さらに文句を言おうとしたところで、騒ぎを聞きつけ現場監督らしき人がやって来た。


「そこ! 何をしている! 勝手な行動は慎め! とっとと支度しろ! 仕事の時間だ!」


 彼は怒鳴り、ヒュンと鞭を振るいパシッと床を打った。怖っ。反抗すれば今度は普通にわたし達が打たれるんだろうな。何というブラック職場。


「すみません」


 わたしは大人しくさっさと謝り、他の人達が作る列に加わる。


「ちっ。全部お前のせいだ! まったく疫病神め!」


 ドッポは舌打ちすると、わたしから離れて列に加わった。濡れ衣で人に怒鳴り散らしておいて、謝りもしない上にまだわたしのせいにするなんて。もう、アルバイトが始まる前から気分は最悪だ。


 そうこうしているうちに列は動き出した。部屋を出ると――部屋というか、外から見たら簡易小屋だったけど――周りを柵で囲まれた荒地だった。現場監督らしき人にスコップを渡され、数人でグループを組まされた。


「お前らは向こうのエリアだ。おいお前、新人に作業内容を指導してやれ」


 現場監督の命令に、わたしの隣にいた男性が面倒くさそうに渋々うなずいた。


「この辺の草や大きな石なんかをどけて、ここを整地する作業だ。石とそれ以外は分けて、そこに積んでおいて。

 で、時間内にグループに割り当てられたエリアの作業が完了しないと、その分ペナルティでグループ全員の給料減るから。あんたはその辺一帯をよろしく」


 不機嫌にそれだけ言うと、男はさっさと自分の作業に取りかかった。グループでってことだから、仕事に慣れてない新人が入るとそれだけ損ってことなのかな。それで不機嫌なのかなあ。とにかく、わたしも頑張らなきゃ。


 背の高い草をスコップで根本から掘り返す。結構しっかり根が張っていてたいへんだけど、めげずにひたすら頑張って草を根こそぎ取り除いていく。

 

 あとは時々落ちている大きな石や、骨っぽい何かを持ち上げて運ぶ。やたら大きなドラゴンの頭の骨みたいなのが転がっていたときは、さすがに他の人を呼んだ。


「けど、ゲームの中でなんでこんな肉体労働をしなきゃいけないんだろう? これ、バイト代出るんだよね?

 ステージ作成の手伝い、とか言ってたけど、別にわざわざ人が開拓することなんてなくない?」


 つい気になって、一緒に頭蓋骨らしきものを運ぶ一応指導担当の男に聞いてみた。


「さあ。何か言ってたな、でも忘れた。ま、なんだっていいだろ。給料払われるんなら。

 ってか無駄口叩かずとっととやろうぜ。監督に目をつけられたくねーし、とにかく早く作業を終わらせたいんだ」


 でも返ってきたのはそんな冷めたものだった。特にこの変な状況も彼は気にしないみたい。とにかく終わらせて借金返したいのか、現場監督にムチで打たれるのはいやだってことなのかな。両方か。


 それにしてもこのやる気と愛想の無い感じ……。わたしはふと死んだ魚の目をした村人を思い出した。ギルドが出来てからは一度も会ってないし、話にも出なかったけど、どっかにいるのかな? 基本ソロプレイっぽかったけど、ギルドに入ってないといい仕事ないって話だし、大丈夫なのかな? あ、元々そんなに人気のない仕事してたみたいだからいいのか。


 おっと、そんなことどうでも良かった。やる気ない指導担当者が睨んでる。早く片付けないと。わたしは作業に戻る。


 しばらくもくもくと、無心で草の根を掘り起こし、石をどけ、それらを運ぶ作業を繰り返す。ふう……大体片付いた。周りがきれいに何もなくなってる。ちょっと休憩、とわたしはスコップを地面に突き刺した。


「なんだ!? 地震!? また!?」


 すると突如強い揺れに襲われ、他の人の慌てた声が聞こえてきた。わたしも突然の揺れでバランスを崩し地面に叩きつけられる。


 ちょっと待って? なにこれまさかわたしがスコップを刺したから……?


「危ない! 地割れだ!! 逃げろ!!」


 混乱するわたしの耳に聞こえてきたのはそんな叫び声だった。気がつけばわたしの下の大地が急激に裂けていく。


 逃げようにももう遅かった。手をついて起き上がろうと力をこめるそばから地面が崩れた。


「誰か落ちたぞ!!」


 そんな叫び声が遠くで聞こえた。その後は落ちていく感覚だけがあって、わたしは意識を失った。


読了ありがとうございます。

皆様の忌憚のないご意見、お待ちしております

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