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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第五章: しゃかりき勢力拡大!

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005_05_金と名誉とタイラント#5

竜人(ディノサウロイド)……?」


 タクさんの口からこぼれたRPGっぽい言葉に、わたしは彼の視線の先を振り返った。タイラントドラゴンの死骸の影に、飛竜の頭と大きな翼、その隣になんか派手な羽根飾りが見えた。


「まさか……何でこんなところに! 銀騎士団(シルバーナイツ)め、いい加減な仕事しやがって!

 くそ、どうすんだよ!」


 シンさんも混乱した様子で、しきりに足を踏み鳴らしていた。


「ウチらの獲物、横取りしやがって!! あとちょっとだったのに!! ゆるせない!!!」


 突然のイベントに戸惑い動けないでいる状態からいち早く抜け出したのはセイだった。大剣を構え、飛竜と竜人に突っ込んでいく。


「おい待て! 竜人に手ぇ出すんじゃねぇ!!」


 シンさんがセイを呼び止めたけど、セイにはまるっきり届いていなかった。彼女は足を止めることも振り返ることもしなかった。


「おいお前、あいつを止めろ! 連れ戻せ!!」


 シンさんの鋭い視線と、イライラした声がわたしに飛んできた。


「え? は……はい!」


 その剣幕に押されてわたしは慌てて返事してセイの後を追う。走りながらふと、わたしを行かせるより自分で行った方が確実なんじゃないか、という疑問が浮かぶ。


 うーん、シンさんも相当混乱しているっぽい。なんかやばそうだ。とにかく、セイを止めなくちゃ。


 セイはいつの間にか見えなくなっていた。タイラントドラゴンの巨大な死骸に隠れちゃってるっぽい。


「セイーー!」


 声をかけてみたけど返事はなかった。代わりに聞こえてくるのはセイの大剣が空を切る音だった。死骸を迂回してセイを探す。あ、いた。


 セイが凄い勢いで大剣を振っている。でもそれを相手の男は最小限の動きで躱していた。


 相手の男……何者? 竜人て、何か新たな敵キャラなのかな? 人型だけど、プレイヤーとも、NPCのテイストとも全然違う。


 頭には金色の羽根飾りをつけ、その下には毛先に行くに従い薄い青から濃い青にグラデーションのかかった長い髪が伸びている。


 たくましい褐色の肌には小さな青い石の板と黒い鱗のようなものをつなぎ合わせた、肩から胸までを覆う大きな首飾りだか防具だかと、白いハーフパンツ。そしてその上にカラフルな幾何学模様の施された前垂れを着けているだけで、なんだかやたら露出度高い。なんていうかどっかの部族の戦士って感じだ。中世ヨーロッパ風RPGの住人じゃない。


 でもどっかで見たような感じ……。あ、なんとなく、遺跡でみた少女に雰囲気が似ている気がする。


「セイ! やめて!! 金騎士団(ゴールドナイツ)から、そういう命令!!

 多分ペナルティとかあるんだって!!」


 わたしはもう一度セイに声を掛けたけれど、彼女は全く聞いてなくて、目の前の謎の部族の大男に大剣を振り続けている。結構ダメージを受けているはずなのに、どこにそんな元気があるんだろう? タイラントドラゴンを倒されたことによっぽど腹が立っているみたいだ。


「ちょこまかと、うっとぉしい!!」


 攻撃が通らないのに苛立ったセイが、力任せに大剣を横に振るう。ぶんっと大きな音がして、そこら辺に生えた草が飛び散った。


 対する青い髪の男は手にしたドラゴンっぽい鮮やかなモザイク画が施された丸い小型の盾を使ってセイの攻撃を受けるものの、手にした盾にはざっくりと亀裂が入っていた。使いものにならなくなった盾を、男はセイに向けて投げつける。


 セイはそれをさっと躱したものの、随分苛立っているようだった。


「セイ! もうやめて!!」


 男に止めを刺すため駆け出すセイを止めようと、わたしは彼女に飛びついた。


「リン! 邪魔すんな!!!」


 セイはわたしを軽く押すと、その勢いで後ろに飛んだ。え? 何……? と戸惑ううちに肩に何かが触れ、すごい力で突き飛ばされ地面に叩きつけられた。


 早く起きて、止めなきゃ! と思うけれど、思ったより突き飛ばされたダメージが大きいのか、今までの蓄積のせいなのか、とにかく起き上がれない。傷薬ももうないし、わたしは見ていることしかできなかった。


「いーかげん、死ねよ!」


 セイが叫び、男に飛び掛かる。どうもさっきわたしを突き飛ばしたのは相手の戦士で、セイはその隙をついて攻撃するみたいだ。


 それで決まるかと思いきや、男は手にした剣――いや、普通の剣じゃなくて、幅広の木の剣の周囲にびっしり四角い黒い石のようなものがくっついた剣のようなこん棒のような武器――でとっさに受けた。セイの大剣がそれをあっさりへし折ったけれど、それで軌道を逸らされ、斬撃は男の肩をわずかに裂くにとどまった。


 男は肩を押さえ、大きく後ろに跳ぶと、草地に膝をついていた。それを見たセイがニヤリと嗤う。


「もらったぁ!!」


大きく振りかぶり渾身の一撃を振り下ろすセイの攻撃は、男には当たらなかった。男は膝をついた姿勢から器用に横に跳んで躱していた。


 勢い余ってバランスを崩すセイに、男の廻し蹴りが飛んだ。ガードできず、脇腹に思いっきり蹴りを受けたセイは低い呻き声を漏らし、地面に倒れた。


「セイ!!」


 彼女を助け出そうと何とか立ち上がるが間に合わない。男はさっとセイに近づき、彼女の手から大剣を奪い取ると、全く聞き取れない言葉を口にして、起き上がれない彼女に大剣を振り下ろした。


 あ……とセイの小さな声がこぼれた。男はその後も、セイの体に向けて大剣を振り続けていた。


「何、するの!!もう倒したんだからいいでしょ!」


 多分もうゲームオーバーで、セイの体は消えつつあるというのに、男は攻撃をやめなかった。その残酷さが許せなくて、ようやく少し動くようになった体を気合で動かし、男に飛び掛かる。


 男はわたしの言葉にも攻撃にも何ら顔色を変えることなく、あっさりと躱し、横からわたしを斬りつけた。腕が肩から落とされ、脇腹をざっくり裂かれ、わたしは地面に転がる。幸か不幸か、即死ではなかった。


 なんとか起き上がろうとして、顔を上げると、タイラントドラゴンと同じ金色の瞳に射竦められた。そんなどうしようもない状況で、ふと冷静な考えが頭をよぎる。


 こんなのに勝てっこない。とすればゲームオーバーより、緊急帰還サービスの方が安いんだからそうしなきゃ、と。


「緊急帰還!」


 男の振るう剣がいやにゆっくり迫ってくる中、わたしは必死で叫んだ。コマンドの発動と、どっちが早かったんだろう……。


 視界が暗くなり、わたしの意識はそこで途切れた。


読了ありがとうございます。ここで戦闘は終了、次回はまとめの日常回で、本章も終わりとなります。

次々と敵が入れ替わる長いバトルでしたが、如何でしたでしょうか?

忌憚のないご意見、お待ちしております。

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