005_04_金と名誉とタイラント#4
「へー、まだ四人も残ってるたぁ優秀じゃねぇか、リスクオン。
さすが運営期待のギルド。うちも見習わねぇとな!」
わたしとリカをちらっと見て、シンさんがニヤリと笑った。彼ら金騎士団は、もうシンさんとタクさんの二人だけになっていた。
「ねえ、残りの人達もきたんだしぃ、こんなトコでボーッとしてるヒマなくね!?
せっかくあれだけダメージ与えたのに、逃げられちゃうじゃん! 早くトドメ刺さなきゃ!!」
セイが食って掛かった。凄いな、タイラントドラゴンにも金騎士団の団長にも、少しも物怖じしないなんて。そういえば銀騎士団の団長にもケンカ売ってたっけ。
「おー、いいねえ! その闘争心! カワイイ顔して好戦的、ギャップがいいじゃねえか!」
シンさんは楽しそうに笑った。そしてジョーの方を見て、
「……って、お前んとこのメンバーは言ってるわけだが。リーダーさんよ、どーすんの?」
ニヤリと薄笑いを浮かべた。
「ジョー……?」
セイが俯いて、何も言わないジョーを怪訝な顔でみた。あれ? なにこれ、どういう事? 何で黙っているんだろう?
「ジョー、ゴメン、あたしは――」
リカが何か言いかけたところで、ジョーがすっと息を吸い込み、意を決して言葉を発する。
「これ以上の損失は出せない。撤退だ」
信じられない一言だった。
「どうし――」
わたしが聞こうとしたら、それを遮ってセイがジョーに詰め寄った。
「なんで! ジョー、あとちょっとなんだよ! もうちょっとガンバって倒したら、ウチら最初のタイラントドラゴン討伐者になれんじゃん!」
そんな彼女に、ジョーは静かに首を振る。
「セイ、いつも言ってんだろ? コストとリターン考えろって。ギルドメンバーの殆どがゲームオーバーしちまうとか損失がでかすぎんだよ!
タイラントももうすぐ倒せるかどうかは分からない。それに――」
言い淀むジョーに、タクさんがかわいい顔に意地の悪い笑みを浮かべたのが見えた。
「最初の討伐者になるのが自分達じゃない、って気づいちゃったんでしょー? ボクらまだ余裕あるしー。
だからボクは賢い判断だと思うよ? これ以上頑張ったって、キミにはまぁったく得にならないもんねー?」
タクさんの言葉にジョーは悔しそうに唇を噛んだ。言う通り、ってことなのか。ジョーは大きく息を吸って、吐いて、そして言った。
「今回は撤退だ。盾にしてたオレらがいなくなりゃ、金騎士団二人じゃ無理なはず――」
「おいおい、馬鹿にすんなよ? お前らがいなくたって俺らはやれるぜ? 大体盾なんざ大して役に立たねぇさ。さっき見ただろ? お前らはとっとと帰りゃいい。じゃあな」
「はあ!? ふざけんなよ! そんなことゆわれてだまって――」
「ジョー。あたしも撤退に賛成。もう傷薬、無くなっちゃったし、それに……。それにいくら当てても、全然倒せる気がしない」
憤るセイを遮って、リカが撤退案に賛成した。
「だったらとっとと緊急帰還使えばいいじゃん! ウチは戦うし!!」
セイが二人に怒りをぶつけた。
「勝手にしろ!」
「あ、待ってよ、ジョー! あたしも!」
わたしが口を挟む間もなく、二人の姿がヒュンと消え、後には黒い粒がさらさらと風に舞い、彼らの持っていた武器がとさり、と草の上に落ちた。どうしよう? 確かにゲームオーバーはイヤだけど……。
「リンはやるっしょ?」
有無を言わさぬきつい視線を向けられ、わたしは言葉に詰まる。
「え……う……うん。確かに途中で投げ出すのはイヤだし、ちゃんと最後まで逃げずに戦闘に参加して倒すのに貢献したい、かな」
わたしが答えると、
「うんうん、リン、いいこと言った。さっすがウチの親友!」
セイがばしっとわたしの背中を叩きながら上機嫌に笑った。金騎士団の二人が面白そうにこっちを眺めていた。
「じゃ、行くぜ。どうも奴は休んでるようだからな、一気に奇襲をかけるぞ! 後少しだ、やるぜ!」
シンさんがタイラントドラゴンに向かって駆け出した。わたしも……っとその前に、せっかくだからジョーのハルバード頂いておこうっと。
剣じゃタイラントにダメージ与えられなかったけど、ハルバードは大丈夫そうだった。使ったことないけど、刺すか振り回すかしたらきっとOK! ホントはリカの弓がいいけど、絶対当たらないし。
武器を拝借して、盾はとりあえずその辺において、わたしはシンさん達の後を追う。
ダメージを受けて休んでいるのか、じっとして動かないタイラントドラゴンの右側に、セイとわたしは回り込んだ。金騎士団の二人は反対側だ。タイミングを合わせ、一斉にタイラントに襲い掛かる。
わたし達の攻撃はタイラントに届いたけれど、残念ながら倒しきれなかった。その後タイラントドラゴンの方も抵抗してきて、また激しい戦闘になった。
「リン!!!」
セイの声にはっとし、躱そうとしたけど遅かった……考えようによっては間に合ったのかもしれない。タイラントドラゴンがかみついてきた。もうどうなったのか分からないけれど、気が付いたら右腕が肩からごっそり無くなっていて、離れたところにハルバードが転がっていた。
急いで傷薬を取り出し、無くした腕の部分に振りかける。傷薬二本でようやく腕を回復できた。でももう傷薬がない。次にダメージを受けたら……ゲームオーバーだな。そう思いながら、柄がちょっと短くなって、何か色々謎の液体がついたハルバードを拾い上げ、ヒュンと液体を振り払い再び構える。
セイの方ももう傷薬がなくなったようで、傷だらけのまま戦っていた。
「くそ! まだ倒れないのかよっ!!」
シンさんの顔に、焦りが浮かんでいた。
「シン……どうする? 僕、傷薬、後二本しかないんだけど」
タクさんも苦しそうだ。とは言えわたし達よりはずっと余裕があるみたい。
「まだやれる! 何としても倒すぞ!! お前らまだ生きてるか!? 後少しだ、頑張――」
「シンさん?」
ふいにシンさんの声が途切れ、不安になって彼を呼ぼうとしたところに、さっと何かの影が落ちた。はっとして、空を見上げると、まぶしくてよく見えないけど、何か大きな鳥……違う、飛竜? とにかくそんなものがばさりと羽ばたいていた。
「ちょっと、何あれ……? 飛竜? 新手?」
驚いて見つめていると、飛竜から何かがシュッと降ってきた。そしてタイラントドラゴンが恐ろしい咆哮を上げた。見ると首に何か長い物が突き刺さっている。
何が起きたのか、と思っているうちに、また何かが続けて飛んできた。首や胸に何本も、長い棒のようなものが突き刺さり、黒い鱗が血に濡れてテカテカといやに輝いていた。
断末魔の恐ろしい悲鳴がわたしの耳を劈いた。巨体を支える活力を失ったタイラントドラゴンがゆっくりと、こっちに向かって倒れてくるのが目に飛び込んでくる。
「やばい! セイ!!」
近くにいたセイを巻き込みつつ、タイラントドラゴンを潜り抜けられるよう、力の限り前に飛んだ。腹ばいで地面に伏せるわたしの体に、大きな振動が伝わってきた。何とかよけ切れたみたいだ。
「うう……セイ、無事?」
痛む体を起こし、隣に倒れているセイに声を掛ける。
「リン、ありがと……てか何? ウチが倒したかったのに……。誰が倒したの?」
「わからない……。なんか上にいた。で、そこから何か棒みたいなのが降ってきた。見えたのはそれだけ。
でもとにかく、まずは起きて、金騎士団に話を聞いてみようよ。他にもなんか見てたかもしれないし」
すぐ近くに立っていた金騎士団のところに向かう。彼らはわたし達の後ろ、倒れたタイラントドラゴンの向こうを茫然と見つめていた。
お読み頂きありがとうございます。
今後の執筆の参考に、評価・感想等いただけると嬉しいです。




