005_03_金と名誉とタイラント#3
「待たせたな! 大丈夫か!?」
「あ、ジョー! リカ、それにみんなも……。わたしは大丈夫。
それよりセイが一人で。早く行かないと!」
ジョーやリカ、他のリスクオンのメンバーが駆けつけてくれて少し安心した。そうだ、早くセイを追いかけないと。
「うわっ! あれがタイラントドラゴン!? 超凶悪な感じじゃん! いかにもボスって感じの風格だよねー。よぉし! あたし達で倒しちゃお!」
「だな! 行くぞ!!」
リカとジョーが口々に言い、他のみんなもそれに応えてタイラントに向かっていく。みんな怖くないのかなあ。わたしは仮想現実だって分かっていても、何だかすくんでしまうんだけど。
でも怯えてる場合じゃない。わたしも追いかけなきゃ。
わたしを含む盾を持ったメンバーはタイラントの正面に立ち、その後ろからリカが矢を放つ。ジョーとセイが横から脚に攻撃を仕掛ける。そんな感じだったのだけど、マズそうだ。
「リカ、しっかり急所を狙えよっ!」
ジョーの指示する声にはいら立ちが含まれてた。
「狙ってるよ! でもあいつが歩くときの振動でうまく狙えないし、盾が止めてくれないから逃げなきゃだし!」
リカが矢をつがえながら、イライラした様子で反論した。そうなんだよね。わたし達盾役も頭突きを盾で止めようとしてたけど、止めることができずに吹っ飛ばされて散り散りになっている。
ジョー達はジョー達で脚を攻撃してはいるんだけど、タイラントの振り上げた脚に蹴られたり踏み潰されたり、時おりしっぽで攻撃されたりでかなり消耗している。
にもかかわらずタイラントドラゴンの方は傷を負ったとはいえまだまだ元気だ。だからみんながイライラするのはわかる。けど……これじゃマズイ。協力しなきゃぜったい無理だ。
「おいおい、ジョー。お前抜け駆けしといてピンチになってんじゃねぇかよ。
運営も大注目の自称討伐ガチ勢だろ?」
このピンチ、どうしたらいいだろう、と思ったところに、そんな声が聞こえた。振り返ると、シンさんが前髪をかきあげながら、肩を震わせくくっと低く笑っていた。後ろにはタクさん、それから金騎士団のメンバーが控えていた。
「もー、シンは意地が悪いなぁ。結構頑張ってる方じゃん? 一応まだみんな残ってるしさ、まーそこそこダメージも与えてるみたいだし。
ボク達に教えたらタイラントドラゴン討伐第一号の名誉は持ってかれちゃうもんね、言いたくないって気持ち、わかるよぉ。討伐系の看板掲げるならそりゃータイラントは倒したいよねえ?
そういうの、ボクは嫌いじゃないよ? むしろ向上心があっていいんじゃなぁい?」
そう、わたし達を気持ちを理解しているような言葉を掛けるタクさんの顔に浮かんでいたのは、嘲るような笑みだった。
「そりゃー、自分が倒したいって気持ちは分かるぜ? でもこれ、仕事だろ? 時間内に、こいつを含め中の魔物を片付けなきゃいけねーんだよ。
つまんねー個人の名誉欲とかで勝手なことされると、色んなトコに支障が出んだわ。だからちゃんと報告して上の指示仰げっつーの。
ホウレンソウ、基本だよなぁ? そうしろっつったろ? これだからガキは」
やれやれ、とため息をつくシンさん。そして全員を見渡すと、
「おい、ぼさっとしてんなよ! とっとと片付けるぜ! 強敵なんだ、協力してかからねぇとな!
盾持ってる奴と遠距離で正面から攻撃してタイラントの注意をオレ達からそらせ! 後の奴はついて来なっ!」
言い終わるか終わらないうちにタイラントドラゴンに突撃し、その脇腹に赤い筋を走らせた。続けてタクさんが、ひらりと宙を駆け両手の拳の先に伸びた幅広の両刃の剣――カタールって言うんだっけ――で華麗な連続攻撃を決め、タイラントの脇腹にまた傷が増えた。
みんな二人に見とれていた。最強はダテじゃないんだ。って、見とれてる場合じゃない!
「わたし達も援護に回らなきゃ! 向こうに攻撃が行かないように!」
わたしの叫びにみんな驚いたようだったけど、すぐにそれぞれの持ち場にいき、攻撃を再開した。
ていうか、何か偉そうに言われたわけだけど、やってることはさっきと同じだよね。うう……やだな。盾、ほとんど意味ない。頭突きを喰らったら吹っ飛ぶし、噛みつかれたら最後、即死だし。それで盾役が一人、また一人といなくなっている。
まだ、運良くわたしの番が来ていないだけだ。
折れそうな心を何とか奮い立たせ盾を構えたところに、タイラントドラゴンが恐ろしい咆哮をあげた。空気を震えさせる低音に、わたしも、そしてみんなも動けなくなった。きっと、そういうステータス異常を起こす攻撃だ。
その間にタイラントは体を揺すって側面から攻撃していた主力チームを振り払い、そして悠々と一歩踏み出す。
……あ、ヤバイ。あの足が下ろされるのってこの辺だ。さっきからタイラントが歩くたびに、寝そべったわたしが余裕でそっくり入るくらいの大きな窪みができてる。踏まれたら、間違いなく即死。逃げなきゃ。動け、わたしの体。
「よけろぉおお!!」
なんとか力を振り絞り、わたしは走り、大きく横に跳ぶ。
「いや、何、言って……まだ……だいじょ――」
「俺達が止めないと――」
さっきまでわたしがいた場所で、ひきつった笑みを浮かべながら、信じたいことを呟くだけで動かずにいる盾役達の上にタイラントドラゴンの大きな足が下ろされた。
残念ながらわたしの予想は当たって、タイラントがもう一歩踏み出した後、彼らが現れることはなく、そこには黒いキラキラした粒だけが残されていた。
「即死……攻撃力やばすぎでしょ……」
ゲームオーバーになったプレイヤーのなれの果てである黒い粒を呆然と眺めながら、わたしは呟いた。踏まれても噛まれてもゲームオーバー。理不尽な攻撃力だった。
でもぼうっとしてる暇なんてないんだった。立て直さなきゃ! 他の人はどうなったんだろう? タイラントドラゴンが通りすぎた後に、リカが倒れていた。どういうわけだか起き上がらない彼女のところに急ぐ。
「リカ! 大丈夫!?」
彼女はなんだかいつもとは違って、ずいぶん焦って、余裕がなかった。
「立てないの!! さっきから頑張ってるんだけど、足が、動かなくて……」
タイラントの足跡の縁に寝そべるリカの両足の膝から下はごっそりなくなっていた。逃げ損ねて、足を踏み潰されたようだ。いや、足だけで済んだんだから、逃げられたことになるのかな。
「リカ、落ち着いて。まずは傷薬使おう!! 回復させないと! 持ってるよね? とにかく使って!」
「え? あ、うん」
彼女は震える手で鞄から傷薬を取り出して使った。四本目で彼女の両足は元に戻り、立ち上がることができた。何ですぐ使わなかったんだろう?
……あ、きっとずっと後衛で、彼女に攻撃が届くことなんて今までなかったのかもしれない。だから攻撃された時の対応に慣れてなかったのかも。
「結局、こっちで残ったのはわたし達二人だけみたいだね……タイラントドラゴンは……いた。
あれ、なにやってるんだろう? ジョー達がいた方では無さそうだけど……」
と、見ていたら、イヤホンにジョーの声が飛び込んできた。
「おい、リカ、リン、無事か? こっちはオレとセイが残ってる」
「ジョー! よかった。こっちはあたしとリンは無事。それ以外は全滅しちゃった。ゲン達も……やられたみたい。これからどうする?」
リカはなんとか落ち着きを取り戻し、ジョーからの通信に答えた。
「良かった。よし、すぐにこっちに合流してくれ。これからの事を決めよう」
「うん、わかった」
ジョーの指示に答えるリカの声は、何だか元気がなかった。ともかくわたし達は、タイラントドラゴンの後ろ側、少し離れたところにいるというジョー達攻撃チームのところに向かった。
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