004_04_襲撃続きの護衛旅#3
盾を構え、テラーフェザーを止めようと立ちはだかる盾の人Bだったけれど、相手はそれを見るやさっと向きを変え、彼をよけて走ってくる。
「やあっ!!」
わたしはそれに駆け寄り、剣を振り下ろす。けれどテラーフェザーは器用に斜め後ろに飛んでわたしの斬撃をかわすと、ジャンプして小さな翼の先端にある鋭い鉤爪を振り下ろしてきた。
「くっ……」
かろうじて剣で受け止めたものの、意外に重いその一撃にわたしは膝をつかされた。奴がもう一方の爪を振り上げるのが見える。わたしは夢中で躱そうとしたけれど、崩れた体勢では上手くいかず、ざくりと腕を裂かれてしまった。痛い。さらに追撃が来るかと思った次の瞬間、わたしの視界からテラーフェザーが消えた。
どこだろう、と探すと、盾の人Bに攻撃されているのを発見できた。奴はひょいひょいと避けていたけど、続けて横から槍の人が襲い掛かり、徐々に躱しきれなくなっている。時折黒い羽根が宙を舞った。二人から逃れようと、下がるテラーフェザーだけど、三人で囲めば、きっと行ける! そう思い、わたしはダッシュして包囲にかかる。
「えいっ!」
横からテラーフェザーに斬りつけるけど、掠っただけだった。奴はわたしの攻撃を横に飛んで躱して……そしてゴンと音をさせてそばに構えられていた盾にぶつかり、よろめいた。
盾の人Bはそれを狙った……わけじゃなさそうだ。あ、ラッキー、みたいな顔をしている。でも結果オーライだ。
「ガク! グッジョブ!」
嬉しそうに言いながら槍の人がフラフラしているテラーフェザーに槍を突き刺す。それで無事に倒すことができた。
「やったな! えっと……リンだっけ? ありがとう!」
「けがは大丈夫?」
槍の人――テルだっけ――が嬉しそうにハイタッチしてきて、盾の人B――ガクだっけ――は心配してくれた。無事に倒せたし、リカのパーティの二人ともちょっと近づけたし、これはこれでよかったな。
怪我の方は多分大丈夫だ。防具のおかげなのか、剣を持てないって程痛くもないし、血も止まったみたいだから、回復しなくてもよさそう。
「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」
わたしは笑い返す。暫く喜びに浸っていたところに、後ろから近づいてくる足音が聞こえてきた。
「あー、楽しかったぁ! やっぱこうじゃなくっちゃ! エルスドラゴンて結構強かったし!!」
大剣にべっとりついた血を拭いながら、セイが満足気な顔で戻ってきた。
「ちっ……余計な手間取らせやがって!」
ジョーはセイとは違って若干不機嫌だった。稼ぐことを考えると、なるべくダメージは受けない方がいいもんね。
「ダメージは言う程受けてないんだし、いいんじゃん? エルスドラゴンも十分狩れるってわかったし」
盾の人Aがぶっきらぼうに言った。
「ま、そうだな。
っと、ゲン、リカ、加勢ありがとな。やっぱ威力のある遠距離と盾あると戦いやすいわ」
ジョーはうなずき、笑顔で二人にお礼を言った。盾の人A――ゲンって言うらしい――は別に、と関心なさそうに言いつつ、ちょっと照れたような表情をしていた。
「どういたしまして。
やっぱりパーティ構成は重要だよねー。あたしは弓だからってのもあって気を付けてるけど、ジョーは強いからってちょっと冒険しすぎじゃない?
ま、その辺はこれからギルド内で調整していくんだと思うけど」
リカがちらっとこっちを見たような気がした。うーん、わたしも盾持った方がいいかな? ていうか剣って、空いてる手に盾持てるのがメリットだもんね。よし、次は絶対買おう。やっぱりジョーとセイの強さに依存してるところはあると思うし、わたしも役に立てるようになりたいもん。
「お前らもお疲れ。積み荷は無事か? 他の魔物に襲われなかった?」
「さっき逃がしたテラーフェザーがまた襲ってきたけど、僕らで倒したよ。とーぜん、積み荷に被害はないよ」
こっちの状況を心配するジョーに、テルが得意げに答えた。
「そっか。ありがとな。
じゃ、あと少し、スターリングまで気を抜かず進むぞ! 元の配置に戻って、再度警戒に当たってくれ」
「りょーかい!」
ジョーの一声で、わたしたちは再び積み荷の護衛に戻る。
「逃げたっていうスイフトフェザー、また襲ってきたりしないよね?」
「エルスドラゴンから逃げてただけみたいだし、それが倒された今わざわざこっちを襲ってくることもない……と思いたい」
わたしの呟きにカンがやや自信なさそうに答えた。
「ん……? わたし達、ひょっとしてまた利用された……?」
「結果的には逃げおおせた奴もいるけど、こっちに出くわしたのは偶然だし、自分たちだって倒される恐れがあるからどうだろうね。
まあ、もしそうだとしたら教授が喜びそうだけど」
それは確かに、と、いろんなことそっちのけでフェザー類に目を輝かせる教授の顔が浮かんだ。レポート書いてみようかな? でもカンの言う通りちょっと根拠が薄い気がする。倒すのに必死でスイフトフェザーがどういう行動をとってたかなんて見てなかったしなあ。レポートは無理か。
「……そういやスイフトフェザーは襲ってきたわけじゃなかったが、テラーフェザーは荷馬車狙いだったようだね。前にも襲われたって話だったし。
一体ここに何が載ってるんだか。おいしい肉でもあるのかね?」
言いながら荷台をのぞき込むカン。それを見つけたジョーが咎める。
「おい、何やってんだお前まで! 荷物壊すようなマネすんなよ!
大体、何運んでいるか詮索すんのはNGだろ! ちゃんと見張ってろよ!!」
「ああ、ごめん」
カンはちょっと肩をすくめて謝ると、残念そうにため息をついた。
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「あれ、街……だよね?」
丘の上に夕日に照らされた城壁が見えた。城壁の奥にオレンジ色の屋根と、とりどりのパステルカラーの壁が見える。ただ、ソリドゥスに比べるとこぢんまりしているかな。
「ええ。あれが貿易都市スターリングです。貿易都市だけあって、珍しいものが色々ありますよ。ソリドゥスとはまた別の活気がありますね」
わたしのつぶやきにカウフマンさんが弾んだ声で答えた。それを聞いてわたしもちょっとウキウキする。いつ着くのか分からないまま、いつ襲われるかびくびくしながら徐々に日が沈む平原を進むのにも疲れたところだから、目的地が見えて何だか安心した。
「お前ら、気ぃ抜くなよ! まだ着いたわけじゃないんだからな」
そんなわたしに――わたし以外もそうだったみたいだけど――すかさずジョーがぴしゃりと言った。そうだよね、まだ着いたわけじゃない。あとちょっとのところで襲われる、なんてよくある話だもん。
……だがしかし、いつも通りそんな定番の展開は起こらなかった。ま、その方がいいんだけど。
わたし達はそれ以降襲われることもなく、無事にスターリングの城門をくぐることができた。しばらく城門から伸びる大通りを進み、真ん中に遺跡で見たような天使の像が立つ円い形をした小さめの広場に着いたところで、荷馬車が停まった。
「ここまでの護衛、ありがとうございました。途中ピンチもありましたが、みなさんのおかげで積み荷も無事です。報酬のほうは協会を通じて全額振り込んでおきますので、ご確認下さい。
では、私は港の方へ向かいますが、協会や宿屋などがある、探検家向けのエリアは向こうですよ」
カウフマンさんは笑顔で頭を下げた。広場の真っ直ぐ先を手で示し、自分は別の方へ進んでいった。
「さて、じゃ探検家協会に行って、ギルド設立するか!」
カウフマンさんを見送った後、ジョーが少しだけ昂った声で言うと、みんな嬉しそうにうなずいた。
ジョーを先頭に大通りを進んでいく。たくさんの探検家とすれ違った。クレーディトと違って活気がある。通り沿いに沢山ある店には、どこか異国の香りがする武器や防具が並んでいる。
「前にセイが言ってた通り、何か変わったモノ、いっぱいあるね!」
「貿易都市だもん!
けどぶっちゃけあんま買う気にはならんくね? 何かイロモノっぽいの多いし」
確かに。でもここで言うのはまずかったと思う。店の人や、エスニックな格好のパーティからちょっと今睨まれた気がする。
「けど、色んな種類の武器があるんだねー。これなんだっけ? チャクラム? あ、銀騎士団の関……じゃない、カレンさんがもってたみたいな武器もある!
それにしてもこんなにあったら、どれ選んでいいか分からないなあ……」
今はこの剣でいいけど、買い替えるときとか迷いそうだな、と思って呟くと、リカがうなずいた。
「そうだよね。武器とか防具の詳しい情報って出回らないんだよね。だから初心者だと迷って、変なの買っちゃったりするよねー。
ギルド作って、ちょっと資金に余裕ができたらそういう検証もちゃんとやって、メンバーと情報共有していきたいよね、ジョー?」
そして、小首をかしげジョーの方を見る。
「そうだな。有効な武器とか、アプリとか、ナレッジは貯めないとな。そういう情報がこれから大きな武器になるからなー」
ジョーもうなずいた。そっか、ギルドに入るとそういう情報も手に入るんなら、すごく魅力だよね。みんなそういういい情報を持ってるとこに入りたいから、人が集まってますます強いギルドになれる、ってことかな。
「さて、と。着いたな。じゃ、さくっとギルド設立手続きを済ますか」
話しながら歩いていたらあっという間に探検家協会の前にやって来た。ギリシャ神殿のような作りの入り口が印象的な、白い壁の四角い建物だった。
各都市それぞれ、協会の建物って全部違うデザインなんだなあ。同じなのは街の中心にあることぐらいかな。
アーチ型の入り口から中に入り、ジョーを先頭にぞろぞろとカウンターに向かった。
「ギルドを設立したい」
一呼吸おいて、それでも少し強張った声でジョーが係員の女性に告げた。
お読みいただきありがとうございました。
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