004_02_襲撃続きの護衛旅#1
「ひーまー。魔物がいるのに襲ってこない、って意味わからんし。もう、襲ってこないなら休憩でよくね? どーせリカのキウイがちゃんと見張ってんでしょ?」
町から出て十歩もいかないうちに魔物に襲われる、というRPGの常識はいとも簡単に打ち破られ、時々魔物を見かけても全く襲って来ない、という状況にセイが口を尖らせた。
「ったくお前は……。戦闘になりゃホーラ消費するんだから、ヒマな方がいいんだよ。襲ってきた魔物倒したところで一銭の得にもならねーし、むしろ、保護対象のヤツとか攻撃してペナルティ払わされるリスクもあるし。魔物討伐の仕事以外は戦いたくねーな」
ジョーはやれやれ、といった感じでセイをたしなめた。やっぱり彼は魔物退治が好きなセイとは違って、あくまでも稼ぐため、な効率重視の人みたい。確かにダメージ受ければ受けるほど儲けは減るもんね。特に今回の護衛の仕事は前回のトライホーン退治より報酬が少ないし。
街道から離れたところに色々なドラゴンがいたけれど、大半はどうやら草を食べているようで、どれも襲ってはこなかった。たまに威嚇するようにこっちを見てくるのもいたけど、そんなときはカウフマンさんが進路を少し変え、なるべく近づかないように、刺激しないように進んでいった。
そんな状況に退屈してなのか、セイはひょいと荷馬車に乗り込み、ふちに腰かけた。
「セイ、馬車からすぐ降りてちゃんと見張れ。っていうか荷物に触るなよ! 壊したら弁償だって話だろ!」
ジョーにたしなめられても、セイは荷馬車に乗ったまま、不機嫌そうに足をブラブラさせていた。
「でもさ、それって言うだけで――」
「そうは言っても破壊不可能オブジェクトとかじゃなくて、リアルに壊してくんのがFXだろ。わかってんだろ、運営は隙あらばペナルティ取ろうとしてくんだよ! 油断すんなって!」
何か反論しようとしたセイを遮って、ジョーがぴしゃりと叱った。そっちが正解だろうな。ジョーは見た目ちょっとチャラそうな感じもするけど、実際は一番まじめだ。強いし、ゲームのこともよく知っているし、パーティメンバーのことも考えているし、頼りになるリーダーだと思う。わたしももっと頑張ろう。
口をとがらせ、渋々セイも荷馬車から降りた。
もう一度気を引き締めて進む。街道のギリギリまで深い草が生い茂り、見通しが悪い場所にやって来たところで、
「大変! 後ろからテラーフェザーの群れが来てて、追いつかれそう! 狩らなきゃ!
ジョー、手伝って!」
リカの緊張と高揚が入り混じった声がイヤホン越しに飛び込んできた。
リカの声に振り向くけど、荷馬車とリカ達が邪魔であまりよく見えない。うーん、砂ぼこりが上がっているような気がする、かなあ。よく分からないけど、いよいよバトル!?
「テラーフェザーかぁ……つまんないけど、いないよりマシ?
よぉっし、ジョー、行こ―ぜぃ!」
セイははりきって言うと、リカ達の方に向かって駆け出した。ジョーは、といえばその場を動かなかった。
「リカ! 他にも襲ってくるかもしれないから、セイにそっちにヘルプに行ってもらって、オレら残りの三人で前を見張る。テラーフェザー数体なら、それで全然余裕だろ?」
「まぢ? ジョー、来ないの?」
「ウソ? ジョー、来ないの?」
珍しく、セイとリカの不満げな声が重なった。セイはがっかりした表情でジョーの方を見ていたけど、ジョーは軽くああ、と答えただけで、周囲に警戒の視線を向けた。
「あ……うん、確かにジョーの言う通りだね。前から襲ってくる可能性もあると思うし、そうすると初心者だけじゃ不安だもんね。テラーフェザーだけっぽいし、セイが来てくれるんなら対応できるよ!
じゃ、ジョーは前の見張り、お願いねっ!!」
すぐに冷静なリカの声が返ってきた。セイは、と言えばしばらく不満そうにしていたけど、やがて渋々、
「うー。しゃーねーか。じゃ、ウチはサクッとテラーフェザー狩ってくる」
と、後の方に走っていった。
「カン、リンと同じ側に移ってくれね? こっち側、オレだけでいいから」
セイが抜けた分、荷馬車の左側はわたしだけになっていた。さすがに初心者一人ではまずい、ということみたいで、ジョーが配置を変えた。後ろからは誰かの掛け声やテラーフェザーの鳴き声、何かのぶつかる音などが聞こえてくる。大丈夫なのかな?
「加勢、しなくていいのかな? みんなで後ろに行っちゃったらダメ、っていうのも分かるけど……」
後ろの人達が負けても後ろの荷馬車が襲われちゃうわけだし、と不安になってジョーに尋ねる。
「大丈夫だろ。リカ達はバランスいいパーティで、結構強いし、セイもいるしな。それよりこっちが空いちまったら襲われたとき終わりだから、今はしっかり見張っとけって」
ジョーは力強く答えた。それを聞いてちょっと安心した。そうだよね。わたしが今すべきことはこっちの荷馬車が襲われないように警戒、警戒、だ。
ん……? 今なんか、草がざわっと動いた気がする。
「あの辺、何か動いたような気がする。あ……あれ、スイフトフェザー!?」
草の隙間を緑色の小さな鳥っぽいようなドラゴンっぽいような生き物が走っている。しかも、一匹じゃない。
「二……三……まだいる……! スイフトフェザーの群れ?」
「ジョー、更にまずい。スイフトフェザーの後ろ……エルスドラゴンだ。
……スイフトフェザーはエルスドラゴンから逃げてるんだな……。厄介なの引き連れてきたもんだ」
苦々しく見つめているカンの視線の先を見てみる。結構離れたところに、時折草の上に緑色の頭と背中が動いているような気がする。スイフトフェザーよりもだいぶ大きなドラゴンだ。
「エルスドラゴンて強いの? 保護対象じゃない?」
「チッ……スイフトフェザーだけならともかくエルスドラゴンかよ……。グループで来られると面倒なんだよな。
リン、カン、迎え撃つぞ! お前らはスイフトフェザーメインで頼む!
リカ、セイ、聞こえるか! まずいことになった。そっちは上手く切り上げて、こっち来てくれ!」
ジョーから直接わたしの質問に対する答えはなかったけれど、彼の指示からするとエルスドラゴンは倒していいけど、わたしでは相手にできないってことになる。
「OK!」
「了解」
わたしは元気よく――何となく嫌な気分を振り払うために頑張ってそうしているんだけど――、カンは渋々といった感じで答え、荷馬車から少し離れた位置で武器を構える。
少し遅れてリカとセイの威勢のいいOKが返ってきた。きっとすぐこっちに加勢に来てくれるはず。
それまで何とかしなきゃ!
ここまで読んで頂きありがとうございます。スイフトフェザーは大活躍です。今後も登場します。別に、魔物を考えるのが面倒だからではありません。
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