004_01_先が不安な護衛旅
集合場所の門に行くと、ジョーとカンを見つけることができた。セイは相変わらずまだいないみたいだ。
その代わり、セイがいつもいる場所――ジョーのすぐ横――に、セミロングのアッシュグリーンの髪をハーフアップにした、スレンダーな女の子がいた。赤のホルターネックのスリットの入ったミニ丈ワンピースに白いチェストガード、それにショートブーツという、すらりとした手足を強調する服を着ている。そんな彼女は親しげにジョーと話していた。
そこからつかず離れず、という位置に、似たような全身鎧で身を固めた、そろって全員割と大人しそうな感じの男性が三人、少し不満そうに彼女とジョーの様子を見ている。多分このグループが、リカとその親衛隊なんだろうな。
この雰囲気、何となく割り込みづらいけど、そんなこと言ってても仕方ない。
「あ、ジョー、カン。お待たせ。それから、ええと……初めまして。リンて言います」
わたしはあいさつしつつ、その輪に割って入る。
「はじめまして。あたしはリカ。リンのこと、始めたばっかりだけど活躍してる、ってジョーから聞いたよー。
あ、その装備、すっごいかわいーよ! もう装備一式買えたなんて、がんばったんだね!
今日は……あ、ギルドできるからこれからもよろしく、だね!
うちは結構ハードな仕事とかいっぱいチャレンジしてく予定だから、初心者だときついかもだけど、一緒にがんばろーね。わかんないことあったら、何でも聞いてね!」
リカはずっとニコニコしながらそう言って、右手を差し出した。ちょっと戸惑ったけれど、わたしは笑顔でその手を握り返す。なんだ、セイが嫌ってたからもっとイヤな感じなのかなって思ってたけど、笑顔で気さくに話してくれるし、気遣ってくれるし、いい子じゃん。
でもセイにしてみたら、自分の目の前で彼氏と親し気にされてるわけだから、イライラしちゃうか。そんなことを考えていたら、セイがやってきた。
「遅いぞ! ダッシュ!!」
ジョーが叫ぶ。何だかデジャヴだ。
「あー、リン、防具買ったんだー! いい感じじゃん」
「うん。かわいいのあったし、お金も足りたから買っちゃった」
答えると、セイは笑った。そしてリカの事はスルーして、ジョーの方を見た。
「で、荷物運びはまだ始まらないカンジ? 走ってソンしたし」
「ったく、始まってないからつっても遅刻は遅刻だろ。でも、そろそろのハズだけどな……」
ジョーが時計塔の方を見たところで、ターバンのような大きな帽子をかぶった、恰幅の良い商人ぽい男がやって来た。
「皆さん、スターリングまでの護衛を引き受けて頂き、有難うございます。この隊商の責任者のカウフマンです。宜しくお願い致します」
カウフマン、と名乗った男はそう言って頭を下げると、わたしたちを門の外に連れ出した。そこには二台の荷馬車が並んでいた。まもなく、説明が始まった。
「この二台の荷馬車の護衛をお願い致します。積み荷は高価なものばかりですから、しっかり護衛して下さい。なお積み荷に被害が出た場合は、皆さんに弁償して頂きます。
後は最近経路上でテラーフェザーに襲われる被害が立て続けにありましたから、皆さん警戒を怠らないようにして下さいよ!」
「ねぇ、コレ魔物出るってフラグだよねぇ? けどテラーフェザーかあ」
襲われた、というところでセイの目が輝いたけれど、相手がテラーフェザーということで少しトーンダウンした。
「さあな。全く魔物が出なかったこともあるらしいからなー。
さて、リカ、どうする? ま、オレ的にはこっちの四人で前方、お前ら四人で後方ってのがいいと思うけど。で、後ろ中心にお前のペットで見張り」
ジョーはリカの方を見た。
「ん……そーだね。そっち、初心者二人連れだもんね。あたし達の方がバランス良さそうだし。よぉっし、任せといて!
キウイ! 出ておいで!」
リカは薄い胸を張ってジョーに答えた。そして何かボールのようなものを取り出し、投げた。もくもくと出てきた黒い煙の中から、小さなコウモリのような羽根の生えた、丸っこくてふわふわした茶色の猫が出てきて、リカの顔の周りをぱたぱたと飛びまわる。魔法使いの使い魔にいそうな、ファンタジー感いっぱいのかわいいふっわふわ動物だ。
「わー、かわいい! これがペット? いいなぁ~!」
わたしは思わず手を伸ばしたんだけど、キウイはわたしの手をよけてついっと飛んでいってしまった。わたしは行き場のなくなった手をそっと引っ込める。
「え、何、猫? そんなのあるんだ。しかしつくづく世界観が分からんな……」
カンは突然現れた羽根つきの猫を驚いた様子でじっと見た。リカとパーティを組んだことのある人は見たことがあるらしく、特に驚いていない。っていうか、これだから初心者は、って顔でわたし達を見ていた。
「でもかわいいだけじゃないんだよ! キウイは魔物がいたら教えてくれるんだー!
あと、ほら、あたし弓使いじゃん? 矢がどこに飛んだか、外したときは次はどのあたり狙えばいいかとかも教えてくれるんだよ! ね、すっごい便利でしょ?」
リカは得意げな笑顔で教えてくれた。確かにすごく便利だ! クロスボウの時、どこ狙ったらいいか分かんなかったもん。そっか、そうやってお金を掛ければ遠距離武器も上手く使えるんだ。
「っていうか、遠距離武器使うんだったら、ペットは連れなきゃだよ!
ちょっとお高いケド、あたし達と一緒に頑張ってたらすぐ買えるようになるから、頑張ろうね!」」
リカはカンの肩を軽くとん、と叩き、小首をかしげにっこり微笑んだ。あ、ジョーには特に、だとは思うけど、誰にでも割とこういう感じなんだ。キレイ系の子がこんな気軽に話してくれたら、勘違いしちゃう人も多いだろうな。
「へぇ、索敵と着弾位置確認……機能を絞ってパッケージ化してくれてるのか。役に立ちそうだし、かわいいし、羨ましいね」
でも、カンは勘違いしなかったみたいだ。リカの態度は全く無視して、顎に手を当てじっと観察するようにキウイを見ながら淡々と、特に後半は全く心のこもってない調子で言った。そんな態度にリカは顔をしかめた。キウイも彼女と同じ顔をしているような気がした。
「さて、皆さん準備ができたようですね。それではそろそろ、出発しましょうか」
カウフマンさんの一言が何だか微妙な空気を振り払った。FXのNPCって何だかすごく良いタイミングで話してくれるなあ。もしかして最新のAIって空気読んでくれるのかな? それとも彼にも中の人がいるのかな?
彼は前の荷馬車に乗り込むと、馬車馬にムチをふるった。ゆっくりと荷馬車が動き出し、わたしたちはその前後左右を固めた。その後もう一台の馬車も動き出し、同じようにリカのパーティが護衛についていく。
ソリドゥスともお別れだ。ソリドゥス南の遺跡とあの女の子の事は気になるけど、未だにメンテナンスのために遺跡は封鎖されてるみたいだから、これ以上ここにいても調べられない。だからやっぱり、みんなと次の街でギルドを作ること――あ、その前にまずは荷物運びか――に集中しよう。
襲われるかもってのもあるし、パーティ内にもちょっと不穏な空気があるけど、頑張るぞ!
読了ありがとうございます。新章スタートです。新たな仲間も加わりました。
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