表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第三章: とつぜん遺跡探検!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/118

003_07_ビッド教授のいいオファー

「ようこそ研究都市クレーディトへ」


 ソリドゥスの探検家協会でゲート――ゲームでよく見かける魔法陣のような、床から立ち上る光の柱――に立つと、一瞬目の前が真っ暗になり、すこしふわっとするような感覚があった。再び視界が開けると、ソリドゥスの人と髪の色だけが違う係員さんがやって来て、わたしに新しい街に来た時の定番セリフを言ってくれた。


 ナビアプリの指示に従って研究所を目指し、クレーディトの大通りを進む。中心の広場から放射線状に広がるソリドゥスとは違って、ここは碁盤目状に作られているみたい。けど街の中心の大通りだって言うのに、ソリドゥスに比べると人通りはかなりまばらで寂しい感じ。あんまり人気のない街なのかな? 


 本だったりよく分からない発明品というかガラクタを売る店を横目に進んでいくと、赤レンガでできた四角い重厚な建物が見えてきた。目的地の研究所だ。中世ヨーロッパ風、っていうよりは西洋風……なんか文明開化、みたいな感じの建物だった。そんなレトロモダンなおしゃれ感あふれる建物の中に入り、すぐ横の受付でビッド教授と約束があることを告げると案内してもらえた。


「やあ、早速来てくれて有難う。さ、どうぞ。座って」


 そういってビッド教授は目を輝かせた。教授に促されるまま、革張りのソファーに腰を下ろす。


「こんにちは、教授。話っていっても大したことは知らないんですけど……」


「良いよ、答えられる範囲で僕の質問に答えてくれればそれで。早速だが――」


 教授の問いに答える形で、わたしはトライホーンと戦った時のスイフトフェザーの行動を話した。


 いつの間にか周りをスイフトフェザーに囲まれていて、逃げられなくなったこと。


 逃げようとしたら、周りを囲ってたやつにトライホーンの前にぽーんと突き飛ばされて戦わされたこと。


 わたし達が倒したトライホーンの死骸に奴らが群がって、ガツガツ食べてたこと。


「ほう、スイフトフェザーは探検家を利用してトライホーンドラゴンを捕食した、と。

 ふぅむ、やはり面白いね! 彼らの知能は相当高いのだろうね。いや、君は運がいいよ。こういう彼らの面白い行動を目の当りにできて!」


 わたしの話に、教授は満面の笑みで言った。


「面白くなんてないですよ。トライホーン退治、大変だったんですよ! それを魔物に利用されるなんて」


 思い出したらイライラしてきた。なんかやっぱり、教授、なんて人種とは感性が合わない気がするな。


「全く困ったものだよ! 誰も彼も“魔物”退治だ。 皆、仮にも【探検家】を名乗っているのに、何かを見つけようって気が全くないんだ! 野生生物の行動だって重要な情報なのに!」


 教授はそんな風に苦言を呈した。でもそれって当然じゃない? だって魔物退治が一番儲かる仕事なんでしょ? 魔物の行動なんて攻撃してくるか、どんな攻撃か、倒すために必要なところしか見ない。だから野生生物の行動が重要だなんて……。


 ……あれ? “魔物”退治? そういえば仕事のジャンルはたしか「有害生物の駆除」だった気がする。そうだ……探検家協会では魔物とは言っていなかったんじゃないかな。それに倒すこと自体結構制限がかかってて、基本的に倒す対象じゃなかった。


 そっか、すっかり忘れてたけどゲームの目的はこの世界を解き明かすってことなんだから、いろんな生物の生態を調べる、っていうほうが目的にかなった行動なのかも。魔物退治の方がRPGっぽいけど。


「そうですね、今度からそういう面白い行動とかも、気を付けて見てみます。何かあったら、レポートしますね」


「ああ、わかってくれたならいいんだ。まあ、今日は話してくれてありがとう。レポートの詳細が聞けて楽しかったよ」


 わたしが言うと、教授は満足気に笑った。


「いえ、こちらこそ」


 わたしは頭を下げて、ソファーから立ち上がる。すると教授ははっと何かを思い出したらしく、慌ててわたしを引き留めた。


「あ、そうだ。今日の情報提供料として60ホーラ払っておいたから、帰りに探検家協会で受け取ってくれ給え」


「へっ!?」


 教授に告げられた数字に思わず変な声で叫んでしまった。だってあれだけ苦労したトライホーンドラゴン退治よりもずっと報酬が上なんだよ!? っていうかあの時の3倍!?


「ああああ、ありがとうございます!!」


 教授に震える声でお礼を言って、そそくさと研究所を出る。やった、これで行雄の勧誘に必要な100ホーラ稼ぐのも後ちょっとだ! それにフィアナフィンの防具も余裕だし、傷薬も買える! ばっちり決めた格好のセイ達の隣で村人姿ってのも何か肩身が狭いなって思ってたけど、これで大丈夫だ! ホクホクしながらスキップしていたら、


「よぉし、完成!」


 という朗らかな声がして、直後に周りの人々のわーっという歓声と拍手が聞こえてきた。何だろう、と思って声のする方を見ると、みんなの視線の中心で脚立に乗りペンキの缶と刷毛を手にした女性が満足気に汗を拭っている。その後ろにある建物の壁に、彼女がたった今書き終えたらしき文字が見える。ええと……黒鳥亭?


「設立まで、大変だったよねー。長かったよね、ホント」


「拠点もできたし、これから盛り上げていこうぜ!」


「おう!」


 そんな声が建物の周りに集まった十数人の男女の間から聞こえてきた。


「ここって……もしかして新しいギルド?」


 楽しそうな雰囲気につられてわたしはその人だかりの方に向かい、一番近くにいた、ローブをまとったわたしと同い年くらいで、天然パーマのかかったショートヘアの人懐っこい感じの女性に声を掛けた。


「あ、うん、そうだよ! ようやく設立できたから、今日はみんなで拠点づくりだったんだ。ほらあの看板、あたしが作ったんだよ!」


 ニコニコしながら、ちょっと興奮気味に、彼女はRPGの街でよく見るような、軒先に吊り下げられた木製の看板を指さした。そこには赤いくちばしの黒い鳥が描かれており、その下に黒鳥亭、と書かれていた。


「わー、おめでとう! すごい、わたし達も設立に向けて頑張っているところなんだ! いいなあ、拠点作りとか楽しそう!!」


「そうなんだ! うん、とっても楽しいよ! 素敵なギルドになるといいね! お互い、頑張ろう!!」


 そう言って、彼女は楽しそうに笑った。何か体育祭とか文化祭とかの行事を思い出す。みんなでワイワイ何か作るのってすごく楽しくて大好き。わたし達がどんなギルドを作るのか、とっても楽しみだな。


 何だかこっちまで楽しい気分になって、探検家協会への足取りもますます軽くなった。


---


「ビッド教授から謝礼として60ホーラです。ご確認下さい」


 探検家協会で報酬を受け取ると、確かに60ホーラ振り込まれていた。しかしたったあれだけの話でトライホーンドラゴン退治の3倍の報酬なんて。世の中何がお金になるのか分からないな。これからはもっと気を付けて見てみようかなあ。


 さて、報酬も入ったし買い物に行かなくちゃ。わたしは急いでゲートに向かった。帰りの分もしっかり教授が払ってくれているから安心、安心。



「いらっしゃいませ~」


 ソリドゥスの大通りの方へ出て、前回は見てるだけだった店に飛び込むと、ショップ店員、って感じの特徴的な女性の声が元気よく迎えてくれた。


 店内にディスプレイされているのは、割と現代風でポップな軽装中心のコーディネートだ。セイも防御力はよくわからないから、見た目と動きやすさ、って言ってたし、軽装でも大丈夫だよね。あ、試着OKって書いてある。よし。


「試着お願いしまーす!」


 丈夫そうな革のショルダーガードに胸当て、ショートパンツと革のロングブーツのセットという、軽装の冒険者って感じのを試着してみる。うん、いいカンジ。これで村人も駆け出し冒険者も卒業だ!


「お客様、よくお似合いですよ!

 あと、こちらのアイテムポーチもいかがですか? 今の物より沢山入りますし、そちらの服と合うと思いますよ!」


 褒めて、更に関連商品を持ってくるなんて商売上手な店員さんだ。でも確かに今のバッグよりこっちの方が断然かわいい。それにたくさん入るし、傷薬のビンがきっちり収まるような仕切りもあるから、整理もしやすそう。


 お金もあるし、気に入ったし、買っちゃえ!


「合計25ホーラです! お買い上げありがとうございます!! またお越し下さい」


 さて、装備も整ったし、後は傷薬も買って帰ろうっと。


 準備万端、次のログインが楽しみだな!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ