002_05_必要経費がキツ過ぎる
さて、レンタル品を返して、武器を売って、傷薬を買って、後は防具を買おうっと。
早速レンタルショップに行くと、借りたときと同じNPCのお姉さんが迎えてくれた。斧を返すと、彼女はそれを念入りに点検する。しばらくして、彼女はにこりと微笑んだ。
「……はい。通常使用の範囲内ですので、追加料金などはありません。
またのご利用をお待ちしております」
良かった。いちゃもんつけられてホーラをむしり取られたらどうしようかと思った。……ん? 何かわたし、ずいぶんうがった目でこのゲームを見てる気がする。やだな、すっかり毒されてる。
で、次は武器屋に向かう。すると、カウンターに見覚えのある村人がいた。カンだ。
「ええと……麻酔弾一発か、10ホーラだな」
カウンターの店主らしきひげ面の恰幅の良いおっちゃんがそう告げた。
「え? 一発で10ホーラ? うそ、めっちゃ高くない? 報酬の半分じゃん!」
あまりの値段に思わず驚きを声に出してしまった。こんなにお金がかかるんだったら、撃ちたくないっていうのも納得。防具も村人の服で我慢するしかないよね。
彼はわたしの声に振り向くと、怪訝な顔をした。
「報酬の半分? ジョーも随分渋――いや、何でもない。
あー、高いのはこれが特殊弾だからさ。まあトータルで考えればそれ程高いってわけでもないと思うけど」
何か言いかけたのを飲み込むと、彼は早口に答えた。
「でも、トライホーンにダメージ、ほとんど与えられなかったし。どうして銃なんか使ってるの?」
「攻撃食らうのは嫌だし、返り血を浴びるのも嫌だし。でも弓はそもそも引くのが辛いし技術がいるし、クロスボウはすぐには撃てないし。そんな感じの消去法だよ。
大体、俺はジョー達と違って駆除の仕事は滅多にしないから威力が低かろうと問題ない。ましてや大型生物なんて。いつもは遭遇しても逃げてるしね」
わたしが聞くと、彼はそんな情けない理由をしれっと答えた。ていうか逃げてるんだ……。これ、セイが聞いたらすごい勢いで馬鹿にするんだろうな。
「じゃあ、普段は何してるの?」
「探検とか採集とかが多いかな」
カンはセイが言ってた儲からない仕事がメインみたいだ。撃ったり、ダメージを受けたりしなければホーラは減らないからいいのかな?
「ところで、武器の売却に来たんじゃないのかい? ログアウトまで、あまり時間はないと思うけど」
彼は会話を打ち切りたそうに言った。あんまり話したくなかったのかな。確かに彼の言う通り、そんなに時間があるわけじゃないけど。
「あ……そうだった。武器売らなきゃだし、後まだ傷薬とか買わなきゃだった。ありがとう。じゃあ、またね」
わたしが手を振ると、彼は軽く会釈して足早に去っていった。何かよそよそしいんだよね。もうちょっとフレンドリーに接してくれてもいいと思うんだけどな。
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「おう、これだな。どうすんだい? ま、盾の方は使えねえから素材として引き取りだが、剣と槍はどうする? 売るかい、それともお嬢ちゃんが使うかい?」
武器屋のおっちゃんに荷物の伝票を見せると、彼は奥から二本の槍と剣、それと壊れた盾を取り出してカウンターに並べた。槍は使ったことないし、剣の方がいいんだけど、大型の魔物にはダメージ期待できないって話だったからどうしよう。とりあえず次の仕事には使えるかな?
「ええと……テラーフェザーを倒したいんですけど、その剣でいけます?」
「おいおい、何を使うにしてもお嬢ちゃんに技量がないと話にならねぇぜ?」
おっちゃんは笑った。それはごもっともだけど、聞いてるのはそういう事じゃなくて、と彼に少し冷たい視線を向ける。すると彼は気まずさを払うようにごほん、と咳払いして、
「ま、あいつは素早いが、固い鱗もねえから、取り回しの良い剣との相性は良いだろうな」
そう答えてくれた。とりあえず次の仕事には使えそうだ。よかった。
「じゃあ、それはわたしが使って、後の槍2本と壊れた盾は買取をお願いします」
「おう! 盾が1ホーラ、槍は2本で8ホーラだな」
売値が高いのか安いのかわからないけれど、タダで手に入れたものだからまあいいや。
「剣はメンテナンスしておいた方がいいぜ。このままだと、攻撃力が落ちるし、最悪破損に繋がることもあるからな! 戦ってる最中に武器破損なんて笑えねえぜ! 1ホーラだが、どうする?」
「じゃあ、お願いします」
何か脅してサービスの押し売りしようとしてるような気もするけど、武器売ったお金も入るしいいか。いきなりぶっ壊れるのも世知辛いこのゲームならありそうだし。
「じゃ、預かっておくぜ。終わったら宿屋に届けておく、でいいか?」
それで問題は無いので、わたしはうなずいた。けど、武器を買ったらメンテナンスが必要なのか。一回買ったらそれでもうお金いらないってわけじゃないんだ。借りるのと買うの、どっちがいいんだろう? なんだか難しい。
さて、武器はゲットしたし次は傷薬だ。わたしは道具屋に向かった。道具屋さんはこれと言って特徴のないお兄さんだった。
「傷薬ですね? 1本10ホーラです。何本ご入用ですか?」
高っ! 今何ホーラあるんだっけ。慌ててステータス画面を開くと45ホーラと表示されていた。まあまああるな。4本買えるけど、残り5ホーラじゃ絶対少ないし、3本にしてもちょっと心もとない感じ。次の仕事の契約金とかのことを考えたら、ホーラを残しておいた方がいいよね。
でも傷薬がこんな値段だったら防具は買えなそうだ。傷薬より防具の方が高そうだし。防具優先で傷薬はやめとく? でもジョーは必ず補充しろ、できれば多めに買っとけ、って言ってたよね。
「じゃ、2本お願いします」
「20ホーラです。ありがとうございました」
結局、使った分2本を補充して、わたしは道具屋を後にした。
買えないかもしれないけど、まずは防具の値段がどれくらいか見ておこう。そう思い、大通りに出る。大通りの両サイドにはたくさんの店が並んでいて、色々な装備品が展示されている。中世ヨーロッパ風――っていうかそんなイメージのRPG風――の鎧兜から、現代風のポップな服まで節操がない感じ。セイの言っていた通り、普段よく買い物するようなショップもちらほらあった。
ファストファッション系だと上から下まで揃えて10ホーラ前後だ。傷薬より安いのもあるって何か不思議。でもやっぱりもうちょっとかわいいのがいいし、材質もなんだかちょっと心元ない感じだ。
わたしの好きな――だけどちょっと高いからいつもあんまり買えない――フィアナフィンは最低15ホーラくらいかあ。手持ちで買えないこともないけど、買っちゃうとやっぱり残りのホーラが不安だ。宿代とか次の仕事の依頼料とか、いくらいるか分からないし、防具はまだレンタルできるし、今回はやめとこう。
大丈夫、頑張って魔物倒せばすぐに買える。傷薬がやたら高いことが分かったから、なるべく攻撃されないようにして節約しよう。そうしたらもっと稼げるはず!
今日のところはこれでログアウト、ということで、わたしは宿屋に向かった。宿屋にはわたしの他にも人がいて、受付は並んで少し待つことになった。待っている間、ふと壁に貼ってあるポスターが目に入った。
――遺跡に眠る謎に挑戦しませんか?
森の中に埋もれた古代の建物の絵に、どん、と大きくそんな文字が躍っていた。遺跡を探検したらこの世界の謎、とかが何か分かったりするのかな? そういうイベントはありそうだよね。行ってみたいな。
けどセイ達は探検は儲からないからやらないって言ってたし、今は稼がなきゃいけない時だって話だから、一緒に行ってくれないだろうなあ……。遺跡にいる魔物退治、とかそんな仕事があったらいいのに。っていうか、普通はそういうところにこそ、ボス的な強い魔物っているんじゃないのかなあ?
「次の方、どうぞ」
そんなことを考えていたら、宿屋のおかみさんに呼ばれた。ようやくわたしの番が回ってきた。
「お疲れ様でした。ご宿泊は5ホーラです」
うあ、この前より値上がりしてる。ダメージによって宿泊費変わるんだっけ。実感はないんだけど、戦った時のダメージが残ってるってことなのかな。とはいえ拒否することもできないから、仕方なく5ホーラを支払い、部屋に行ってベッドにもぐり込む。
目が覚めると、現実に帰っていた。
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