ずっといっしょ
前々回と前回のお話は、サヤ視点で進んでいきました。
今回は少し時間は戻って、関西旅行から帰ってきたあとの、いつも通りのシン視点でのお話に戻ります。
シンとサヤは仲直りできるのか。
結局、旅行から帰ってからのこと、きちんと仲直りができていない。
あの帰り道は地獄だったな…サトシも寝てるし。
何か話しかけようかなとか、さっきはごめんねとか、一言いえば済むことなのに、タイミングを失うと逆に何も言えなくなってしまうんだ。
まぁでも僕がやっぱり悪かったよな…急なこととはいえ、サヤちゃんを傷つけたり、気分悪くするようなこと言ってしまったんだから。僕の悪いクセなんだよな…思ったことがすぐ口に出てしまうというか、ごまかせないというか。
そういえば、今までもサヤちゃんを怒らせてしまった時って、だいたいが僕が原因な気もするよな…
去年のクリスマスの時に、どっちつかずの態度を取って怒らせてしまったり。
ユキちゃんのカミングアウトを聞いた時に、甘えてくるユキちゃんを止めれなくて、その現場を見られてしまった時だったり。
あぁ〜、僕はサヤちゃんのこと怒らせようとして、したわけじゃないんだけどな…でも、結局それが嫌な気分にさせてしまったなら、僕がサヤちゃんの立場に立って、考えてあげれてなかったからなのかもしれない。
例えば、サヤちゃんの元カレって言ってた、エイイチだっけ。もしアイツとサヤちゃんが、僕の目の前でイチャついてるのを見てしまったら。サヤちゃんが、アイツのことをまだ少し引きずっていたりしたら。あーだめだ、こんなあるかどうかもわからないことを考えてモヤモヤしてたら、余計におかしくなる。
いつもならこんな時の赤ちょうちん…じゃないや、サトシなんだけど。コウヘイくんに一度相談してみようかな。ある日、ゴミ出しの仕事が終わったあと、コウヘイくんに声をかけてみた。
「コウヘイくんは、もし仲直りしたい人がいる場合って、どうする?」
「サヤさんと、まだ仲直りしてないんすか?」
「あ…いやまぁ、そうなんだけど。一度タイミング失うと、余計に言えなくなっちゃって」
「うーん…あっ、来週の金曜日に、静かめのライブがあるんですけどね」
◇◇
これはなかなかすごい提案だった。ただ、この短期間で出来るんだろうか。いや、やるしかない。コウヘイくんにチケットはすでに貰った。サトシにサヤちゃんにそれとなく伝えてくれるように頼む。
そういえば、サヤちゃんは、幼稚園の頃から可愛かったな。僕がいつも教室のすみっこでひとりぼっちでいる時も、サヤちゃんはいつも輝いてた。確か話すきっかけは、サヤちゃんが転んで泣いてた時だったかな。たぶんいつも元気だったサヤちゃんがすごく泣いてたから、クラスのみんなもびっくりして声をかけれなかったみたいで。
僕なんかが声かけても嫌なんじゃないかな、って思ったけど、泣いてるのがとても可哀想だったから。
でも、それからなんか妙にサヤちゃんが声をかけてくれることが増えた気がしたんだけど、なんというか圧が凄いというか。だから、サヤちゃんの心の声の大好きが聞こえた時は、もう飛び上がるくらい嬉しくて、思わずそれに答えてしまってたんだよね。
そのせいでサヤちゃんに怖がられてしまって、去年の秋に再会するまで、会うこともなかったんだよな。
久しぶりに再会したサヤちゃんは、相変わらず可愛くて。それに大人の女性になってた。あの時のファミレスでご飯食べに行ったとき、楽しかったよな〜。何を話すでもないんだけど、サヤちゃんが楽しそうに話す姿とか、表情とか、それを見てるだけで満足ていうか。
と、サヤちゃんからメールが来た。
『シンくん、渡したいものってなーに?』
慌ててすぐに返事をする。ライブのチケットを渡したいことを伝えると、今サヤちゃんは部屋にいるみたいなので、急いで部屋にいく。
緊張して何を言ったか覚えてないんだけど、なんとかチケットは渡せた。とりあえず第一段階はクリアだ。すぐ部屋を出て、次の準備を進めなければ。
コウヘイくんとユキちゃんにも、お願いしないといけないから、できれば今日に仕上げてしまわないとな…
サヤちゃんにチケットを渡した翌日。
「コウヘイくん、これ…」
「見ていいすか…。うん、うん。いや、すごくいいと思います。シンさんらしいというか。少し時間もらっていいすか。なるべく早く仕上げるっす」
「コウヘイくん、お願いします」
こういう時のコウヘイくんは、すごく頼りになる。もう全てをゆだねて待った。
その日の晩に、コウヘイくんから連絡をもらった。
「もしかして、もう出来たの!?」
「あー、ちょっとだいぶシンプルな感じなんですけど…でも、あえてシンプルなほうが、伝わるのかなと思って。ちょっと聞いてもらっていいすか」
◇
僕は泣いていた。
悲しくてじゃなく、
寂しくてでもなく、
あぁ、きっと。僕はサヤちゃんのこと、めちゃくちゃ好きなんだ。
こんな僕のことを好きになってくれて。そんなサヤちゃんの気持ちに、僕は答えなくちゃ。
「いけそうすか…?」
「コウヘイくんありがとうね。頑張ってみる!」
それから数日後。
コウヘイくんのライブ当日になった。サヤちゃんは仕事で早めに上がってくれるみたいだった。朝からコウヘイくんとユキちゃんと打ち合わせをするために、バタバタした。
お昼くらいにサヤちゃんからメールが来ていた。おつかれさまと、今日のライブ楽しみにしてること、を簡単に伝えた。
夕方、サヤちゃんと商店街で待ち合わせて、ライブハウスに向かう。
「サヤちゃん、おつかれさま。ごめんね、仕事終わって疲れてるのに、そのままで」
「ううん、ううん。大丈夫だよ、明日は休みだし」
「今日はバンド演奏でなく、前みたいに優しめの弾き語りとか、音楽だけの演奏とかがメインのライブみたいだよ」
「へぇ〜、そうなんだね。金曜日だから、飲み客を意識してのチョイスなのかな〜?まぁゆったりとした音楽聴きながらのほうがいいかも。ガンガンの演奏だと疲れちゃうもんね」
ライブハウスについた。
入り口に書いてあるコウヘイくんとユキちゃんの音楽ユニット、Forest Snowの説明をした。そうそう、今回はコウヘイくんの弾き語りに加えて、ユキちゃんがカホンを叩くのだ。
森永の森と、ユキちゃんの雪、というすごく単純な意味だった。はじめはKYコンビという名前になりそうだったのをさすがに止めた。
「どうも〜、Forest Snowでーす♪」
ユキちゃんが入り口の近くで出迎えてくれた。
「サヤさん、シンさん、おつかれっす!今日はありがとうございます」
「コ、コウヘイくんおつかれさまー、きょ、今日は頑張ってね!」
「はい!がんばりま…頑張るっす!」
もうすでに心臓がドキドキしてきた。ライブが始まった。今日のライブはコウヘイくんとユキちゃんのユニット含めて3組の出演で、コウヘイくんの出番はラストだ。はじめの二組の演奏は申し訳ないんだけど聞いてる余裕がなかった。あっという間にForest Snowの出番になった。何曲かカバーを演奏して、終わりの方にオリジナルを演奏する。
「2人とも凄いね〜!ユキちゃんもカホンすごく上手くなってる!」
「そ、そ、そ、そうだね〜。楽しいね〜」
そろそろだ。
「シンくん?大丈夫?」
「あ、と、と、と、と、トイレに行ってこようかなー、ごめんね、すぐに行ってくるー!」
サヤちゃんに、さりげなく行って席を立つ。たぶんバレていないと思う。
あー、やばいなー。めちゃくちゃ緊張するな…
まぁでも。いっぱい練習したし。大丈夫、大丈夫。
コウヘイくんが【Happy Chain】を演奏したあとに、最後の紹介をする。
「えー。次で最後の曲になるんですけど、急きょサプライズゲストを呼んでいます」
サプライズゲストとか、なんか大層に言わないでくれよな…
「では、どうぞ〜!」
ユキちゃんが呼ぶ。
ドキドキ。ドキドキ。
ステージに出ていく。
「あ。こ、こ、こんばんは。松岡 心です」
あ、フルネームで紹介しちゃった。
「シ、シンくん!!?」
当然のことなんだけど、サヤちゃんが驚いている。サヤちゃんには秘密にしていたからだ。ちゃんと、伝えないと。
「えーと、今回こういう公開処刑…じゃなかった、出させてもらったのは、僕の気持ちを伝えたかったからです」
落ち着け、落ち着け。
「僕がいつも想っている人。サヤちゃんに聞いてほしいと思って。伝えたいと思って、詩を書きました。聞いてください」
コウヘイくんがギターを鳴らす。
「ずっといっしょ」
ほんの些細なことだったり C G
言葉の行き違いでたまに Am Em
言い合いになってしまったり C Am7
いやな言い方をしてしまったり Dm7 G7
そんなこと言いたいわけじゃなくて F G
ほんとはお互い大好きだから Em Aadd9
素直な気持ちになれば F G
またほら 仲直りできるよね F G
きみのことずっと思ってるよ C D
朝も昼も夜もどんなときも Bm Em
きみのこと思わない時はない Am Bm
ほら いまこの瞬間も C D
パンケーキを喜んでくれるきみ Bb C
ちょっとしたプレゼントも喜んでくれる G A
いつも会いたいって言ってくれるきみ Bb C
たまに照れるようなこというきみも F G
全部 そう、ぜんぶだいすきだよ F G
きみのことずっと思ってるよ C D
今日も明日もこれからもずっと Bm Em
きみの笑顔をみたいから Am Bm
ほら どんな時でも C D
僕がそばにいるよ C D
ずっと仲良しでいようね Bm Em
ずっとだいすきだよ Am Bm
ずっとそばにいてね C D
ずっとそばにいるよ C D
ずっとあいしてる Bm Em Am Bm C D
サヤちゃんは、聴きながら泣いていた。
「ありがとうございました。あ、この場を借りてサヤちゃんにひとつ謝りたくて…」
サヤちゃんがなぜか、急にステージに上がってきた。
「サヤちゃん、ど、どうしたの?」
「もぉ!もぉ!こんなの反則じゃん…」
「あ、うん。サヤちゃん、ごめんね。素直に謝れなくて」
サヤちゃんが抱きついてきた。
「あ、えーと。ずっと一緒に…いてください」
サヤちゃんが僕のほうに顔を向けて、泣きながら笑った。
「シンくん、私もずっと一緒にいたい。あいしてるよ」
サヤちゃんを強く抱きしめた。
‐シンくん、いっぱい、いっぱい、あいしてる
『僕も。サヤちゃんのこと、ずっと愛してる』
心の声を聞くことはとても辛い。
でもね、たまにはそれが
人の役に立つことも
あるかもしれない。
完
1ヶ月と少しの間、連載させていただきました『Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜』は、このお話で完結となります。
お話を読んでいただいた方、応援マークや評価をくださった方、感想を書いていただいた、すべての皆様に感謝を申し上げます。
ありがとうございました。




