サプライズゲスト
旅行帰りに喧嘩をしてしまってから、気まずい雰囲気のシンとサヤ。
前回からサヤの視点で物語を見ています。
今回も同じくサヤ視点からどうぞ。
『ライブのチケットなんだけど…サヤちゃん今どこかな?』
『私の部屋だよー』
なんか、シンくんの部屋あたりでバタバタする音がして。それから私の部屋に来た。私の部屋のドアノックする音がする。
「はーい、居てるよ〜」
ゆっくりシンくんがドアをあけた。
「あ、サヤちゃん今日は休みなんだね。えーと、これ言ってたチケット…」
「あー、コウヘイが働いてるとこの…またコウヘイがライブするの?」
「うん、そうなんだ。コウヘイくんとユキちゃんがカホンで参加するらしいんだけど、それで一緒にどうかなって思って」
もしかしたら。シンくんも仲直りしたいって思ってくれてるのかな。
「うん、わかったよ。来週の金曜なら仕事の時間少し調整したら行けると思う」
「あ、よかった。じゃ、じゃあまた連絡するね」
「あっ、シンくん…」
私が言葉を発する前に、シンくんはそそくさと部屋を出ていってしまった。一言謝りたかったのにな…
そういえば、シンくんに出会ってから、こんなに長くちゃんと話さなかったことってないかもしれない。あ、私が仕事してたりで会社に行ってることもあるけど、朝と晩、それにお昼も休憩の時はシンくんに連絡したり、ほぼほぼシンくんの声はずっと聞いてる気がする。
私のせいなんだけど、ここまで話すことが少ないと、やっぱり寂しいな。仕事をしてる時は、それに集中して、寂しさは忘れることもできるんだけど、ふと手があいた時とか、仕事の帰りだったり。あと、今日みたいにお休みの時は尚更だな。
来週のライブの時には、ちゃんと謝ろう。そして、いっぱい話そう。あと、いっぱいくっつこう。いっぱいぎゅーしてほしい。もっと素直になりたいな。
ふと、気づくと涙が少し、こぼれていた。寂しさの涙…じゃないな。シンくんのこと、大好き過ぎてかもしれない。大好き過ぎて流す涙って、なんでこんなに温かいんだろう。
シンくん…だいすきだよ。
それから数日後。
コウヘイとユキちゃんのライブのある当日になった。朝からシンくんはバタバタしていて、コウヘイくんが家に来たり、ユキちゃんもバタバタして、家を出ていった。なんだかみんなバタバタしている。私もそのあと仕事に行った。
お昼休憩の時もシンくんにメールはしたんだけど、なにか忙しくしてそうな感じで、冷たくはないんだけど、一言二言という感じの返信だったので、あまりしつこくメールをするのはやめた。
その日の夕方。シンくんと待ち合わせて、ライブハウスに向かう。
「サヤちゃん、おつかれさま。ごめんね、仕事終わって疲れてるのに、そのままで」
「ううん、ううん。大丈夫だよ、明日は休みだし」
「今日はバンド演奏でなく、前みたいに優しめの弾き語りとか、音楽だけの演奏とかがメインのライブみたいだよ」
「へぇ〜、そうなんだね。金曜日だから、飲み客を意識してのチョイスなのかな〜?まぁゆったりとした音楽聴きながらのほうがいいかも。ガンガンの演奏だと疲れちゃうもんね」
ライブハウスについた。
入り口に今日の参加ミュージシャンの名前のポスターが貼ってある。
たしかコウヘイの出番は1番最後と聞いている。
Forest Snow
と、書いていた。
「これって…」
「そう。コウヘイくんとユキちゃんのユニット名みたいだよ。森永の森と、ユキちゃんの雪で、Forest Snowだってさ」
「単純だけど…なんかすごく洒落た名前になったねー」
「うんうん。あ、でもこれがね。このユニット名になる前、なんだったと思う?」
「えー、なんだろ…?」
「KYコンビ」
「ウソでしょ!?完全にウケ狙いじゃん。そのままにならなくてよかったね~」
「うんうん。マスターにも相談したら、ここのライブハウスは漫才はやってない、って」
そりゃそうでしょ。あ、噂をすればKYコンビが。ユキちゃんが両手を広げたポーズで言う。
「どうも〜、Forest Snowでーす!」
完全にお笑いのノリでしょ。
「サヤさん、シンさん、おつかれっす!今日はありがとうございます」
「こ、コウヘイくんおつかれさまー、きょ、今日は頑張ってね!」
ん。なんかシンくんがコウヘイに対して緊張してる?
「はい!がんばりま…頑張るっす!」
ライブが始まった。今日はコウヘイのユニット含めて3組だけらしい。
はじめはギター弾き語りの人。二組目はウクレレの弾き語りの人、どちらも1人だけの演奏だった。
コウヘイの出番。何曲かPOPSのカバーをして、前にも聞いたコウヘイのオリジナル曲も演奏していた。
ギター弾き語りも前に聞いていいなと思ったんだけど、ユキちゃんのカホンも加わると、やはり曲に重みが出るし、楽しい。ユキちゃんもカホンを叩きながら、歌ったり、コウヘイとハモったりと、なかなかのコンビネーションだった。
「2人とも凄いね〜!ユキちゃんもカホンすごく上手くなってる!」
「そ、そ、そ、そうだね〜。楽しいね〜」
シンくんの様子が明らかにおかしい。
「シンくん?大丈夫?」
「あ、と、と、と、と、トイレに行ってこようかなー、ごめんね、すぐに行ってくるー!」
なんだろう。お腹冷えちゃったのかな?
コウヘイとユキちゃんの演奏が1つ終わっても、シンくんは戻ってこない。お腹痛かったんだ…
「えー。次で最後の曲になるんですけど、急きょサプライズゲストを呼んでいます」
お、新しいメンバーとかかな?コウヘイもそのうちバンドしたいって言ってたもんね。それにしてもシンくん遅いな、もう終わっちゃうよ…
「では、どうぞ〜!」
ユキちゃんの声に合わせて出てきたのは。
「えっ!!」
シンくんだった。
「あ。こ、こ、こんばんは。松岡 心です」
ここでフルネームかーい!




