すれ違う2人
幸せのパンケーキを食べて、サトシ抜きで新婚気分を味わう2人。
ベロベロのサトシを迎えに行き、ひとまず神戸へ行く。
結局、幸せのパンケーキのお店でゆっくりしすぎて、サトシを迎えにいくのが夜の19時になってしまった。
ワインを飲みすぎてふらふらだったサトシだが、せっかくの映えスポットなので、軽く撮影だけして、淡路島から神戸へ移動し、神戸のビジネスホテルで一泊することになった。
「シンくん、もう飲めないよ〜、勘弁してぇ〜…むにゃむにゃ」
こんな漫画みたいなセリフを聞くことになるとは思わなかった。というか、結局神戸の夜景は撮影できずダウンしてしまってるサトシ。まぁいいんだけどねー…こういう時は普段すごく頼りになるサトシがなんか子供みたいに見えてくる。代わりに2人のスマホでいくらかは撮影はしておいた。
「シンくん、パパと2人で大丈夫?ごめんね押し付けちゃって。でも1人でいると暴走しそうだから、危ないもんね」
心配してくれるサヤちゃん。ビジネスホテルの部屋は僕とサトシのツインと、サヤちゃんは別の部屋にしてもらっている。
「うんうん、大丈夫だよ。明日は朝から出て、帰る感じでいいかな。無理せず交代で運転して帰ろうね」
「うん、わかったよー、パパうるさいかもだけど、なるべくゆっくり寝てね。シンくんおやすみなさい」
「サヤちゃん、おやすみ」
次の日の朝。
「うぅ…頭が割れるように痛い…ワイン恐るべし」
僕はそれでも飲み続けるサトシのほうが恐ろしいよ…二日酔いのサトシに運転させるのは危ないので、僕とサヤちゃんで交互に運転することにした。
サトシは後部座席で寝かせて、前に2人で座る。
「旅館で何日もゆっくり、っていうわけじゃなかったからバタバタしたかもだけど、楽しかったね〜旅行」
「うんっ、すごく楽しかったよ。はじめのシンくんの伯父さんにはびっくりしたよね〜。変なオジサンかと思っちゃったよ」
「あの姿は、変なオジサンにしか見えないよね。
でも、割と話すと普通にしっかりしてて、なんか妙な違和感があったよ」
「わかる〜、ああいう変な見た目で、話すことしっかりしてたら、余計にちゃんとして見える錯覚みたいなの、あるよね」
シュウジは確かに、わざとふざけてるようなそんなところはあった。2人で話した時も少し教えてくれたが、きっと色々と大変なことや、辛かったこともあったに違いない。
「まぁ、ああいう人って、つかみどころはないと言うか…ずーっと一緒にいると疲れそうな気がするよ」
「私は、シンくんと一緒だと、ずーっと疲れないかも。シンくんは?」
「あっ、う、うんうん。僕もサヤちゃんと一緒だといつも楽しいよ」
たまにサヤちゃんが急に聞いてくる質問に、ドキッとする時がある。普通に落ち着いた時に聞いてくれたら、ちゃんと答えれるんだけど、サヤちゃんのそういう質問は何故か唐突なのだ。もしかしたら、何かのトラップなのかと警戒してしまう。そんな僕のドキドキには気づく素振りもなく、サヤちゃんは上機嫌だった。
「あ、シンくん、帰り道の暇つぶしに、あなたの好きなとこ、こんなとこゲームしようよ〜!」
え、なにそのゲーム。はじめて聞いたんだけど…嫌な予感しかしないんだけど…
「え、あなたの好きなとこ、こんなとこゲームって…なに?」
「私はシンくんの好きなところを言ってぇ〜、シンくんは私の好きなところを言うの」
もしかして、サヤちゃんのオリジナルゲームだろうか…
「へ、へぇ〜、楽しそうだね〜。順番に言っていくのかな?」
すでにドキドキが始まってきた…これはなんか危ない予感がするぞ〜。
「うんうん、古今東西みたいに順番に言っていくんだよ。テンポよく、ぱんぱんっ、◯◯!って言わないとダメだよ〜」
更に難易度があがった。
「じゃあ私からいくね〜、あなたの好きなとこ、こんなとこ!ぱんぱんっ、カッコいい顔!」
なんかはじめに歌うのか…それに手拍子も声で言うんだ…
「ぱんぱんっ、かわいい顔」
「やだ〜、シンくんったら。ぱんぱんっ、スラッとしてる所!」
「ぱんぱんっ、スリムでスタイルいいところ」
「やだ〜、シンくんのえっち〜!ぱんぱんっ、優しいところ」
「ぱんぱんっ、面倒見のいいところ」
「いやー、それほどでも。ぱんぱんっ、私のことをぎゅーしてくれるところ!」
「ぱんぱんっ、強いところ」
「あぁ?」
一瞬サヤちゃんの声のトーンが低くなった…
「私、強いかな…?」
なんかわからないけど、地雷を踏んだようだ。
「え、えーと。その力が強いっていうのじゃなくてね、芯の強いみたいな感じだよ…」
「あっ、そかそか。そういう強いもあるもんね。ぱんぱんっ、気づかいをすごくしてくれるところ」
「ぱんぱんっ、えーと、勝ち気なところ…」
「勝ち気?」
だいぶ雲行きが怪しくなってきた。
「あ、えーと。勝ち気っていうか、いつも明るいところかな…」
「明るいと勝ち気は全然違うじゃん!なんかシンくん感じ悪い…」
「そんなことないよ…」
なんか僕だけが悪者みたいに言われるのも、少し嫌だった。普段なら、何か話を変えたり、僕から謝ったりするんだけど、今回はなんか謝りたくなかったんだ。運転しながらだから余計にだったのかもしれない。
結局そのあと、話がこじれたまま、話し出すきっかけを失ってしまい、まぁまぁの長時間、無言の状態が続いた。
「あー、よく寝たわ〜。あれ、2人で運転してくれてたの?悪かったね〜」
最悪のタイミングでサトシが起きる。
「あれ、どしたの2人とも。運転疲れたかな?そろそろ俺が変わろうか?」
「大丈夫です!」
「パパは黙ってて!」
僕とサヤちゃんが同時に言う。
「え…なんか2人とも怒ってる…?」
僕がきっと悪かったんだ。もちろんサヤちゃんの無茶振りもあるんだけど、僕はやっぱこういう時でも、とっさにサヤちゃんが喜ぶようなことが出ないんだよな。決して何も思っていないわけじゃなくて。ただ、すぐに出てこないだけなんだよ。こういう時に、素直にごめんね、って言えたらどんなに楽か。でも、僕は結局小さい頃からひねくれて育ってるのもあって、僕が悪くない!って思ってる時に、気楽に謝ったりができないんだよな…
ただ、これは僕だけでなく、きっとサヤちゃんも同じような感じなのかもしれない。2人して意地張って、謝れない状態って、なんか辛いな…せっかくの楽しい旅行なのに。
結局帰りまでずっと口数は少ないままだった。
休憩なしで高速をぶっ飛ばして、お昼過ぎくらいに練馬に着いた。ユキちゃんと、コウヘイくんが自宅で迎えてくれた。
「みんなおかえりなさーい!楽しかったかな?あれ…」
「旅行は楽しかったよ〜、はい、ユキちゃん、コウヘイくんお土産ね。あ、この2人はちょっとそっとしておいてあげて。なんか夫婦喧嘩らしいわ…」
夫婦じゃないって!
「はーい、わかりました〜!お土産ありがとうございます」
結局この日は、サヤちゃんに話しかけるきっかけを失ってしまい、そのまま床に就いた。こんな長い間、険悪ムードになるのって、初めてかもしれない。
明日には仲直りできるかな…




